地球を覆うように多数の小型衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンド・インターネットを届ける「宇宙インターネット」計画。その実現に向け、大きな動きがあった。

2021年9月9日、宇宙インターネット事業の展開を目指す「ワンウェブ(OneWeb)」は、米国の大手衛星通信事業者ヒューズ・ネットワーク・システムズとの間で、米国やインドにおけるサービス提供に関する契約を締結したと発表した。

そして13日には、日本のKDDIが、米宇宙企業スペースX(SpaceX)との間で、同社が提供する宇宙インターネット「スターリンク(Starlink)」を、au基地局のバックホール回線として利用する契約を締結したと発表した。

かつては夢物語だった宇宙インターネットが、いよいよ私たちの手に届くところまでやってきた。

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    スターリンク衛星の想像図 (C) SpaceX

宇宙インターネットとは?

宇宙インターネットとは、地球を覆うように多数の人工衛星を打ち上げることで、世界中にブロードバンド・インターネットをつなげようという壮大な計画である。

インターネットというと、地上に有線や無線で回線を引くのが一般的だが、海や山のど真ん中や、砂漠地域や山間部、島嶼地域、北極や南極などに引くことは難しい。そこで、宇宙という海も山も砂漠も関係なく飛べる衛星を使うことで、その問題を解決しようというアイディアである。

これまでも、赤道上空の高度約3万5800kmにある静止軌道に衛星を配備し、インターネット接続を提供するサービスはあった。しかし、静止軌道は赤道上空にしかないため高緯度地域では使いづらく、また距離が離れていることから通信速度は数Mbpsと遅く、通信にかかる時間遅延も大きいという欠点があった。

一方、近年活発になっている宇宙インターネットは、数百kmの低軌道に多数の小型衛星を打ち上げ、コンステレーション(編隊)を組み、世界のあらゆる地点の上空につねにどれかの衛星が存在するように配備する。このため、全世界をカバーすることができ、また高度が低いため通信速度は速く、遅延も少ない。

ただし、全世界をカバーするために必要な衛星数は数千機から数万機という膨大なものになるため、それだけの衛星を製造し、打ち上げ、運用する技術が必要になる。

このアイディア自体は1990年代の前半から存在したが、当時はまだ衛星の製造やロケットの打ち上げにかかるコストが高く、ビジネスとして成立しなかった。

しかし近年、電子部品の小型化と高性能化、低コスト化が進んだことで、衛星もまた小型・高性能化、低コスト化が進み、地上側に必要なアンテナなどの機材も小型化、低コスト化が進んでいる。さらに、再使用型ロケットの実用化などで、衛星の打ち上げコストも大幅に安くなりつつある。

こうした技術革新を背景に、ついに技術的に実現可能なものとして、そしてビジネスとして成立可能なものとなってふたたび大きな盛り上がりをみせるようになり、複数の企業が構築に挑んでいる。

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    地球を覆うスターリンク衛星の概念図 (C) SpaceX

ワンウェブとスペースX

現在、宇宙インターネットにおいて目立った成果を出しつつあるのが、ワンウェブとスペースXの2社である。

ワンウェブは2012年に、実業家のグレッグ・ワイラー氏によって設立された企業で、ソフトバンクグループやコカ・コーラなどから総額約30億ドルを調達。2019年2月には試験機となる衛星6機の打ち上げに成功し、2020年2月からは実運用に使う衛星の打ち上げも始まり、低遅延・高速の通信実証試験にも成功した。

しかし、同年3月には新たな資金調達に失敗し、米国破産法第11章(チャプター11)の適用を申請した。

その後、同年7月にインドのバーティ・グローバル(Bharti Global)と英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省のコンソーシアムが買収し、事業を再開。衛星の打ち上げも再開され、今年9月14日までに322機の衛星が打ち上げられている。ソフトバンク、ヒューズをはじめ、バーティ・グローバルからの追加の資金調達や、韓国のハンファ・グループからの投資も受けるなど、資金的にも安定しつつある。

一方、イーロン・マスク氏率いる宇宙企業スペースXが構築を進めているのが、スターリンクという宇宙インターネット網である。計画開始はワンウェブよりもあとだったが、とてつもないスピードで開発と打ち上げを進め、現在までに通算1740機もの衛星を打ち上げている。

すでに北米や欧州ではベータ・サービスが始まっており、利用者数は10万人以上にものぼる。すでに低遅延・高速の通信を実証しており、米国のテック系YouTuberなどがスターリンクを利用したオンラインゲームのプレイ動画をアップするなどしている。また、現在進行系でサービス提供エリアが広がっており、日本でも近々提供が始まるとされる。

ワンウェブ、スターリンクともに今後、衛星を投入する軌道や使用する周波数帯などを変えつつ、合計4万機以上の衛星を打ち上げることを計画し、電波使用の申請も出している。

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    ワンウェブ衛星の想像図 (C) OneWeb

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    地球を覆うワンウェブ衛星の概念図 (C) OneWeb