工場が生産性の向上と運用コストの改善に努力する中で、「エッジ」のインテリジェンス化を実現する新たな技術に対する要求が高まっています。エッジとは何かという疑問があるかもしれませんが、Maximでは機器が現実世界と接触し、相互作用するポイントであると定義しています。
ファクトリーオートメーション(FA)では、エッジのインテリジェンス化によって生産性が向上します。生産性低下の最大の要因は工場のダウンタイムで、生産ラインが停止すると企業は収益を失います。2018年10月にMcKinsey & Companyが公開した「Digitally Enabled Reliability:Beyond Predictive Maintenance(デジタルが実現する信頼性:予知保全を超えて)」という記事によると、工場では年間で平均800時間、週平均では15時間の生産ラインの停止が発生しています。これは企業の収益と利益に大きな影響を与えます。
たとえば、自動車メーカーは生産が停止すると1分当たり約2万2,000ドルを失います。これは1時間当たり130万ドルであり、1週間だと2,000万ドル近くの損失となります。エッジインテリジェンスの実現はすでに生産ラインに影響を与えており、生産性は10%向上し、保守コストは20%低減されています。結果として、多大なコストを招くライン停止が防止されるため、工場の生産ラインは稼働し続けます。
エッジのインテリジェンス化によって生産性が向上し運用コストが低減することは明らかですが、そのエッジのインテリジェンス化には何が必要でしょうか?
新しい考え方
半導体メーカーであるMaximは自律的なセンサーおよびアクチュエータを実現し、ソフトウェアで設定可能な入出力をサポートし、高度な診断機能を持つソリューションを提供する必要があります。エッジインテリジェンスの実現に際しては、これら4つの決定的な要素の重要性と、それらが提供する主な機能を理解することが不可欠です。
自律型センサー技術
センサーはあらゆるところで使われています。センサーは私たちの日常生活の中に普遍的に存在するようになりました。生産環境では、生産されるすべての製品に対して、機器による物体の検出、その物体までの距離の判定、物体や液体の温度や圧力の監視のために一体となって動作する一連のセンサーが必要です。
損傷したセンサーを交換するための新しいセンサーの立上げ作業や異なる製品の生産を可能にするための機器の適合作業は労働集約的で、生産性の低下を招くため大きなコスト負担の要因になります。技術者を工場フロアに派遣してセンサーを交換し適正な製造パラメータに再較正するコストは、工場のスループットに影響します。これと同じレベルの保守を工場全体のすべてのセンサーに適用すると、それらの変更や再較正は生産ラインで発生する最大の出費になります。
IO-Linkは、工場フロアの機器にまで自律的センシングをもたらす技術です。この技術は生産における柔軟性を高め、工場のスループットと運用効率を向上させます。IO-Linkは、センサーとの双方向の情報交換を提供することによって、従来のデジタルまたはアナログセンサーを自律型センサーに変換する技術です。この技術は、センサーをリモートで立上げるための新たなレベルの自律性と機能、およびリアルタイムで反応してセンサーパラメータを調整する機能を実現します。
産業用オートメーション機器はこれまでにない自律性を得て、工場フロア全体に配置されたセンサーのネットワークの健全性とステータスに基づくリアルタイムの動作条件に動的に反応します。自律型センサーのネットワーク全体にわたるエンドツーエンドの豊富な情報を利用することによって、施設では工場フロアのマッピングを作成し、全体を統括するAI監視ソリューション向けにより良いリアルタイムの情報を提供できます。これにより、生産のボトルネック、障害点の迅速な特定を可能にし、工場フロア全体を最適化して運用効率の向上を実現する新しい機能を提供することができます。
IO-Link技術は、プロトコルスタックおよびI/Oデバイス記述(IODD)ファイルを使用する共通の物理インタフェースを介してセンサーを相互交換可能とすることによって、立ち上げのプロセスを簡素化し工場のスループットを向上させます。これによって、技術者によるセンサーの迅速な立ち上げが可能になり、工場のダウンタイムが短縮し、生産ラインをリアルタイムで再構成可能にすることができます。
共通のインタフェースによって、圧力、近接、温度などのさまざまなセンサーの交換がプラグ&プレイのような容易さになる利点を企業が理解するようになり、IO-Linkセンサーの採用は加速し続けています。Research and Marketsによると、IO-Linkの市場は拡大を続けており、年平均成長率32%で2018年の30億ドルから2023年には120億ドルに達すると予想されます。
IO-Linkハブとソフトウェア設定可能入出力
IO-Link技術は最新の自律型センサーを実現する触媒になるのみでなく、IO-Linkハブソリューションを介してエッジにインテリジェンスをもたらす新しい機会も提供します。この新しいIO-Linkハブは、アナログおよびデジタル入出力拡張チャネルを追加したり、ソレノイドやモータードライブなどの自律型アクチュエータを統合したりするための、簡単な方法を提供します。
IO-Linkハブは、IO-Link技術のすべての利点を活用し、デジタルおよびアナログ入出力ポートを追加する作業を簡素化して、工場フロア全体にわたる配線の引き回しの負担を解決し、予定外の生産ラインの再構成への対応に必要なチャネルのタイプと数を拡張する簡単な方法を提供します。この新しいクラスの製品は、IO-Linkハブ経由でのセンサーの立ち上げを可能にし、工場のダウンタイムを短縮します。これらのソリューションの例は、セットアップおよび立上げ時間の90%削減を誇るオムロンのIO-Linkハブ「NXRシリーズ」に見ることができます。
ソフトウェア設定可能なデジタルおよびアナログ入出力ソリューションは、オートメーションエンジニア、リモートで立ち上げ可能な汎用入出力ポートの提供という利便性を与えます。
