LCCOは室温において、鉄と同程度の最大のスピン熱伝導率をc軸方向にのみ示すほか、ナノシート化にあたって好都合なシート構造を持つことが特徴とされているため、LCCOの微結晶粉末が合成され、その粉末と10種類近くの酸性・中性・アルカリ性水溶液との反応性と、反応生成物がナノシートを含むかどうかの調査が行われた。

その結果、アルカリ性の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いることで、厚さ3nm以下の短冊型シート状物質の作製に成功したとするほか、透過型電子顕微鏡による構造の分析から、同物質はLCCOのナノシートであると結論付けられたとする。

  • LCCOの層状構造の模式図

    (左)LCCOの層状構造(単位格子)の模式図。(右)LCCOナノシートの透過型電子顕微鏡像 (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、今回の研究では、なぜ厚さ1.5nmまたは3nmほどのナノシートが形成されるのかなど、形成機構の完全な解明には至らなかったというが、そのヒントは得られたとする。今回の研究では、LCCO微結晶粉末のほかに、数mm角の比較的大きな単結晶試料を機械研磨することでも、厚さ100nm程度の短冊形シート状物質を剥離形成することに成功しており、このようなLCCOの持つ容易な剥離特性が、アルカリ溶液との化学反応によって促進されたことがナノシート形成の一因と考えられるとしている。

  • 原子間力顕微鏡観察

    LCCO粉末とNaOH水溶液(濃度5mol/L)の反応濾過物の原子間力顕微鏡観察。(a)形態観察像。(b)シート状物質の厚さ分布 (出所:東北大プレスリリースPDF)

LCCOのようなスピン熱伝導物質は、ラマン分光においてtwo-magnonピークと呼ばれるマグノン由来の特徴的な幅広いピークを示すことが知られているが、今回のナノシートでもその観察に成功したという。これはナノシートになっても、マグノンによる熱輸送路が保たれていることを示す重要な結果と考えられると研究チームでは説明する。

  • 機械研磨したLCCO単結晶(ca面)の偏光顕微鏡像。層状剥離した短冊型シートが研磨表面に付着している

    機械研磨したLCCO単結晶(ca面)の偏光顕微鏡像。層状剥離した短冊型シートが研磨表面に付着している (出所:東北大プレスリリースPDF)

なお、スピン熱伝導物質の特徴である異方的な高熱伝導性とその制御性を最大限に活かせる形態がナノシートだという。研究チームは、すでに半導体シリコンなどの基板にLCCOを成膜する技術を開発済みだが、今回の成果によって基板なしでの自立したシート(膜)形成が可能になることから、これによりほかの物質との複合化も容易になり、熱伝導可変材料の作製など、応用の幅が広がることが期待されるとしている。