理化学研究所(理研)と青山学院大学(青学)は10月5日、2020年3月に報告された新天体「Swift J1818.0-1607」が、これまでに20天体ほどしか見つかっていない中性子星の一種で、強い磁場を持つ「マグネター」であることを突き止めたと発表した。また電波パルサーの特徴も持つなど、中性子星研究を進展させるカギとなる天体であることも合わせて発表された。

  • マグネター

    宇宙最強の強磁場を持つ中性子星の一種「マグネター」の想像図 (出所:理研Webサイト)

同成果は、理研開拓研究本部榎戸極限自然現象理研白眉研究チームのフー・チンピン客員研究員(京都大学外国人特別研究員)、同・榎戸輝揚チームリーダー、イスタンブール大学のトルガ・ガーバー教授、同・ベステ・ベギカースラン学部4年生、青学理工学部物理・数理学科の坂本貴紀教授らの研究チームによるもの。詳細は、天体物理学雑誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

太陽質量の8倍以上の恒星が超新星爆発を起こした後に残るのが、ブラックホールもしくは中性子星だ。ブラックホールは事象の地平面を越えてしまうと光さえ脱出できない強大な重力で知られるが、中性子星はそれに次ぐ強大な重力を有する。中性子星は太陽質量の1.4倍もの質量が、半径がわずか12km(太陽の直径は70万km弱)の中に押し込められた超高密度天体であり、陽子が陽子のままでいられず、電子を吸収して中性子となってしまうほどの圧力であり、それにより大部分が中性子によって構成されている。

中性子星はこれまで天の川銀河を中心に約2800天体が発見されており、観測的な特徴による区別で複数の「種族」に分類されている。例えば、中性子星の大半は高速自転に伴って電磁波を規則正しく一定間隔で放出する「電波パルサー」(単にパルサーとも)に分類される。さらに、強い磁場を持つ場合は「強磁場パルサー」、周期がミリ秒の速さの「ミリ秒パルサー」、単独(連星でない)にも関わらずX線を放出するパルサー「XINS(X-ray Isolated Neutron Stars)」、連星系の「電波パルサー」、軟X線点源の「CCO(Compact Central ObjectもしくはCentral Compact Object:小型中心(中心小型)天体)」などがある。

こうした中、中性子の中で最も強い磁場を持つのが「マグネター」だ。その表面磁場は、100億~1000億テスラにも達する。地球の地磁気は50マイクロテスラほどで、磁場が強いことで知られる太陽の黒点ですら0.1テスラほど。それらと比較すれば、マグネターの磁場がどれだけ強力かがわかる。マグネターにおいては、その強い磁場のため、磁場中における光子の自発分裂や真空の複屈折(何も光を屈折させるもののないはずの真空中で屈折が起きる現象)など、地上では観測できない現象が起きていると考えられている。

またマグネターは自転周期が2~12秒ほどで、ほかの中性子星よりも自転が遅いことも特徴だ。そのため、星の内部や周辺に蓄えた磁気エネルギーを解放して輝いており、回転エネルギーで光る通常の電波パルサーとは異なるエネルギー源を持っていると推測されている。またマグネターは種類としてX線で観測すると常に明るいタイプと、突発的に明るくなるタイプがあることもわかっている。ただし総数自体は少なくて、これまで20天体ほどしか発見されていなかった。

NASAの通称「スウィフト衛星」(正式名称「The Neil Gehrels Swift Observatory」)は、「ガンマ線バースト現象」の解明を目的として、2004年に打ち上げられた宇宙望遠鏡だ。バースト現象を検出するための検出器やX線での撮像や分光観測を行える装置などを備える。そのスウィフト衛星が2020年3月12日、継続時間10ミリ秒ほどのX線によるバースト現象を検出し、その到来した方向に新天体「Swift J1818.0-1607」を発見した。なおガンマ線とX線の違いは、原子核内部が起源のものをガンマ線、そうでないものがX線と呼ばれている。どちらもエネルギーが高く、波長の短い電磁波のことであり、エネルギーが同じで起源がわからない場合は区別をつけられない。

その知らせを受けた国際共同研究チームは、発見から4時間後には、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されたX線望遠鏡「NICER」(正式名称「Neutron star Interior Composition ExploreR」)を用いて観測を開始した。NICERは、中性子星の質量と半径を精密に測定し、中性子内部の状態方程式を観測的に解明するプロジェクトのために、2017年にISSに取り付けられたX線望遠鏡である。