IO-Linkが提供する利点と同様に、この新しいクラスのソフトウェア設定可能なデジタルおよびアナログ入出力製品は、工場の配線引き回しの負担を簡素化し、任意のデジタルおよびアナログ入出力センサーまたはアクチュエータを任意の未割り当てのデジタルおよびアナログ入出力ポートに物理的に接続可能とする柔軟性を提供します。このソフトウェア設定可能技術は、工場フロア全体にわたって運用コストおよびチャネル密度を向上させます。
自律型アクチュエータ
アクチュエータは、製品が工場フロアを移動する方向および速度に影響を与え、制御するために使用されます。それぞれのアプリケーションで固有のモーション制御およびモーター駆動特性のセットが必要になるため、これらのスマートアクチュエータは完璧なメカトロニクスサイバー物理システムを形成するために環境に動的に適合する必要があります。
現在、自律型アクチュエータは、運用環境の要求に応じて性能パラメータを自律的に調整する自動設定機能を提供するように進化しています。これはアクチュエータに自分の環境を認識させ、システムの性能の最適化による最大のスループットの実現、またはアクチュエータの長期的信頼性と運用性能の最大化を可能にするための、最初の一歩です。いずれの場合も、結果として運用コストが低減し効率が向上します。
この自律的モーションの組み合わせを実現するには、2つの重要な要素の統合が必要です。
- 第1の重要な要素は、電力効率に優れたアナログ駆動技術です。これによって、高電圧動作が可能になるとともにローカル環境の健全性およびステータスが提供され、高効率とスループット向上のバランスを実現するためのモーターの最適化が可能になります。
- 第2の重要な要素は、スムーズな可動域を実現するためのモーション制御アルゴリズムを提供する機能です。動作中にモーターにかかる負荷を検出してライン障害を防止し、消費電力を最小限に抑えることができます。
モーション制御アルゴリズムはスムーズかつ高精度の動きを提供するのに対し、チョッピングアルゴリズムはモーターの電力効率向上にフォーカスしています。さらに、モーターが適正な位置まで動いたかを識別するために、電機子の位置を検知することが重要です。これは通常、磁気検出ホールセンサーまたはある種の光エンコーディングソリューションを使って行われます。
これらの次世代自律型アクチュエータの価値を示す例として、Trinamic Motion Controlの「PD42-1-1234-IOLINK」と、最近発表されたアームエンドツール(EoAT)グリッパーリファレンスデザインの「TMCM-1617-GRIP-REF」の2つを紹介します。どちらのソリューションも、MaximとTrinamicによって、自律的モーション、ドライバ、およびIO-Link通信技術を組み合わせたものです。これらの新しい自律型アクチュエータは、産業用オートメーションのエンジニアにIO-Link通信インタフェース上で50%増しの設定および性能パラメータへのアクセスを提供することによって、立ち上げ作業を簡素化し工場の生産性を高めます。自律型アクチュエータはさらに、動作環境の変化や高度なAIに基づく生産性ソリューションの実装に対応するよう瞬時に調整することが可能です。動作環境に基づいてアクチュエータの性能を形成するこの機能は、自律的モーション制御の未来像を示すものです。
診断とリアルタイムの意思決定
より高レベルの診断機能は、工場フロアでの生産性と工程の安定性を向上させるために、リアルタイムの、エッジベースの意思決定を改善する、より充実したデータセットを継続的に提供します。
2019年1月に発表された「Artificial Intelligence in Manufacturing Market(製造市場における人工知能)」というMarkets and Marketsのレポートによると、これらの強力な製造業ベースのAIアルゴリズムプラットフォーム市場は、2018年の10億ドルから2025年には170億ドル以上へと、ほぼ50%の年平均成長率で拡大すると予想されています。
現在、スマートファクトリーを実現するために行われている急速な投資によって、AIの中で機械学習が最も成長率の高いセグメントになると予想されています。この成長は、IIoT搭載機器のネットワーク、予測分析を提供するアルゴリズム、製品の品質を監視するとともに機械の状態と動作の健全性を評価するマシンビジョンカメラから生成される健全性およびステータスに関する大量の情報が原動力となっています。
ICレベルでは、マイクロプロセッサとの間でシリアルペリフェラルインタフェース(SPI)バス経由でますます多くの情報が監視、収集、通信されます。これらのICデータグラムの量は、デバイスの温度状態、過電圧、過電流、断線検出、短絡検出、過熱警告、サーマルシャットダウン、巡回冗長検査(CRC)などの重要な情報を伝送するために増大し続けています。ここで一歩引いて、工場フロアの多様な機器すべてについてのデータグラムを提供する半導体の数を増やせば、生産ラインの障害を予測、識別、および診断するための工場フロアの診断マッピングが実現できることがわかります。
次の大きい変化
この新しい考え方を取り入れることによって、スマートファクトリーはこれらの最新機能を利用してスループットを向上し生産性を高めることができます。これらの新しい技術が成熟を続ける中で、次世代のAIアルゴリズムはこれらのソリューションから生成されるより高い品質のリアルタイムデータを活用することによって恩恵を受けることになります。その結果、これらの新しい自己認識機器はAIが生成したソリューションを自動的に実装し、技術者による修理またはサービスを受けるまで生産ラインの動作を維持します。この意識を持つ機器の時代は、産業用オートメーションの次の大きな変化を触発することになるでしょう。
参考文献
・「Digital Enables Reliability Beyond Predictive Maintenance」、McKinsey、2018年10月
・「Artificial Intelligence in Manufacturing Market」、Markets and Markets、2019年1月
著者プロフィール
Jeff DeAngelis (ジェフ・デ・アンジェリス)Maxim Integrated
インダストリアルコミュニケーションズ、インダストリアル&ヘルスケア事業部門 バイス・プレジデント