東北大学は10月7日、イオンチャネル構造を有する「液晶性クラウンエーテル誘導体」と「液晶性強誘電体」からなる混晶を作製し、本来は相反する関係のイオン伝導性と強誘電性が共存した新規な有機分子集合体構造の開発に成功したと発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所の原国豪博士、芥川智行教授らの研究チームによるもの。詳細は、英王立化学会の機関学術誌「Chemical Science」に掲載された。
研究チームはこれまで、不揮発性強誘電体メモリの実現に向け、分子間水素結合に着目し、外部電場の印加による水素結合反転を起源とする分極反転を用いた高性能な有機強誘電体の研究開発を進めてきたという。
今回の研究では、複数のアルキル鎖を側鎖に持つ盤状分子が一次元積層カラムを形成し、それがヘキサゴナルに配列した分子集合体構造を有する液晶相である「ディスコチックヘキサゴナルカラムナー(Colh)液晶相」を示し、強誘電体となることが知られている側鎖に3本のアルキルアミド鎖を有するベンゼン誘導体と同様なColh液晶性を示すことが可能な「クラウンエーテル誘導体」の合成に成功したという。
ただし合成されたクラウンエーテル誘導体の分子集合体は強誘電性を示さなかったことから、ベンゼン誘導体が形成する強誘電性液晶とクラウンエーテル誘導体の非強誘電性液晶を混合したところ、同様なColh液晶相の形成と強誘電性の発現を確認したという。
一般に、イオン伝導性と強誘電性は相反する性質であり、その共存に関する研究はあまり試みられてはこなかったという。今回の研究では、ベンゼン誘導体の強誘電性の水素結合カラムと、クラウンエーテル誘導体のイオン伝導性の水素結合性カラムが共存することで、イオン伝導性強誘電体の開発に成功したと研究チームでは説明しているほか、これによりイオン変位により分極値をブーストされた強誘電体が設計可能となり、不揮発メモリのスイッチング特性を支配する代表的な物理量である残留分極値の化学的な制御が可能となったともしている。
なお、研究チームでは、現在実用化されているPZTなどの多くの無機強誘電体材料が、鉛などの毒性の高い重金属を含むのに対して、有機強誘電体は環境に対する負荷の少ない軽元素から構成されるため、環境負荷が低い新メモリ材料の創製につながることが期待されるとコメントしている。