10月28日にPreviewということで機材だけご紹介したAlder Lakeこと第12世代Intel Coreプロセッサだが、やっと情報解禁になったので、その性能評価をお届けしたい。

  • 今回評価するのは「Core i9-12900K」と「Core i5-12600K」

    今回評価するのは「Core i9-12900K」と「Core i5-12600K」

評価機材

今回利用したのは、Previewでもご紹介したCore i9-12900KとCore i5-12600Kで、これをROG MAXIMUS Z690 HEROに装着、CPUクーラーはROG RYUJIN II 360を利用、それにT-Force Delta RGB DDR5 16GB×2(DDR5-4800)を装着して利用した。Core i9-12900KのCPU-ZでのCPU表示はこんな具合(Photo01)。L1キャッシュが×16づつ、L2キャッシュが×10づつとなっている表記の理由が今一つ理解できない。Alder Lakeの内部はこんな感じ(Photo02)になっており、なので

L1 Data:8×48KB + 8×48KB
L1 Inst:8×32KB + 8×32KB
Level 2:8×1.25MB + 2×1.25MB

であればまだ理解できるのだが。実際BIOS Setupではそんな表示になっている(Photo03,04)。

  • Photo01: ちなみにCPU-Zはこの原稿を書いてる最中に1.98.0.x64がリリースされたが、キャッシュ周りの表記などは全く変わっていなかったので1.97.0.x64のままで。

  • Photo03: P-Coreの詳細。動作周波数はダイナミックに変化するのであまり意味はない。それよりも不思議なのはL4の存在。勿論今回のAlder Lakeには存在しないが、アーキテクチャ的にL4を搭載するための準備が追加された、ということだろうか?

  • Photo04: E-Coreの場合、4コアで1クラスタとなり、そのクラスタあたりに共有L2が付くという、Tremontと同じ構成が踏襲されるため、L2の数は×2となる。

ちなみにCore i5-12600Kの場合はこんな感じ(Photo05)となった。またCore i9-12900KのClock Treeを見てみるとこんな感じ(Photo06)で、Core #1~#8がP-Core、#9~#15がE-Coreに割り当てられているのが判る。

  • Photo05: Technologyはまだ"10nm"になっているあたりがご愛敬。

  • Photo06: 動作周波数は当然コア毎に異なる。ちなみにUnCoreが4.7GHzで動いている事も判る。

なお、Windowsからは勿論問題なく認識される(Photo07,08)。なお実際に実行してみると、例えばCineBenchの場合、24Threadということで同時に24個のレンダリングが始まるが、よく見ているとさっさと処理を済ませる16個と、のたのたしている8個、という様にグループ分けが出来ているのが面白い(Photo09)。

  • Photo07: 24Threadと認識される。

  • Photo08: こちらは16Thread。ついにCore i5グレードも16Thread時代に。

  • Photo09: E-Coreで動くレンダリングタスクは、明らかにP-Coreよりも処理が遅いので、なかなか見ていて面白い。

ついでにMemoryについて。今回はDDR5-4800 DIMMを利用しているが、CL値は何と40(Photo10)。といってもこれはBase Clockに対しての数字であって、DDR4で言えばCL20相当である。SPDの情報はこんな感じ(Photo11)で、JEDEC標準のDDR5-4800以外に1.35V駆動でDDR5-6000での駆動が可能になっている。

  • Photo10: ChannelがQuadになっているのは、DDR5では64bitで1chではなく、32bitづつに分割してアクセスできるからで、なのでDIMMそのものは従来と同じく2ch 4DIMM Slot構成。ただH/Wから見ると4chに見えるという話である。

  • Photo11: XMP-6000でもCLが40なのはすさまじい。とはいえ、さすがにtRASとかtRCは多少増えているが。

さて、テスト機材であるが表1の様になっている。今回は対抗馬としてCore i5-11600KとCore i5-11900K、それにRyzen 5 5600X/Ryzen 9 5950Xを用意した。OSはAlder Lakeに合わせてWindows 11としている。ちなみにこちらの記事でも触れた様に、KB5006746を当てたうえで、Ryzenに関してはAMDのUEFI CPP2 Driver 3.10.08.506を当てた状態で利用している。

