電気通信大学(電通大)は7月9日、IoTの課題を解決する、「パケット型インデックス変調方式」による新通信技術を開発したと発表した。
同成果は、電通大 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センターの安達宏一准教授、同・藤井威生教授、電通大大学院 情報理工学研究科 情報・ネットワーク工学専攻の靏見康平大学院生、同・角田真一朗大学院生、同・蕪木碧仁氏大学院生らの研究チームによるもの。今回の技術に関しては、すでに特許を出願済みだという。
IoTシステムでは、観測対象となる環境の変化などを伝えるために長距離伝送が求められる。またあらゆる場所にIoT端末を配置する必要があることから、バッテリー駆動もしくは環境発電が求められるため、可能な限り省電力で動作することも求められる。一方、通信は電力消費量が多いことが知られており、IoT端末では、省電力タイプの通信規格「省電力広域ネットワーク(LPWAN)」が活用され、近年ではその中の一種である「LoRaWAN」などが使われるようになってきた。
しかしLoRaWANは、各端末が自律分散的にパケットをゲートウェイ(GW)に送信するため、複数の端末が通信チャネルの空きを事前に感知するキャリアセンスに失敗し、同時にパケットを送信した場合には、GWにおいてパケット衝突が発生し、パケット配信率の低下を招いてしまう可能性があるほか、各端末にはパケットを送信できる時間比率が決められているので、伝送データ量を増大させたくとも単純に送信パケットを増やすことも困難とされていた。
そこで研究チームが今回着目したのが、LoRaWANの各端末が送信するパケットの時間間隔が一般的に長いことや、複数の周波数チャネルを用いた通信が可能であるという特徴で、それらを活用する「パケット型インデックス変調」(PLIM:Packet-Level Index Modulation)という方式を新たに提案した。
PLIMでは、まずパケットの送信周期を複数の時間スロットに分割。その後、従来のパケットにより伝送される情報に加えて、送信したい情報ビット系列に基づいて送信する時間スロットと周波数チャネルの組み合わせ(インデックス)を選択し、パケットを送信することによって、伝送データ量を増加させることを可能にしたという。
伝送可能な伝送データ量はチャープスペクトラム拡散の拡散率に依存するが、例えば拡散率10の場合、PLIMでは、従来方式と比較して伝送可能な伝送データ量を32%程度増加できることが計算機シミュレーションで確認されたという。
また、既存のLoRaWANでは周期的にパケットを生成、送信するので、一度衝突が発生すると後続の送信でパケット衝突が発生する確率が高くなってしまっていたが、PLIMでは、送信ビット系列に基づいてパケットを送信する時間スロットを選択するため、疑似ランダム的にパケットを送信でき、周期的な送信に起因するパケット衝突を避けることが可能となるとする。
ただし、注意すべき点は、端末とゲートウェイ(GW)との間でクロックの時間ずれ(クロックドリフト)が生じると、時間スロットの検出誤差が生じてしまうという課題があったことから、各端末との間で生じるクロックドリフトを補償する機能をGW側に持たせる方法も考案。これにより、端末とGW間の同期合わせの機能を端末側では不要としており、安価な端末を用いながら、端末とGWとの間でのクロックドリフトに起因する時間スロットインデックスの検出誤りを抑制することが可能になったとしている。
実際にPLIMと従来のLoRaWANとシミュレーションを用いて比較が行われたところ、1パケットあたりで伝送可能な情報データ量を向上できること、ならびに安価な端末を用いた場合に生じるクロックドリフトの影響を適切に補償しつつ伝送を行えることが確認されたとしている。
研究チームでは、今回の通信方式を活用することで、長距離伝送およびバッテリー駆動のための省電力な伝送が要求されるIoT機器、具体的には、端末が周期的にパケットを送信するセンサネットワークや、特定のイベントを検知した際にパケットを送信するセンサネットワークなどでの活用が期待されるとしており、アプリケーションとして、さまざまな用途への適用が考えられるとしている。