日本の宇宙スタートアップ企業Synspective(シンスペクティブ)は2020年12月15日、同社初の実証衛星「StriX-α(ストリクス・アルファ)」の打ち上げに成功した。
StriX-αには、夜間や雲があるときでも宇宙から地表を撮像できる合成開口レーダーを搭載。将来的に30機の商用衛星を打ち上げ、世界のどこでも3時間以内に観測できるようにし、都市計画やインフラ、金融・保険、防災などの分野での利用を目指す。
Synspectiveとは?
Synspectiveは、2018年2月に設立された日本の宇宙スタートアップ企業で、合成開口レーダー(SAR)を搭載した小型衛星の開発、製造や、その観測データの販売、政府・企業向けのソリューションの提供を目指している。
SARは一般的なカメラとは異なり、マイクロ波(電波)を出し、地上で反射して返ってきたその電波で地表を撮像するというもので、あまり細かいものは見られないが、夜間でも雲があっても撮像できるという特徴をもつ。また、船舶など海上の人工物や、地盤の沈下、隆起が検出しやすいなど、SARならではの使い方もある。
このSARを複数の衛星に搭載し、宇宙から地表に向けて使うことで、世界のあらゆる場所をいつでも、定常的に、そして俯瞰的に観測でき、データサイエンス上有用な情報を得ることができる。
また、衛星の観測データはそのままでも役に立つが、他の情報と組み合わせ、いわゆるビッグデータとして解析することで、その価値は大きく高まる。これまでも、購買データやIoTなどのビッグデータはさまざまな分野で活用されているが、自社や自国の外側で何が起こっているかを知ることは難しかった。たとえば、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの初期において、どこで何が起こっているのか、何が正しい情報なのかが把握できなかったという形でも表面化している。
その点、衛星は宇宙から全世界を見たデータが得られるため、自社や自国の外側で何が起きているのかという情報を組み込むことができ、より正確な状況把握や、今後の予想を立てることに役立つ。
もっとも、SAR衛星を打ち上げたり、衛星からのデータを解析したりしている企業は、すでにいくつも存在する。そのなかでSynspectiveは、衛星の開発、製造と、打ち上げた衛星の観測データの解析の両方ができるという特徴がある。どちらか片方のみできる宇宙企業は多数あるが、この両方をひとつの組織の中に持っていることが大きな強みになっているという。
同社は「自分たちで衛星を持っていることでカスタマーが欲しい場所のデータを自分たちできちんと取得していくことができ、安定したソリューションの提供ができる。また、カスタマーと直接の接点を持っているので、自社のソリューション、次世代の衛星の開発などにマーケットドリブンで改善につなげていくことができる」と、その利点を語る。
とくに、ただ観測データを販売するだけでなく、ソリューションとして提供できる点は大きい。衛星の観測データは、そのまま、すなわち生データのままでは扱いづらいという問題があり、幅広い分野での活用にとって大きなネックとなっていた。そこで同社では、自社でデータを解析するとともに、他社の衛星やドローン、IoTなどのデータとも組み合わせたうえで解析も行い、ソリューションとして提供するサービスの展開を目指している。同社では政府・企業による、都市計画やインフラ、エネルギー、資源開発、金融・保険、防災などの分野での利活用を見込んでいるという。
同社は今後、30機の衛星を打ち上げ、コンステレーション(衛星群)を構成し、より広範囲、高頻度の地上観測を可能にするシステムの構築・運用を目指している。完成すれば、世界中のあらゆる場所を2時間以内に1回観測できるようになる。さらに、1時間でデータを下ろして解析し、提供できるようにしたいという。
これにより、たとえば世界のどこかで災害が発生した際、発生から3時間以内に、政府や医療機関などに「どういう行動を起こせばいいか」というソリューションを提供できるようになるという。
Synspectiveの代表取締役CEOを務める新井元行氏は「実現すれば、世界のレジリエンス(強靭性、回復力)を高めるうえで非常に重要な社会情報インフラとなる。資源や資金がより効率的に、また正しく使われ、そして世界が災害に強くなる、そんな未来をつくっていきたい」と抱負を語る。