皆さんこんにちは。ライターのだいせんせいこと工藤寛顕です。最近(執筆時点)はコロナ禍の色々な制限が少しずつ緩和され、外出を楽しむ人も増えてきたように感じますが、まだまだ予断を許さない状況に変わりはありません。僕のようにインドアな人間は、依然として長いおうち時間を過ごしています。少し前に運良くPlayStation 5(PS5)を購入できたこともあって、最近はもっぱら自宅でゲームを楽しむ毎日です。

  • HT-A9のスピーカー(中央右寄り)とコントロールボックス(右端、テレビ台の上)、PlayStation 5(中央下)。中央が工藤寛顕氏

ところで、ゲーマーや映画好きが一度は夢見るものといえば、やはりホームシアターではないでしょうか。自宅に大きな画面とサラウンドのスピーカーシステムを構え、大迫力の映像と音声に没入したい……。しかし予算や住宅事情などの兼ね合いもありますから、実現できるのはひと握りの方々のみ。加えて、環境を構築するためのオーディオ&ビジュアルに対する知識も必要とあっては、ハードルの高さは否めません。ああ、気軽に設置するだけでカンタンにサラウンドのスピーカー環境が楽しめる製品があればいいのに……。

そんな理想を叶えてくれる製品が、なんと8月7日にソニーから発売されています(前置きが長い)。その名も「HT-A9」!

  • HT-A9。左の4本がスピーカー本体、右端は同梱のコントロールボックス

最大12個ものファントム(仮想)スピーカーを生成し、360度のサラウンド空間を楽しめるホームシアターシステムとのことですが、いったいどのような製品なのでしょうか。今回はUltra HD Blu-ray(UHD BD)プレーヤーやPS5との組み合わせで映画やゲームを楽しみつつ、その魅力に迫ります。

  • ソニーの視聴スペースで説明を受ける工藤氏(右端)

  • 最大12個のファントム(仮想)スピーカーを生成し、360度のサラウンド空間を作り出す

ポン置きするだけで楽しめるサラウンドスピーカー!?

HT-A9は4本のスピーカーと小型のコントロールボックスで構成されています。それぞれのスピーカーはワイヤレスで接続されるため、従来のサラウンド環境のようにAVアンプとスピーカーをケーブルでつなぐ必要がなく、室内に自由に配置できるのが特徴。配線に悩まされる心配もありません。

  • HT-A9の4本のスピーカーは、左右の位置や高さをそろえずバラバラに設置しても理想的なサラウンド再生を実現する(スピーカーごとに別途電源ケーブルが必要)

各スピーカーは両手で持てる程度のサイズ感で、スピーカー環境になじみのない方はやや大きく見えるかもしれませんが、いわゆるブックシェルフ型と考えると相応にコンパクト。しかも、その本体内にワイヤレスユニットも組み込まれているというのだから驚きです。

ネジ穴やケーブルの接続部をなるべく見せない設計となっており、スッキリとしたデザインはインテリアとしても合わせやすそう。「ホームシアターシステム」と聞くと専用のシアタールームのようなものを思い浮かべてしまいますが、これならリビングなんかにも気軽に置けそうです。HT-A9の詳細については、製品発表時のニュース記事も合わせてお読みください。

  • HT-A9の開発陣が製品の特徴を紹介。左から、ソニー ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部ホーム商品技術部の酒井芳将氏、ホーム商品企画部の鈴木真樹氏、ホーム商品設計部の堀内雅彦氏。酒井氏は設計(音響設計)、堀内氏は設計(プロジェクトリーダー)を担当している。右は工藤氏

映画/ライブ/アニメでHT-A9のサウンドに浸る

ということで、そんなHT-A9をさっそく体験。今回はソニーの視聴スペースにて、大画面の「BRAVIA XR」とともに堪能しました。まずはUHD BDプレーヤーと接続し、映画でその実力をチェックします。

  • HT-A9をBRAVIA XRにつないでサラウンド体験

なお、HT-A9にはワイヤレスサブウーファーを追加できるとのことで、HT-A9と同時に登場した別売のサブウーファー「SA-SW5」と組み合わせていただきました。

  • 別売のサブウーファー「SA-SW5」(中央下)

