実際に、この橋かけジスチリルベンゼンの光物理的性質が調べられたところ、溶液中、凝集状態、固体状態、フィルムに分散した状態のすべてでほぼ同じ蛍光スペクトルを示し、さらに固体状態で高い発光量子収率(84%以上)を示すことから、モノマー発光を実現していることが判明したとする。

また、単結晶X線構造解析を行ったところ、モノマー発光する橋かけジスチリルベンゼンは、分子間で電子的な相互作用を起こさない、π平面が交互にねじれた結晶構造であることが確かめられたとする。

一方、橋かけ構造のない通常のジスチリルベンゼンの場合には、電子的相互作用が起こるπ平面の積層が起こり、固体状態になると発光波長が溶液中と比べて大きく長波長にシフトしたという。しかし、結晶における発光部位(ジスチリルベンゼン)の占有体積は、橋かけ構造の有無に関わらずほぼ同じだったとする。

これらのことから、橋かけジスチリルベンゼンは、機械的刺激(応力)を加えても発光色が変化しないことが確認されたことから、結晶、固体、フィルム分散などの加工方法を選ばずに、一定のパフォーマンスを発揮することができるとした。

  • 分子間に電子的相互作用のあるジスチリルベンゼンの結晶構造

    (上)分子間に電子的相互作用のあるジスチリルベンゼンの結晶構造。(下)相互作用のない橋かけジスチリルベンゼンの結晶構造 (出所:東工大プレスリリースPDF)

固体状態でも性能が低下することなく、望む発光色を設計できる今回の技術は、発光素子や材料・生体組織の分析などへの応用をすることで、性能向上や分析精度の向上につながり、特に医療分野での発展に貢献することが考えられると研究チームでは説明するほか、今回の橋かけ構造は、今まででは困難だった、電子・光機能を有する有機π電子系分子を基盤としたデバイスの実用化にもつながる技術ともしている。

なお、今後については、今回の手法を用いて、多彩な発光色を持つモノマー発光性色素の開発を目指すとするほか、橋かけを施すπ電子系のスコープを拡大すると、これまでπ電子系骨格単独では得ることができなかった新しい結晶形が得られることが考えられるとしている。また、求められる機能材料に合わせた有機π電子系骨格と橋かけ構造の組み合わせで、電子・光機能を持つ新素材を生み出したいともしている。