米国の宇宙企業「ブルー・オリジン」は2021年10月4日、『スタートレック』のカーク船長で知られる俳優のウィリアム・シャトナー氏が、12日打ち上げ予定の「ニュー・シェパード」宇宙船に搭乗すると発表した。

実現すれば、カーク船長が本当に宇宙に行くという伝説的な出来事になるばかりか、90歳のシャトナー氏は宇宙飛行をした最年長記録を更新することにもなる。

  • ニュー・シェパード

    宇宙旅行に向けて準備を進めるウィリアム・シャトナー氏 (C) Blue Origin

ウィリアム・シャトナー氏、11分間の宇宙飛行に飛び立つ

ウィリアム・シャトナー氏は1931年3月生まれの90歳。1966年に始まったテレビドラマ『スタートレック』で、主人公のジェームズ・T・カーク船長を演じたことで知られる。映画版も製作され、シャトナー氏はカーク船長として7本の映画に出演し、そのうち1本では監督も務めた。

シャトナー氏は他の3人の搭乗員とともに、同社のニュー・シェパード宇宙船の18回目の飛行(NS-18)に搭乗。打ち上げは日本時間10月12日22時30分(米中央夏時間8時30分)の予定で、テキサス州にある同社の発射場「ローンチ・サイト・ワン」から飛び立ち、高度100kmの宇宙空間まで行って帰ってくる。打ち上げから着陸までは約11分間の予定。

搭乗発表に際し、シャトナー氏は「昔から宇宙には関心があり、宇宙旅行もしたいと考えていました。この機会に、自分の目で宇宙を見てみたいと思っています。なんともミラクルな体験です」と語っている。

「私は『ロケットマン』になります!」(シャトナー氏)。

このミッションが実現すれば、「カーク船長が本当に宇宙に行く」という伝説的な出来事になるばかりか、90歳のシャトナー氏は宇宙飛行をした最年長の人物となる。現在の最年長記録は、ウォリー・ファンク氏の82歳。ファンク氏は今年7月20日、ニュー・シェパードの最初の有人飛行に、ブルー・オリジン創業者のジェフ・ベゾス氏とともに搭乗し飛行した。

NS-18にはシャトナー氏のほか、民間の地球観測衛星会社プラネットの共同創業者クリス・ボスヘーズン(Chris Boshuizen)氏、ライフサイエンス企業メディデータ・ソリューションズの共同創業者グレン・ダヴリース(Glen de Vries)氏、そしてブルー・オリジンのミッション・フライト・オペレーション担当副社長であるオードリー・パワーズ(Audrey Powers)氏ら3人も搭乗する。

このうち、パワーズ氏はブルー・オリジンの従業員として搭乗。ボスヘーズン氏とダヴリース氏は宇宙旅行者として、25万ドルともされる運賃を支払って搭乗する。一方、シャトナー氏に関しては、自費で支払ったのか、ブルー・オリジンが招待したのかは明らかにされていない。

ベゾス氏は、『スタートレック』の大ファンで、2016年公開の映画『スタートレック BEYOND』に出演もしており、ファンのよしみで招待した可能性は十分にありうる。

シャトナー氏が宇宙旅行に行くかどうかをめぐっては、かねてより話題になっており、2011年には別の宇宙旅行会社であるヴァージン・ギャラクティックの宇宙船に搭乗するのではないかという噂が立ったこともある。

  • ニュー・シェパード

    シャトナー氏らが搭乗するのと同型のニュー・シェパード宇宙船。画像は2021年7月20日に打ち上げられたときのもの (C) Blue Origin

ブルー・オリジンとニュー・シェパード

ブルー・オリジン(Blue Origin)は、2000年にベゾス氏が立ち上げた宇宙企業で、宇宙旅行や実験を目的としたニュー・シェパード(New Shepard)宇宙船を運用している。

ニュー・シェパードによる宇宙旅行は、「サブオービタル(Suborbital)飛行」と呼ばれるもので、地球のまわりを回る軌道には乗らず、高度約80~100kmの宇宙空間まで上昇したのち、宇宙空間に数分間滞在し、すぐに地上に帰ってくるような飛行である。

軌道飛行と比べると飛行時間は短いが、窓から青い地球や黒い宇宙空間を眺めることができ、また船内は微小重力(いわゆる無重力)状態になるため、宇宙にいる感覚を味わったり、宇宙実験を行ったりすることができ、宇宙旅行から科学実験まで一定の需要が見込まれている。

ニュー・シェパードはこれまでに4機が製造され、今回の飛行までに17回の宇宙飛行試験を実施。初の飛行でブースターが着陸に失敗した以外はすべて成功しており、さらに今年7月に打ち上げられた16回目の飛行では、初の有人飛行にも成功した。有人飛行は、このシャトナー氏らが搭乗するNS-18で2回目となる。

ブルー・オリジンはこのほか、大型ロケットなどの開発を手掛けているほか、スペース・コロニーを建造する構想も打ち出している。

一方で9月30日には、同社の従業員と元従業員からなるグループが、ブルー・オリジンには安全性に問題があると告発。「宇宙船が事故を起こしていないことは『幸運』」とさえ述べられているうえに、パワハラ、性差別などの問題も起きているとされる。現在、米国連邦航空局(FAA)が調査に乗り出している。

この問題に関連して、NS-18に搭乗予定のボスヘーズン氏は10月2日、Twitterを通じて「2週間前、私はブルー・オリジンのロケットがどのように造られているのかを見学することができました。詳細は語れませんが、私の不安は吹き飛ばされ、私の宇宙飛行は安全だという確信を持っています」とコメントしている。

「ロケットの製造、とくに人を運ぶために設計されたものほど難しいものはありません。設計公差、精度、安全性の要件は、どんな乗り物よりも高いものです」(ボスヘーズン氏)。

  • ニュー・シェパード

    ニュー・シェパードのクルー・モジュールから見える光景(写真は今年4月の試験飛行時のもの) (C) Blue Origin

参考文献

Blue Origin | William Shatner and Blue Origin’s Audrey Powers to fly on New Shepard’s 18th mission
Blue Origin | New Shepard
Bezos Wants to Create a Better Future in Space. His Company Blue Origin Is Stuck in a Toxic Past.
William Shatnerさん (@WilliamShatner) / Twitter
Chris Boshuizenさん (@cboshuizen) / Twitter