日本の宇宙スタートアップ「Synspective」などは2021年3月9日、昨年12月に打ち上げた小型の合成開口レーダー(SAR)衛星「StriX-α」が、初の画像取得に成功したことを受け、記者会見を開催した。

StriX-αは、小型衛星に高性能なSARを搭載するべく、世界初となる独自の技術を採用。質量100kg級の小型SAR衛星による画像取得は日本初の快挙となった。

はたしてStriX-αに投じられた技術とはどんなものなのか?。そしてこの衛星を使い、Synspectiveはなにを目指しているのだろうか。

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    Synspectiveが開発した小型の合成開口レーダー(SAR)衛星「StriX-α」が初めて撮影した画像。観測装置や衛星を小型化するため、世界初の独自技術が投じられた (C) Synspective

「データの力」で世界を救う

Synspective(シンスペクティブ)は、2018年2月に設立された日本の宇宙スタートアップ企業で、合成開口レーダー(SAR)を搭載した小型衛星の開発、製造や、その観測データの販売、政府・企業向けのソリューションの提供などを手掛けている。

同社が目指すのは、「データの力」による、地球上のさまざまな課題や問題の解決である。たとえば都市計画やインフラ開発といった大規模な開発では、いかに効率的かつ安全に進めるかが課題となっている。また、環境問題や大災害、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)といった、全地球規模での危機的な問題にも直面している。

こうした課題や問題に対処するためには、データが必要となる。近年、さまざまなデータが世に溢れ、ビッグデータやデータサイエンスといった言葉も話題となっているが、Synspectiveでは人工衛星を使うことで、地球全体をくまなく、それも昼夜や天候を問わず、長期にわたって観測することを目指している。

もっとも、衛星のデータを見るだけでは起こっていることを正確に理解することは難しい。また、ただデータがあるだけでは「どういう施策を打てばいいのか」といった行動につなげることも難しい。とくに全地球規模のデータは膨大なものになることから、それを処理するのも至難の業である。

そこで同社では、自社の衛星のデータだけでなく、他社の衛星のデータや、IoTなどの社会データなどと組み合わせ、データサイエンスや機械学習などを用いて分析。そして、さまざまな専門家の科学的な知見をもとに解釈し、ソリューションとして提供して、実際の行動につなげることを目指している。

同社代表取締役CEOの新井元行(あらい もとゆき)氏は「これまで、膨大なデータを、即行動につなげられるように理解することは難しい状況にありました。この状況に一石を投じ、データの力を効率的に活かして、安全な未来を創る。それがSynspectiveが目指す未来であり、設立の趣旨です」と語る。

新井氏は同社設立前、途上国のエネルギー問題や、サウジアラビアやバングラデシュでの社会課題を解決するプロジェクトに参加しており、その活動を通じた知見や想いが現れている。

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    StriX-αの想像図 (C) Synspective

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    会見する同社代表取締役CEOの新井元行氏

30機のSAR衛星による地球規模の連続的なデータセット

そうした未来を叶える鍵となるのが、同社が開発する小型SAR衛星と、その衛星を30機打ち上げて構成する「コンステレーション」による観測である。

従来、地球を観測する衛星の分野では、光学衛星と呼ばれる、光学センサー(デジタルカメラのような観測機器)で、可視光を直接捉えるものが主流だった。光学センサーは数十cmもの分解能で細かいものまで見られるが、その反面、撮影したい場所が夜間だったり悪天候だったりした場合には撮影できないという欠点がある。

地震などの災害はいつ起こるかわからない。また近年、日本や東南アジアなどでは、台風や集中豪雨などによる被害が相次いでおり、悪天候の中でこそ観測が必要な場合が増えている。

そこでSynspectiveでは、合成開口レーダー(SAR)と呼ばれる衛星の開発に力を入れてきた。SARは、マイクロ波(電波)を出し、地上で反射して返ってきたその電波で地表を撮像するというもので、あまり細かいものは見られないが、撮影地が夜間でも、また悪天候の中でも撮像できるという特徴をもつ。

なにより、地盤の沈下、隆起などといった地表面の変化を、ミリ単位で検出することができるという、SARならではの使い方もある(詳しくは後述)。

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    合成開口レーダー(SAR)の概念図。マイクロ波を使って地表を撮像するため、曇天や雨天、夜間でも観測することができる (C) Synspective

ただ、衛星が1機や2機だけでは、世界中のある地点を数日おき程度にしか観測できない。そこで同社は、SAR衛星を、2023年までに6機、さらに2020年代後半までには30機もの数を打ち上げ、コンステレーション(衛星群)を構築。これにより、世界のあらゆる地点を連続的に観測し、さらにどの地域で災害が発生しても、2~3時間以内に観測することを可能にしようとしている。

慶応義塾大学教授で同社取締役の白坂成功(しらさか せいこう)氏は「10年前に起きた東日本大震災のあと、『私たちははたしてどれだけ衛星を活用できたのだろうか』という疑問がありました。それを考えた結果、『災害が起きたあと、いかに早く情報が入手できるか』という即応性をより高める必要があることに気づきました」と語る。

「防災科学技術研究所などにヒヤリングした結果、『災害発生後、10時間後までに災害情報が欲しい』という声がありました。さらに近年では『2時間以内に欲しい』という要求もあります。それくらい早くなければ、『現地に派遣した人をどう動かすか』ということを決めることができないそうなのです。そこで私たちは、30機の衛星によって、災害発生から2~3時間以内に情報提供することを目指すことにしました」。

SAR衛星の技術は昔からあったが、安全保障・防衛用途が多く、民間が自由に使うことは難しかった。また、これまでのSAR衛星は空間分解能、すなわちどれだけ細かく見ることができるかということに重点を置いており、高頻度、即応性といった点は不十分で、災害発生から2~3時間の情報提供はおろか、10時間でさえ実現不可能だった。こうした状況を、Synspectiveは根本から変え、衛星のデータを、災害時などに真に役立つものにしようとしているのである。

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    同社が計画しているコンステレーションの想像図 (C) Synspective

2021年3月19日訂正:記事初出時、記事の一部で新井元行氏の苗字を誤って「荒井」と記載しておりましたが、正しくは「新井」となりますので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。