東京大学(東大)は10月12日、分散しているセルロースナノファイバー(CNF)を会合させ、得られたCNF会合体の結晶性を解析した結果、会合体中でCNF間の相互作用が強ければ強いほどCNF間の界面が結晶化するという新たな現象と、界面の結晶化によりCNF会合体の弾性率や熱伝導率が向上することが見出されたと発表した。
同成果は、東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻の大長一帆JSPS特別研究員PD、同・小林加代子特任助教(現・京都大学 大学院農学研究科 助教)、同・藤澤秀次助教、同・齋藤継之准教授らの研究チームによるもの。詳細は、独化学会が刊行する学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
CO2の削減に向けセルロースの活用が近年期待されるようになっているが、中でもCNFは「軽くて強く、堅いがしなる」「熱しても軟化せず、膨張しない」「絶縁性で誘電率が高い」といった特性から注目されるようになっている。
用途としても、強化材として樹脂に複合化することによるプラスチック補強から、食品・化粧品の添加剤といった機能用途に至るまで、実用化に向けた研究開発は多岐にわたっており、現在、のべ2000社以上の企業で用途探索が進められているという。
しかし、そうした活用の模索の中から、いくつかの本質的な課題も浮き彫りになってきたという。このような背景には、CNF構造の理解が遅れているためで、そうした理解の促進に向け、研究チームは今回、CNF固有の機能・性能を左右する結晶性に着目することにしたという。
具体的には、研究チームはこれまでの研究で、木材パルプ中のミクロフィブリルがCNFとして分散する際に、CNFの結晶性が低下することを確認していたとする。そこで生じた疑問が、分散により低下した結晶性が会合により回復するのか否か、という点であり、その疑問を解消すべく今回、分散しているCNFを会合させ、得られたCNF会合体の結晶性を解析することにしたという。
その結果、会合体中でCNF間の相互作用が強ければ強いほど、CNF間の界面が結晶化するという新たな現象が見出されたとする。また、界面の結晶化により、CNF会合体の弾性率や熱伝導率が向上することも確認されたことから、CNFの結晶性は分散と会合に支配されており、「粒子間相互作用により結晶性が回復する」と結論づけたとしている。
これまで、CNFの結晶性は不可逆であると考えられてきたが、今回の研究成果により、今後、「CNFの分散と会合の制御」が「CNFの結晶性を任意に操作する技術体系」へと発展することが期待できると研究チームでは説明している。また、CNFの結晶性操作を実現できるようになれば、CNFを産業資材として高度に品質管理・制御する技術として活用できると考えられるともしている。