はじめに「ボヘミアン・ラプソディ」終盤のライブエイドのシーンを再生。ウェンブリー・スタジアムの広大な力強い音響と、何万人もの観客に囲まれるような圧倒的な迫力に、最初からド肝を抜かれてしまいました。

HT-A9は最大12個ものファントムスピーカーを生成するということですが、その言葉にいつわりはなく、サブウーファーの沈み込むように伝わる深い低域の振動も相まって、まさに360度から音を浴びている感覚です。いわばステレオ環境におけるファントムセンターをあらゆる方向に作るようなイメージでしょうか。

実際のスピーカーとファントムスピーカーの中間あたりの高さに音場の中心があるような感じで、上下方向にも広く感じられ、かつ定位感もきわめてビシッと定まっています。なんとなくこっちの方向から……という、あいまいな感じは一切ありません。

  • 4本のスピーカー(赤丸で囲ったところ)の配置はこんな感じ。写真ではかなり広く見えるが、実際のスピーカーと人の間の距離は意外と近く感じられる

それでは、実際のライブ映像ではどうでしょう? 僕が愛してやまないアイドルマスターシリーズより、屈指の名盤として知られるBlu-ray『THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに! 120624』を見てみます。

  • ライブ盤『THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに! 120624』を持ち込んで再生

最初の曲が始まる前の会場を映したところから、すでに自宅でのBD再生とはケタ違いの没入感です。待ちきれないと言わんばかりに高揚したざわめきに包まれる感覚は、ライブビューイングのそれと遜色ありません。そして壇上のキャストにライトが当たり、1曲目「READY!!」が流れると、突如として会場のボルテージは最高潮に。すぐ近くで皆がペンライトを振っているのではないかと思わせるようなパワフルな声援に、リアルなアリーナで流れているような広々とした楽曲が重なり、思わず目に涙がにじんでしまいました(個人的な思い入れのせいかもしれない)。

ワイヤレススピーカーの設置で推奨される面積は3~4m四方とやや狭めで、実際に今回体験させていただいた環境も「結構すぐそばに置くんだな」と感じるほどに近めだったのですが、そのスペース感からは想像もつかないサウンドです。もうふた回りくらい広い部屋で、遠くにスピーカーが置かれているような錯覚を感じるほどで、再生中に何度も振り返ってしまいました。

最後にアニメ映画『天気の子』終盤の上空のシーンを再生。薄暗い雨雲の中での縦横無尽の暴風雨、雲を抜けた先の静寂、帆高と陽菜の空中での再会に「グランドエスケープ」がかかる……と、目まぐるしく変化する場面での細やかなサウンド表現を見事に描いてくれました。立体的なSE(サウンドエフェクト)の再現性はもちろんのこと、純粋な楽曲の再生能力も高く、音楽鑑賞用にも優れたパフォーマンスを発揮してくれそうです。

  • 映画『天気の子』のBlu-rayも観てみた

ここでふと気になったので、SA-SW5との接続を解除し、サブウーファーなしの音質をチェックしてみました。当然ながらサブウーファー有りの状態より低域の量感は抑えられるものの、HT-A9単体でも思っていた以上に太く響く低域に驚きました。

迫力を求めたい方にはサブウーファーがあったほうが良いのはもちろんですが、単体だからといって低音がやせて聴こえるような印象はまったくなく、十分に満足感があります。また、個人的に面白いと思ったのは、低音成分に引っ張られないせいか、サブウーファーが無い状態のほうが音場の広がり方がより顕著に感じられたこと。広大な音場表現に集中して楽しみたいという方は、あえてサブウーファーなしの環境をベストとして見据えるのも大いにアリかもしれません。

PS5×HT-A9でラチェクラ最新作&“ツシマ”を遊ぶ

続いてはお待ちかね、PS5とHT-A9の組み合わせ! 普段はヘッドホンでプレイしているワンルームゲーマーなので、ここまでのぜいたくな環境でゲームを遊ぶのは初めて。そして、関係者一同に見守られながら遊ぶのも初めてです。

  • PS5とHT-A9を組み合わせて遊んでみる

DualSense ワイヤレスコントローラーを持つ手を震わせながら、まずは『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』をプレイ。同作はPS5における新機能を最大限に生かした作り込みで高い評価を受けているタイトルで、当然ながら3Dオーディオの立体表現にも力が入っているわけですが、はたしてHT-A9との相性やいかに?