その結果、この新しいX線源からは1.36秒の周期的な信号が検出され、さらに観測が継続されたところ、3月25日に周期変化率の測定も報告された。それらを組み合わせた結果、表面磁場の強さが270億テスラと見積もられ、「Swift J1818.0-1607」がマグネターであることが突き止められたのである。

そして「Swift J1818.0-1607」は、これまで知られている古典的なマグネターの中で最も自転が速く、高速で回転していることも判明。さらに、一般にマグネターが電波パルスを出すことは希だが、この新天体からは珍しいことに電波の信号も検出され、その電波でも同様の周期性が確認されたという。

  • マグネター

    中性子星の自転周期と自転周期の変化率と、中性子の分類。2020年3月12日にスウィフト衛星によって発見された「Swift J1818.0-1607」は中性子星であり、それもマグネターであることが確認された (出所:理研Webサイト)

その後、「Swift J1818.0-1607」のX線のスペクトルやパルス周期に関するモニタリング観測が、50日間にわたって行われた。その結果、「Swift J1818.0-1607」がX線で増光を始めてから8日後と14日後にそれぞれ、自転の周期が急激に変化する「グリッチ」と呼ばれる現象が検出された。グリッチは、中性子星の内部状態が変化することで発生すると考えられており、今後、マグネターの内部を理解する上で重要な観測データになるという。また、この2回のグリッチの強さは、知られているマグネターのグリッチの中でも強力で、その発生間隔も短いことから、「Swift J1818.0-1607」の活動性が高い時期に観測されたと考えられるとした。

さらに、「Swift J1818.0-1607」の推定年齢が、420年ととても若いことも判明。生まれて間もないマグネターが天の川銀河の中に隠れていたことになる。さらに、「Swift J1818.0-1607」のX線は徐々に暗くなってきており、50日間の観測で50%ほどX線の明るさ(フラックス)が減少したことも確認された。この天体のX線が静穏期にどの程度の明るさなのかはまだ確認されていないが、今後、再び眠りにつくのではないかと考えられるという。

  • マグネター

    「Swift J1818.0-1607」のX線フラックスと自転周期と周期変化率の変化上段はX線フラックス、中段は自転周期、下段は周期変化率の変化を示したグラフ。X線フラックスは約50日で50%ほど減少している。左からひとつ目とふたつ目の青破線は、8日後と14日後に観測された自転周期の急激な変化(グリッチ)に対応 (出所:理研Webサイト)

「Swift J1818.0-1607」はその観測的特徴から、電波パルサーの特徴のいくつかも併せ持つ。また、強磁場パルサーの「PSR J1846-0258」や「PSR J1119-6127」などと類似しているとも考えられている。X線での明るさ(X線光度)と星の回転で放出されるエネルギー(回転エネルギーの放出率)の比較を見ると、「Swift J1818.0-1607」はマグネターとして振る舞いつつも、これまでに知られていた電波パルサーの特徴をも備えていることが示唆されるという。今後、中性子星の進化を理解する上で、異なる種族同士を結びつけるカギとなる天体であると考えられるとしている。

  • マグネター

    中性子星の異なる種族の比較。縦軸はX線光度、横軸は星の回転エネルギーの放出率。知られているマグネターは黄線、古典的な回転駆動型パルサーは緑四角、また回転駆動型パルサーの中でマグネターのようなX線バーストを示した2天体(「PSR J1846-0258」と「PSR J1119-6127」)は青線で、「Swift J1818.0-1607」は赤線で示されている (出所:理研Webサイト)

天文学の大きなテーマのひとつとして、宇宙論的な距離から到来する謎の「高速電波バースト」(FRB:Fast Radio Burst)という現象がある。ミリ秒のタイムスケールを持ち、電波で極めて明るい突発バースト現象だ。その起源はわかっておらず、近年の天文学でのホットな研究対象になっている。最近の研究で、このFRBに極めてよく似た現象が天の川銀河内のマグネター「SGR 1935+2154」から検出された。そのため、マグネターはFRBを解明するためのカギになると考えられるようになってきているという。

さらに、X線望遠鏡NICERによる天体観測では、X線と電波の同時観測にも着目しており、今後、多波長観測による中性子星の研究の進展が期待できるとしている。