■表1
CPU ・Ryzen 5 5600X
・Ryzen 9 5950X
・Core i5-11600K
・Core i9-11900K
・Core i5-12600K
・Core i9-12900K
M/B ASRock X570 PRO4 ASUS TUF GAMING Z590-PLUS WIFI ASUS ROG MAXIMUS Z690 HERO
BIOS Version 4.20 Version 1017 Version 0237
Memory Micron 16ATF2G64AZ-3G2E1(DDR4-3200 16GB CL22)×2 T-Force Delta RGB DDR5 16GB(DDR5-4800 CL40)×2
Video NVIDIA GeForce RTX 3080 Founder Edition
Driver GeForce Driver 496.13 DCH WHQL
Storage ・Seagate FireCuda 520 512GB(M.2/PCIe 4.0 x4) (Boot)
・WD WD20EARS 2TB(SATA 3.0)(Data)
OS Windows 11 Pro 日本語版 21H2 Build 22000.282+KB5006363

また今回はUL BenchmarksのProcyonを利用しているが、今回のベンチマークの最中にAdobe MAX 2021が開催され、Photoshop/Lightroom Classic/Premire Proなどが軒並みバージョンアップされてしまった。ところがProcyon自体がベンチマーク時点ではこのAdobe Creative Suitesの最新版に対応しておらず、ベンチマークが稼働しなかった。それもあって、今回は

Photoshop v22.5.1
Premier v15.41
Lightroom Classic v11.0
Media Encoder v15.4.1

という、ちょっとだけ古いバージョンを利用しての比較となっている(Procyonそのものも最新版ではなくv2.0.249を利用している。現時点での最新版はv2.0.268.0で、こちらは最新版のCreative Suitesに対応しているのではないかと思う)。

グラフ中の表記は

  • R5 5600X:Ryzen 5 5600X
  • R9 5950X:Ryzen 9 5950X
  • i5-11600K:Core i5-11600K
  • i9-11900K:Core i9-11900K
  • i5-12600K:Core i5-12600K
  • i9-12900K:Core i9-12900K

となっている。また解像度表記は何時もの通り

  • 2K :1920×1080pixel
  • 2.5K:2560×1440pixel
  • 3K :3200×1800pixel
  • 4K :3840×2160pixel

とさせていただく。

◆CineBench R23(グラフ1)

CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench

  • グラフ1

普通はこれを先頭に持ってくることはあまりないのだが、ある意味象徴的な結果になったので、こちらを持ってくることにした。

グラフ1はもう明白で、Single ThreadはもとよりMulti Threadの結果であっても、Ryzen 9 5950Xをやや上回る結果を叩き出しているわけで、特にピーク性能に関して言えば間違いなくRyzenシリーズを上回る性能、と評して良いかと思う。Single Threadは、P-Coreを使う限りにおいては間違いなくRyzen 5000シリーズを明白に上回っており、それどころがCore i5-12600KですらRyzen 9 5950Xを上回っているあたりは、かなり性能の上乗せがなされた、としても良いかと思う。

◆PCMark 10 v2.1.2525(グラフ2~7)

PCMark 10 v2.1.2525
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10

  • グラフ2

ではここから定番ベンチマークを。ということでPCMark 10。グラフ2がOverallだが、もうすべての項目でAlder Lakeが非常に良いスコアを示している。特にApplications BenchmarkでCore i5-12600KがRyzen 9 5950Xを上回るほどである。

  • グラフ3

  • グラフ4

  • グラフ5

  • グラフ6

Applicationsの話は後にして、とりあえずTest Group(グラフ3)を見ると、Essentials/Productivityはともかく、Digital Contents CreationとGamingのばらつきが大きい。Gamingは後で3DMarkの結果で見るとして、Essentials(グラフ4)、Productivity(グラフ5)、Contents Creation(グラフ6)のいずれも、Alder Lakeは全般的に数字が悪くない。Core i9-12900Kはもとより、Core i5-12600Kの数字もかなり良好で、Core i9-11900Kと比較してもそう遜色ない数字が出ているあたりは優秀としか言いようがない。Ryzen系との比較でもこれは言える事だ。

