Sgr dSphのガンマ線信号の起源には、次の2つの可能性が考えられている。1つが銀河の基本構造といわれる「ダークマターハロー」におけるダークマターの対消滅によるもので、もう1つがミリ秒パルサーの高エネルギー放出の可能性であるという。そして観測的にガンマ線の形状が後者であることが突き止められたという。

  • 天の川銀河の小さな衛星銀河であるいて座矮小楕円銀河

    天の川銀河の小さな衛星銀河(左下の緑の球)であるいて座矮小楕円銀河は、ガンマ線の巨大なフェルミ・バブル(天の川銀河の上下の紫の領域)を通して地球から観測されている。いて座矮小楕円銀河はダークマターで満たされているが、これが観測された発光の原因である可能性は低いという (C)Kavli IPMU (出所:Kavli IPMU Webサイト)

ミリ秒パルサーは、自転周期が1~10ミリ秒という超高速自転し、強大な磁場を発生している中性子星とされる。連星系を構成しており、極度な回転エネルギーの結果、粒子を吹き出している。この吹き出された粒子のうちの電子は、宇宙マイクロ波背景放射の低エネルギー光子と衝突し、高エネルギーのガンマ線に叩き上げられることがわかっている。

つまり、観測されたガンマ線信号は、ミリ秒パルサーの磁気圏放射と組み合わさって、矮小銀河のミリ秒パルサー集団から入射した高エネルギー電子・陽電子対による宇宙マイクロ波背景光子の逆コンプトン散乱によって説明できることが示されたこととなる。

  • GAIA宇宙望遠鏡で観測されたRR Lyrae星のマップにフェルミ・バブルのガンマ線画像が重ねられた図

    GAIA宇宙望遠鏡で観測されたRR Lyrae星のマップ(赤)にフェルミ・バブルのガンマ線画像(青)が重ねられた図。いて座矮小楕円銀河の形と方向は、フェルミ・バブルの南側にあるガンマ線の明るい下部構造である「フェルミ・バブルのコクーン」の形と完全に一致している。これは、フェルミのコクーンが、地球から見てフェルミ・バブルの奥にある「いて座」で起きているエネルギー的な過程に起因していることを示す強い証拠となるという (C)Crocker, Macias, Mackey, Krumholz, Ando, Horiuchi et al. (2022) (出所:Kavli IPMU Webサイト)

Sgr dSphの星々は、天の川銀河やアンドロメダ銀河のバルジよりも若く、金属に乏しい古い種族IIの星であることが確認されている。金属に乏しい星では、質量あたりのミリ秒パルサーの数が多くなるとも予想されるという。Sgr dSphのガンマ線光度は、このような環境依存性を考慮した理論的な予測や、ほかのガンマ線放出星団の観測結果と完全に一致すると研究チームでは説明しており、恒星集団合成モデルに基づいて、Sgr dSphのガンマ線輝度はおよそ650個のミリ秒パルサーによって作られたと推定されたとする。

なお、今回の発見は、ダークマター信号に対し相対的にミリ秒パルサー信号が弱いと予想されていたことから、ダークマター探索の代表的ターゲットとなっている矮小銀河に、さらなる焦点を当てることを強く示唆したとしているほか、ミリ秒パルサーの寄与とその恒星集団の年齢や金属量への依存性のモデル化が発展することが期待され、このようなモデリングは、将来のダークマター消滅探索のための最も有望なターゲットを特定するために重要だとしている。