日本郵政との提携発表や「iPhone」の取り扱い開始を経て、2021年5月の決算説明会では累計申込者数が410万を超えたことを明らかにした楽天モバイル。
先日総務省が公開した1~3月の契約者数データでも、事業社別シェアが1.5%まで拡大し、他社がシェアを減少、MVNOも伸び悩む中、順調にユーザーを獲得していることが伺える。6月18日からは、他社からの乗り換えで2万円分の楽天ポイントを還元するキャンペーンもスタート。さらに攻勢を強めている。
一方で利用可能なエリアも全国へと拡大。東京都では一部地域を除いて、提携するauのローミング接続が終了するなど、自前回線への切り替えも進められている。
今夏には当初の計画を5年前倒しして、人口カバー率96%達成を目標に掲げるが、反面SNS等では屋内でつながりにくいといったユーザーからの不満や不安の声もあがっている。
「使い放題で月額2,980円という料金は魅力だけど、ネットワークは本当に大丈夫なの?」という声に、楽天モバイルはどう応えていくのか。基地局整備の陣頭指揮をとる、矢澤俊介副社長に聞いた。
――ホームページの「4G LTE 拡大エリア」が頻繁に更新されるなど、全国展開を進めていますが、現在の基地局の開設状況を教えてください。
矢澤氏:
当初は東京23区、名古屋市、大阪市から集中的にスタートし、それ以外のエリアはパートナーであるKDDIさんの回線をお借りしてサービスを開始しました。
そこから全国展開を始めて、今足下では1日100件から多いときは200件を超えるペースで、基地局が開通しています。同時に自前の回線へのスイッチも進めていますが、基地局を開設したらすぐスイッチするということではなく、お客様に迷惑がかからないように、KDDIさんとも話し合いながらエリア展開を進めています。
いくらエリアが広がっても、お客様からすれば自分が生活している場所でつながるかどうかが何より大切ですので、コネクティビティに関してはかなり厳しい基準を設けています。この基準に満たないところでは東京23区、名古屋市、大阪市でも、地下や屋内など一部にはまだパートナー回線のところもあります。そのような改善が必要な場所を、ビッグデータやお客様の声をもとに改善していく取り組みも並行して進めています。
――SNSには特に屋内でつながりにくいという声も散見されます。そうしたユーザーの声をどう捉えていますか?
矢澤氏:
いただいた声には、基本的にすべて対応しています。ユーザークオリティーマネジメントという専門の部署を起ち上げて、お客様からのメールや電話だけでなく、SNSの声もできる限り拾って、一件一件フィールドテストをするといったこともしています。お声をいただいてから3カ月以内には解決できるように、そこは本当に真摯に取り組んでいます。
一方でお客様からの声を待っているだけでは遅いので、そもそもそういう声が出ないようにビックデータチームがシミュレーションをして、基地局を設置するということもしています。屋内については、「Rakuten Casa」という屋内アンテナの設置をご案内させていただいたり、そのビル専用の基地局を屋内外に設置するなど、ケースごとに様々な対策を進めています。
つながりやすさはもちろんですが、お客様の数も増えていますので、ネットワークのキャパシティもしっかり担保していかなければなりません。今その両方を見ながら、全国展開と同時に東京23区、名古屋市、大阪市でも徐々にエリアの密度を濃くしていっています。
――現在、総務省にプラチナバンドの再配分について、意見書を出していますが、屋内をカバーするにはプラチナバンドが必要との認識なのでしょうか?
矢澤氏:
まずは今いただいている1.7GHz帯の免許の範囲内で、99%のカバレッジを目指したいと考えていますが、プラチナバンドの方が電波の特性として秀でてるポイントもたくさんあります。将来それを使わせていただければ、より良いネットワーク作れるとは思います。お客様満足度のさらなる向上のためにも、引き続き意見は表明し続けていきたいなと思います。
――今夏には計画を5年前倒しし、人口カバー率96%を目標に掲げています。2年前には基地局整備の遅れを総務省から指導されたこともありましたが、その後の対応を教えてください。
矢澤氏:
ひとつには文字通り、楽天グループの総力を挙げて取り組んでいます。もう使えるものは全部使ってやるという感じで、これまでに築いてきたネットワークや人的リソースを集中投下してきました。
もうひとつは、全国の工事会社さんと良いパートナーシップを築けたことです。発注してあとはお任せするのではなく、どうやったらできるのかそのために必要なことは何か。工事会社さんからアドバイスをいただいて、要望に応えられるところには全部応えるということをやってきました。
たとえば楽天の基地局は他社に比べてシンプルな構成なので、工数的に難しいわけではないんですが、その代わりに件数が多い。どう進捗管理をしたらスケールできるのか、作業の効率化についてはかなり話し合って工夫しました。また200以上のパーツをどう現場に運ぶのかについても、物流は我々の得意分野でもありますので、工事会社さんの要望通りに作ることができました。
何か特別なマジックがあったわけではなく、基本的には社員の頑張りと工事会社さんとのパートナーシップに支えられて、ここまでのペースになってきたということです。楽天がなぜ携帯電話事業をやるのか、三木谷が毎週のように現場で話をして、社員が高いモチベーションをもって取り組み、またそれを工事会社さんや地権者さんにもしっかり説明させていただいて、ご理解いただけたことも大きいと思います。
――楽天がなぜ携帯電話事業をやるのか、工事会社にはどのような話をしたのですか?