  • グラフ7

Applications(グラフ7)では、性能差が出やすいExcelだけでなく、あまり差が出にくいはずのWordとかPowerpointの結果でも明白にAlder Lake有利である。正直PowerPointのスコアで10000超え、というのは想定していなかった。全般的に極めて優秀な結果、として良いかと思う。

◆Procyon v2.0.249(グラフ8~11)

Procyon v2.0.249
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon

昨年のRocket Lake-Sのレビューで初めてご紹介したUL BenchmarkのProcyonであるが、今年10月にv2.0にアップデート。新たにMicrosoft Officeを利用したワークロードに対応した。PCMark 10のApplication Benchmarkとの違いは、Outlookを開いて予定を確認しながらExcel/Word/Powerpointを同時に稼働させる、より実際のワークロードに近い形でのシナリオになっていることで、その意味ではPCMark 10というよりはSYSMarkに近い感じのベンチマークになっている。勿論従来のPhotoshop/Lightroom Classicを利用したPhoto Editing、それとPremire Proを利用したVideo Editingの2つも健在である。

  • グラフ8

という訳でグラフ8がOverallであるが、もうすべての項目で見事にAlder Lakeが有利という感じになっている。対Ryzenという観点では、Rocket Lake-SベースのCore i5-11600K/Core i9-11900Kとは良い勝負であったRyzen 5 5600X/Ryzen 9 5950Xも、Alder Lakeにはちょっと及ばないというところである。

  • グラフ9

もう少し詳細を、ということでPhoto Editingの詳細(グラフ9)を見ると、差が大きいのはLightroom Classicを利用したBatch Processingの方で、Photoshopを利用したImage Retouchingではそこまで明確な差とは言いにくい。実際生データを見ても、確かにAlder Lakeは高速ではあるが、他を大きく引き離しているわけではなく、すべてのテスト項目(6項目)で少しづつ差をつけているという感じだ。ところがLightroom Classicでは特にPhotoEditingBatchProcessExportという処理で他を圧倒しており、これが決定的に性能差になっている感じだ。

  • グラフ10

Video Editing(グラフ10)では細かいテスト項目が無いので、生データをそのまま示している。4つのテストの所要時間なので、短いほど高速になる訳だが、御覧の通りで全項目共に圧倒的とはいえないまでも確実に高速である。

  • グラフ11

Office Productivity(グラフ11)は全46項目のテスト結果を集約した形だが、特にPowerPointでの他との性能差が端的だし、Excelも結構なものだ。ただこのPowerpointの性能差の殆どが、OfficeProductivityPowerpointExportToPdfという、要するにPDFでのExportの時間で生み出されている。Alder Lake以外は概ね13~14秒を要するのに対し、なぜかAlder Lakeでは2秒ほどで完了しているのだが、実はAlder Lakeでも13秒かかる場合と2秒で済む場合が混在しているという謎の結果になっている。大きな差があるのはここだけで、他の項目は常識的な値のバラつきなあたり、これはテスト側に何か問題があるんじゃないか? という疑いがやや捨てきれないのだが、これを除外して考えてもやはりAlder Lakeにアドバンテージがある事そのものは間違いない。

◆POV-Ray V3.8.2 Beta2(グラフ12)

POV-Ray V3.8.2 Beta2
Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd
http://www.povray.org/

今年7月に最初のβがリリースされたPOV-Ray V3.8。現状の最新リリースはβ2なので、これを試用してみた。ちなみにβ版はこちらから入手できる。

ちなみに以前こちらでも指摘したが、今回もIntelのCPU(Core i5-11600K/i9-11900K/i5-12600K/i9-12900K)の場合にはNoise Functionには"avx2fma3-intel"を利用し、一方でRyzen 5 5600X/Ryzen 9 5950Xでは"avx-generic"となっているので、ややIntel系に有利ではある。

  • グラフ12

結果(グラフ12)を見ると、そのあたりが反映されてかOne CPUでRyzen系が低めなのはともかくとして、All CPUだと特にRyzen 9 5950Xはコア数を生かして猛烈に性能を上げてきているわけだが、Core i9-12900Kはこれを上回る性能を叩き出しているあたりは流石、としか言いようがない。あるいはCore i5-12600K vs Core i9-11900K、同じ16Thread同士とは言っても製品としてのクラスが大きく違うのに、性能ではCore i5-12600Kの方が(One CPUでもAll CPUでも)上、というのは、性能のポジショニング的に色々問題が湧いてきそうである。

◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.23.25(グラフ13)

TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.23.25
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html

  • グラフ13

コア数がリニアに効くベンチマークではあるが、ここではかなりRyzen 9 5950Xが健闘したと思う。それでも辛うじてCore i9-12900Kがこれを退けているあたりは、同じ16コアとは言え構成に差がある事を考えれば、いかにP-Coreの性能が高いか、という話になる。これはCore i9-11900KよりCore i5-12600Kの性能が高い事からも明白である。逆に今回の比較の中で、一番厳しいのがRyzen 5 5600Xというのも、構成を考えれば致しかたない話とはいえ、メインストリーム向けという括りの中では今後厳しい戦いを強いられることになりそうな感じである。

◆Intel oneAPI Math Kernel Library Benchmarks Suite 2021.2.0_109(グラフ14)

Intel oneAPI Math Kernel Library Benchmarks Suite 2021.2.0_109
Intel
https://www.intel.com/content/www/us/en/developer/articles/technical/onemkl-benchmarks-suite.html

久々にIntel MKL(Math Kernel Library)に含まれているLinpackベンチーマークを。ちなみに現在名称がoneMKL(oneAPI Math Kernel Benchmark)に変更し、oneAPIの一部となった。が、このベンチマークそのものは依然としてCPUのみを利用する形である。

  • グラフ14

こちらのベンチマークはRyzenでは動作しないので、対象はIntelの4つのみである。横軸はSize(Number of Equations/Problem Size)とLDA(Leading dimension)を一致させて変化させてゆき、それによる性能の変化をプロットしたものだ。大体Size/LDAが62000前後で32GBのメモリを使い切るので、その先はPagefileのアクセスが発生して急速に性能が劣化する。それもあって最大値を60000あたりに設定している。

で、結果(グラフ14)は見ての通りで、Core i9-11900K vs i9-12900では33%程度、Core i5-11600K vs i5-12600Kでも11%ほどの性能改善がみられている。動作周波数はダイナミックに変化する状況だから同等にそろえた訳ではないが、概ねこのあたりが2つのコアのIPCの差、という考え方そのものは間違ってはいないと思う。ただ、なぜCore i9同士は33%も性能差があるのにCore i5同士だと11%の性能差なのか? という話は、だいぶ後にあるがグラフ132のところで説明したい。

◆3DMark v2.20.7290(グラフ15~18)

3DMark v2.20.7290
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark

  • グラフ15

グラフ15が3DMarkの結果だが、なかなか面白い。WildLifeはまぁ同等(というか、なぜかCore i9-12900Kが一番低い)、NightRaidはAlder Lake優勢、FireStrikeは僅差ながらRyzen 9 5950Xが最高速を死守、TimeSpyはごちゃごちゃながら、辛うじてAlder Lake優勢、PortRoyalはもう誤差の範囲で同等、という結果になっている。要するにCPU性能があまり関係ないという話である。

  • グラフ16

で、実際Graphics Test(グラフ16)を見ると、NightRaidを除くと概ね大差なしという感じでいる。逆に言えば、なぜこんなにNightRaidだけCPUの性能の影響を受けるのかが不思議である。GPU負荷で言えばWildLifeの方が低いから、WildLifeがバラけるならまだ判るのだが。まぁNightRaidの方が提供時期が早い(≒作りが古い)分、CPU性能の影響を受けやすいということかもしれない。

  • グラフ17

逆にPhysics/CPU Testの結果(グラフ17)を見ると、見事にばらついており、負荷が軽いNight RaidではCore i9-12900Kが最速なのに負荷が増えたFireStrikeとかTimeSpy ExtremeではCore i9-12900KとRyzen 9 5950Xが僅差で争うという面白い展開になっている。まぁ全体としてはAlder Lakeが優位ではあるのだが。

  • グラフ18

謎なのがCombined Test(グラフ18)で、意外にRyzenが健闘している事だ。グラフ15で、FireStrikeのみRyzenのスコアが高いのは、このあたりの傾向が影響していると思われ、それがそのままPCMark 10のGamingのスコアの高さに繋がっているという訳だ。