京都大学(京大)と国立天文台(NAOJ)は、京大附属天文台の口径3.8mの「せいめい」望遠鏡を中心に、4大学1研究機関の望遠鏡と観測衛星を連携させ、フレアが活動的な恒星として知られる赤色矮星「しし座AD星」のモニタ観測を実施し、恒星のフレア検出を実施したところ、観測史上最大級の太陽フレアの約20倍というスーパーフレアの検出に成功したと発表した。

  • スーパーフレア

    赤色矮星(M型恒星)のしし座AD星のスーパーフレアをHα水素泉で観測した際のイメージ(画像2右も参照のこと)。星表面にある大きな黒点の周辺でスーパーフレア(白色)が発生し、それに伴って惑星空間にCME(プラズマ)が放出されている様子。左上は惑星だが、赤色矮星の惑星は太陽系と比べて中心星の近くを回っていることが多く、CMEの直撃を受ける確率は高いと思われる (C)国立天文台 (出所:京大プレスリリースPDF)

また、合わせてこのスーパーフレアは、エネルギー量は大きいものの、放射の振る舞いや時間変化は太陽フレアと共通の性質を示すことを発見し、スーパーフレアに伴う放射・高エネルギー電子などの実例を得ることができことも合わせて発表された。

同成果は、京大 理学研究科の行方宏介大学院生、同・野上大作准教授、NAOJの前原裕之助教らを中心に、中央大学、東京工業大学、兵庫県立大学、米・コロラド大学、NASAの研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する国際学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」にオンライン掲載された。

太陽表面ではフレアと呼ばれる爆発現象が起きるが、希にコロナ質量放出(CME)を伴う強烈なフレアが発生し、CMEにより、電子機器の故障確率が上がってしまうことなどが分かっている。さらに強力なフレアだと、地表の発電所の設備を破壊する可能性すらあることが分かっている。

現状、フレアがいつどこで発生するのかは予測ができない状況であるため、世界中の研究者や研究機関などが宇宙天気予報に携わり、24時間365日の警戒が行われている。

これまで確認されている最大の太陽フレアは、1859年に起きた「キャリントン・フレア」で、10の25乗(1025)ジュールというエネルギーが解放されたと見積もられているが、その10倍以上のエネルギーが解放される超巨大フレア(=スーパーフレア)も存在することが分かっている。

かつて、スーパーフレアは太陽では発生しなと考えられていたが、近年の研究により、滅多に発生しないものの、発生する可能性がゼロではなく、数百年から1000年に一度ほどの確率で発生すると見積もられるようになってきた。

しかし宇宙は広く、スーパーフレアの発生頻度が太陽よりもとても高い恒星も存在する。宇宙の恒星の4分の3を占めるとされる赤色矮星がそれで、近年の系外惑星探査によって、多くの赤色矮星が惑星を従えていることがわかってきている。そのため、赤色矮星のスーパーフレアが生命誕生にどのような影響を与えるのかという点でも注目されるようになってきているという。

研究チームも、特にフレア活動が盛んな恒星のスーパーフレアの性質を解明することで、そこから得られる知見をもとに地球・惑星環境への影響評価を主な研究題材としてきたという。

今回のプロジェクトは、2019年春に観測を開始した京大のせいめい望遠鏡を用いてスーパーフレアの分光観測データを入手し、その性質を解明することを目指して進められたという。

  • スーパーフレア

    (左)今回の観測で中心的存在として活躍した京大附属天文台に設置されている3.8m級光赤外線望遠鏡の「せいめい望遠鏡」。(右)画像1に説明を加えた捕捉図 (C)京都大学/国立天文台 (出所:京大プレスリリースPDF)

せいめい望遠鏡は京大占有のため、京大の研究であれば長期間利用もしやすい。高い集光能力に加え、長い観測時間を確保することができれば、発生頻度が低いスーパーフレアも観測できる確率が上がり、貴重なデータを高精度で入手できると推測されたのである。

赤色矮星ではフレアが発生しやすいとはいっても、赤色矮星ごとに発生頻度は異なる。そこで今回の研究では、フレアの発生頻度が比較的高い赤色矮星の1つである「しし座AD星」がターゲットとされた。そして、同星の8.5夜のモニタ観測が実施されることとなったのである。

また、フレアの物理の解明には、複数の波長(X線~可視光まで)での観測が必要だ。そこで、せいめい望遠鏡以外にも、京大やNAOJなど10の大学や研究機関が参加する光赤外線天文学大学間連携(OISTER)や、中央大の運用する地上望遠鏡、国際宇宙ステーションにNASAが設置したX線観測装置「NICER」を連携させることにより、複数波長でのフレアの同時観測を実施。データの解釈については、コロラド大と共同で恒星フレアのモデル計算を行ったという。

その結果、12件のフレア現象の検出に成功。しかもそのうちの1件は、キャリントン・フレアの20倍程度という、とてつもない規模のスーパーフレアであることが確認されたとする。

このスーパーフレアについては解析の結果、以下の2点の発見があったという。

  1. スーパーフレア中に、可視光の増光に対応して、Hα水素線(波長656.2nm)の幅が数分の間に大きく広がり元に戻ることが発見された。この現象は、これまでの太陽フレアの知見を用いて説明することができるものの、このような形で短時間に変化する現象は、恒星ではこれまで報告例がないという。スーパーフレアの増光を引き起こす高いエネルギーの電子の量が、太陽フレアに比べて1桁程度大きいという条件が必要であることが明らかになったとしている。

  2. Hα輝線では増光があるものの、可視連続光では増光がない(予想より1桁以上弱い)フレアがいくつもあったことも発見された。これも従来の太陽フレアの知見を用いて物理的に説明できるが、これまでの恒星フレアの研究は主に可視連続光観測を用いていたため、実際のフレアの発生頻度はこれまで指摘されていたものよりも高い可能性が示唆されたとしている。

  • スーパーフレア

    せいめい望遠鏡共同利用初日(2019年3月22日25時33分21秒)に観測された、しし座AD星のスーパーフレア。共同利用開始日が1日遅かったら、観測されていなかったと思われる。(左)フレア中のHα水素線の時間変化(番号は、右図の時間に対応)。(右)時間に対して、波長ごとの明るさの時間変化が表されたもの。白色光は波長486nm周辺で、Hα線は波長656nm (C)京都大学 (出所:京大プレスリリースPDF)

研究チームでは、今回の研究を通して、スーパーフレアにおける放射・高エネルギー電子を定量的に評価することができたことから、同現象に関して実例をもって議論できるようになったとしている。

なお、研究チームでは、今回の観測はこれから始動する恒星フレア・サーベイの出発点であり、同プロジェクトではさまざまな天体のフレアを観測していくという。また、最終的には、太陽によく似た星で起きているスーパーフレアの観測にも挑戦するとしており、人類の宇宙環境の保全へとつなげていきたいとしている。