日水コンとSynspective(シンスペクティブ)は8月17日、日本国内の上下水道分野における衛星データ活用促進のための戦略的提携に向けた覚書を締結したことを発表した。

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    シンスペクティブの新井元行代表取締役CEO(左)と、日水コンの野村恭悟代表取締役副社長による対談の様子 (撮影に際しマスクは外したという) (出所:シンスペクティブWebサイト)

上下水道は、一般市民がいつもの生活を送るのになくてはならず、また災害によって断水などが起きた場合は、1分1秒でも早い復旧が求められる重要な社会インフラだが、平時から非常時までを完全対応可能な施設にすることは、予測可能性や費用対効果の観点から容易ではない。そのため、上下水道に加え、雨水排水までも網羅的に整備している地域は限られているのが現状だ。

しかし近年、集中豪雨や台風の大型化などによる水害が毎年のように発生しており、河川の氾濫や都市型内水氾濫による浸水被害も増加中で、そうした水害が発生した場合、地上からの車両による現場への接近は難しい場合があるほか、風雨の状況によっては航空機を用いた空中からの情報収集も難しい場合があることから、宇宙からの観測に注目が集まっている。

しかし人工衛星を用いても、1機だけで観測する場合、目標のエリアの上空に到達するのに、時間がかかる場合もあることから、多数の衛星を連携した「衛星コンステレーション」の活用に期待が集まっている。

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    衛星コンステレーションのイメージ。複数の軌道に投入された多数の衛星を連携させる運用方法だ (出所:シンスペクティブのプレスキット)

小型観測衛星による衛星コンステレーションで商用サービスの展開中または計画している企業が日本には複数あるが、シンスペクティブもその1つである。同社は2021年後半に2機目の観測衛星を打ち上げる予定でこれが第1世代となり、2023年までに第2世代となる6機体制を実現する計画で、アジア圏の大都市上空を1日1回は通過できるようになる。

さらに第3世代として最終的には2020年代後半に、合計30機による衛星コンステレーションを完成させる計画としており、これにより日本の任意のエリアなら早ければ数十分で観測が可能となるほか、世界中のどこであっても2時間以内には観測地点上空に到達できるという。

またシンスペクティブの衛星「StriX」シリーズの特徴は、雲があっても夜間であっても地表の状況を観測できる合成開口レーダー(SAR)を搭載していることが1つ。それでいながら、従来の約1/10という重量(100kg級)しかないにも関わらず、地上分解能は1~3m、観測幅は10~30kmという、従来の大型SAR衛星と同等の性能を維持しているため、開発費用と打ち上げ費用の合計は大型SAR衛星の約1/20となっている。

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    シンスペクティブの小型SAR衛星初号機の「StriX-α」は、2020年12月15日に、ニュージーランドのマヒア半島にある発射場からRocket Lab社のElectronロケットにより打ち上げられ、予定通り高度500kmの太陽同期軌道へ投入された。また2021年2月8日は初の画像が取得された (出所:シンスペクティブのプレスキット)

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    SARのイメージ。曇があっても(左)、雨が降っていても(中央)、夜間であっても(右)、地表の様子を撮影することが可能だ (出所:シンスペクティブWebサイト)

一方の日水コンは、上下水道事業を中心に、計画・設計などの技術コンサルティング・サービスを提供している建設コンサルタントで、今回シンスペクティブと、国内上下水道分野における新たな水管理のあり方の構築を目指すことを目標に、戦略提携を目指した覚書の締結を行ったとする。

水害時にSAR衛星による情報収集を行うことで、広域かつ高頻度、高解像度の浸水被害状況を把握することが可能となる。シンスペクティブでは、将来的に衛星コンステレーションを構築した後には、災害対応に関わる自治体関係者への情報提供などから水防活動に役立てることが可能になるとしており、これにより水防活動にかかる新たなタイムライン・避難支援を実現するとともに、流域治水の観点からの関係機関横断による雨水管理計画の策定などにも活用が期待できるとしている。