  • 『ラチェット&クランク パラレル・トラブル』の冒頭をプレイ
    (C)2021 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Insomniac Games, Inc.

オープニングのヒーローフェスティバル会場にて、ムービーからゲームプレイへのシームレスな変化や、空中に浮かぶステージを飛び移っていくスリル、襲撃する敵の攻撃をかいくぐっての銃撃戦などを立体的に表現してくれるため、月並みな表現ですが、まさにゲームの中に入り込んでしまったかのよう。BRAVIAによる高画質な映像体験や、ハプティックフィードバックによる細かな感触とも相性がよく、序盤からバツグンの没入感でした。

単にサウンドとして迫力があるから優れている! というだけにとどまらず、どの方向から敵が攻撃しているか、などの音源の定位感がシビアに再現されており、モニタリング性能もきわめて優秀。FPS系のタイトルでも活躍してくれそうです。

  • 序盤の銃撃戦の音も立体的に表現
    (C)2021 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Insomniac Games, Inc.

次に『Ghost of Tsushima Director's Cut』をプレイ。冒頭のチュートリアルでは、大きな樹の下で大量の紅葉が舞う中、主人公・境井仁とその伯父である志村との稽古の場面が描かれます。紅葉一枚一枚がカサカサと揺れる小さなサウンド描写が克明で、PS5で強化された絶景のグラフィックと合わさり、その空気感を見事に表現してくれました。

  • 『Ghost of Tsushima Director's Cut』冒頭のチュートリアルをプレイ
    (C)2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

  • 主人公・境井仁とその伯父、志村の稽古の場面。ストーリー仕立てだがゲームのチュートリアルも兼ねている
    (C)2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

同作は重みのある剣術の動きが非常にリアルですが、袴が擦れる音や刀がぶつかる音など、ひとつひとつの所作に説得力を持たせるサウンドの精細さ、解像感の高さを感じさせてくれました。やはりインタラクティブなコンテンツと立体音響の親和性は高く、スタッフの皆様に止めてもらうまで際限なく遊んでしまうところでした。

というか、プレイ体験を何段階もグレードアップされるようなこの環境で、我慢できるわけがありません。危うく「今日からここに住む!」と駄々をこねそうになりましたが、ゲームできたえたメンタルによって無事その場をしのぎました。

僕はどちらのタイトルもプレイしたことはありませんでしたが、わずかなプレイ時間でありながら、それぞれの世界観に引き込まれるのに十分な体験でした。続きが気になって家で購入しても、今回の体験との落差を感じてしまわないか心配です。ああ、家にもこの環境が欲しい……。

  • どちらのゲームタイトルも、初プレイとは思えない手さばきで進めていく工藤氏
    (C)2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

高価だが魅力十分、手軽に極上サラウンドの楽しみを

このように頭を悩ませてしまうのにも理由がありまして。今回紹介したHT-A9は、実売22万円前後と結構現実的で、実際に買えそうなお値段なんです。

もちろん高価なものではありますが、サラウンド環境を構築するためにハイエンドなAVアンプと5台以上のスピーカー、さらにそれらを設置する部屋を確保することを考えれば、4m四方の部屋に置くだけでいいHT-A9のお値段は魅力的に映る人も多いハズ。また、たとえば引っ越し後などの再セッティングも非常にカンタンなので、今後の生活環境が変化していったとしても安心です。

まだまだ不安定な情勢が続きそうですが、お手軽に極上の立体音響を楽しめるHT-A9で、最強のおうち時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

※編注:なお、ソニーではHT-A9について、一部部品の調達に遅れが生じ、製品の供給に時間がかかっていると告知している