今回の研究で用いられた試料は、大同特殊鋼製の最新となる「ネオジム焼結磁石」で、この材料では保磁力を高めるため、結晶粒子サイズが約1μmと、一般的なネオジム焼結磁石の1/5程度にまで微細化されているのが特徴だという。さらに、テルビウム-銅合金を用いた粒界拡散処理が施されており、それらによって保磁力が一般的なネオジム磁石の約2倍となる2.7Tとなっているという。
この磁石試料が、集束イオンビームにより辺が18μmの角柱形状に加工され、磁気CT測定が実施された。一般的なX線CTスキャンと同様に、試料を回転させながら磁気情報に関する2次元投影像を取得し、再構成計算により3次元の磁区構造が得られたという。
加えて、集束イオンビームを備えた走査型電子顕微鏡を用い、同じ試料の3次元微細組織像(結晶粒子とそれを囲む物質からなる組織構造)が取得され、同一視野領域に対する磁区構造と微細組織像の3次元像を得ることにも成功。これにより、磁区構造の変化と微細組織との対応を詳細に調べることが可能となったという。
最終的に、磁場を変えながら順次この測定が行われ、磁石内部の磁区構造が磁気ヒステリシスに沿ってどのように変化するのか、3次元での可視化が実現したという。
また、磁区構造の変化と微細組織との相関が詳細に調べられたところ、磁区形成の起点となる場所を特定することに成功するなど、今後の保磁力メカニズム解明につながる成果が得られたとする。
なお、今回の観察結果を、マイクロ磁気シミュレーションにおいて現実の磁石材料で測定されたモデルとして活用することで、計算精度の向上が期待されると研究チームでは説明しているほか、実験・計算の両面から超高性能磁石材料の開発につながることも期待されるとしている。
また、今回の研究では、先端永久磁石材料の磁気ヒステリシスに対する磁区構造の変化を3次元的に可視化することに成功したものの、一方でいくつかの課題も明らかになったとしており、中でも、今回得られた磁気CT画像には多くのノイズが含まれており、より詳細な解析のためには画像ノイズの低減が必要だとのことで、今後、信号強度比を増大させることで、より鮮明な3次元磁区構造像の取得を目指すとしている。
また、3次元データは従来の2次元測定に比べて扱うデータ量が格段に多く、今後はAI活用による自動解析手法の構築なども進める予定としており、これらを通じて永久磁石材料の保磁力メカニズムの解明、さらにより一層の高性能磁石の開発に貢献することを目標としているとしている。