東京工業大学(東工大)は7月29日、発光性の有機π電子系分子の分子内に「橋かけ構造」を構築することにより、1分子で超高効率発光するを作製することに成功したと発表した。

同成果は、東工大 物質理工学院 応用化学系の下村祥通大学院生、同・小西玄一准教授、九州大学 先導物質化学研究所 井川和宣助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州15か国16の化学団体の協会Chemistry Europeが刊行する化学全般を扱う学術誌「Chemistry-A European Journal」に掲載された。

固体状態で強く発光する蛍光色素の設計において重要なのは、固体状態(バルクまたは結晶)で、望む発光色と高い発光効率の両方を実現することとされており、その方法の1つとして、1分子が単独で発光する「モノマー発光」の利用がある。

モノマー発光は、溶液中と固体状態の発光色(発光スペクトル)が酷似しており、分子同士の相互作用による消光が少ないという特徴がある。固体状態でモノマー発光を実現するには、色素をかさ高い分子で修飾して遮蔽するのが一般的だが、この方法では応用段階で色素密度や機能の低下、加工の難しさなどのさまざまな問題が生じてしまうため、色素に小さな官能基を導入して分子間相互作用を抑制し、モノマー発光を実現する新たな分子設計戦略が求められているという。

研究チームはこれまでの研究で、溶液中で消光し、固体状態で強い発光を示す凝集誘起発光(AIE)色素「橋かけスチルベン」を開発済みだが、モデルとした「橋かけフェニルスチルベン」は、固体にすると分子が平面で積層し、その蛍光波長は溶液中より長波長化してしまっていたという。

しかし結晶構造を眺めてみると、π電子系骨格をうまく選べば、小さな橋かけ構造を使って、分子を平面で積層させずにねじらせて配置できる可能性があることがわかったことから、その候補の1つとして、青色発光素子として知られている「ジスチリルベンゼン」が浮かび上がったとする。

そこで研究チームは今回の研究では、ジスチリルベンゼンを基本骨格とし、その2つの二重結合の周囲を短い炭化水素鎖でゆるく結合し、小さな環を導入した7員環構造の「橋かけジスチリルベンゼン」を合成することにしたという。