矢澤氏:
ひとつは我々の開発した技術を使えば、携帯電話の料金を安くできるという話です。これまでの携帯電話のネットワークはそれ専用に開発された機器を使って構築されてきましたが、我々は同じことを汎用の機器で、「Rakuten Communications Platform(RCP)」というソフトウェアを用いて実現しています。
ソフトウェアだからメンテナンスやアップデートが容易ですし、何よりコストがものすごく安い。この世界初のしくみによって、2,980円で使い放題という価格を実現しています。携帯電話の料金が安くなれば、日本の経済にも貢献できます。
もうひとつはRCPの可能性についてです。ご存じのように我々は世界的に見ても、最後発のキャリアです。今、世界中のキャリアが5Gやさらにその先の将来に向けて、ネットワークのソフトウェア化を模索する中で、RCPは大きな注目を集めていますし、実際にたくさんの引き合いをいただいてもいます。我々が日本国内で成功すればそれがショーケースとなって、今度はその技術を世界に展開できる。そういうところにも、可能性を感じていただけたのだと思います。
――アンテナの設置は用地の獲得が最大の難関とも聞きますが、具体的な工夫があるのでしょうか?
矢澤氏:
工事会社さんを通じて単にアンテナを立てさせてくださいとお願いするだけでなく、地権者の方に向けた提案資料を作成して、楽天がなぜ携帯電話事業に参入するのか、我々の考えをできる限りていねいに説明させていただいています。
僕自身も朝起きたらまず携帯電話を手に取りますが、そんな風に携帯電話って今や一番身近な、なくてはならないものだと思うんですね。その携帯電話を安価に使えるようにする。いわば携帯電話を民主化することで、日本を元気に、より強く、より良くしたい。これが楽天の基本的な構想で、その実現のために今、本当に死に物狂いでやっていますということですね。
――人口カバー率96%を達成した場合、その後はどう取り組んでいきますか?
矢澤氏:
2021年の後半にかけて、今がまさにエリア拡大の勝負のときだと思っています。地元でもつながるようになったという嬉しいお声をいただくと同時に、まだつながらないから何とかしてくれという声もいただいていますので、そこを早急に対応して、この1年で本当にお客様が満足いただけるようなネットワークにしていきたい。
まずは96%、さらに99%まで自前の回線にスイッチしながら、カバレッジを広げていくのは当然ですが、我々はその先についても考えています。それが「スペースモバイル計画」です。
もし宇宙から日本をまるごとカバーできれば、他社もまだできていない、エリアカバレッジ100%が達成できます。2023年以降の実用化に向けて今まさに準備してるのですが、実現すれば山間部であっても、離島であっても、つながる環境を提供できる。もし災害などで基地局がダメージを受けても、衛星に切り替えるられるようになります。
災害時に向けた対策としてはすでに専用のチームを起ち上げて、3時間以内で駆けつけられる拠点を、全国で20ヶ所以上に設けるなどの体制も整えています。どんなときも安心、安全につながるサービスを目指して、「スペースモバイル計画」を早期に実現できるように取り組んでいきます。
――最後に5Gの計画についても聞かせてください。RCPはアップデートが容易という話がありましたが、5Gへの切り替えも今後予定があるのでしょうか?
矢澤氏:
今は4Gのカバレッジを優先的に作っていますが、我々は4Gと5Gを同時にスタートできたので、実はほぼ全ての4Gのアンテナで、5Gのアンテナを同時に接続できるようになっています。ただ4Gと5Gでは電波の特性が異なるため、5Gのアンテナは4Gよりももう少し数が必要になります。その設置のための準備も今並行して進めていますので、5Gもスピード感を持って展開できると考えています。
――ありがとうございました。