東京都市大学(都市大)は2月8日、鹿児島県立博物館に所蔵されている首長竜の一種である「エラスモサウルス類」(通称:サツマウツノミヤリュウ)の化石の下顎の付近から、消化され破片となった動物の骨格が凝集した塊が発見され、同首長竜が大型のエサを飲み込んだあと、胃で消化したあとに未消化物(ペリット)を口から吐き出していたことの証拠が得られたとし、これまで生態の大部分が謎に包まれていた首長竜類が、現代の鳥に似た習性を持っていた可能性があることを明らかにしたと発表した。

  • エラスモサウルス類

    鹿児島県獅子島より発見されたエラスモサウルス類、通称サツマウツノミヤリュウの下顎化石の3D画像。(左)上面から。(右)左側面から。赤丸は、ペリットが保存されていた位置 (出所:都市大Webサイト)

同成果は、都市大 理工学部 自然科学科の中島保寿准教授、化石ハンターとして著名な個人研究家の宇都宮聡氏(大阪市立自然史博物館 客員研究員)、鹿児島県立博物館の多久島徹学芸主事らの共同研究チームによるもの。詳細は、2月5日から7日にかけてオンライン開催された日本古生物学会170回例会において発表された。

中生代三畳紀(約2億5000万年前~約2億年前)の後期(約2億500万年前頃)に出現したとされる首長竜類は、恐竜と同時代に生息していた海の大型爬虫類だ。日本で初めて化石が発見された有名なフタバスズキリュウの仲間である。首長竜類はその後のジュラ紀(約2億年前~約1億4500万年前)、白亜紀(約1億4500万年前~約6500万年前)と、億の単位で時間が流れるにつれて徐々に大型化していき、現在の鯨類に匹敵するほどの体格となり、海の生態系では食物連鎖のピラミッドの頂点に立っていたと推測されている(フタバスズキリュウは白亜紀の約8000万年前頃に生息していたとされる)。

首長竜類は、その名が示すように首が長いことが特徴だ。中でも、白亜紀に生息していたとされるエラスモサウルス類は体長が11mなのに対し、首の長さが7mもあるほどだ。エラスモサウルス類はさらに、小さな頭、尖った歯、パドルのような4枚の足ひれ、カメのようにずんぐりした胴体などの特徴を備えていた。

日本では北海道、東北地方、四国地方など複数の箇所から化石が発見されているが、化石の多さに反比例してその生態はほとんど謎に包まれている。数少ない判明している生態は、化石として残っていた胃の内容物から、魚類や頭足類(タコやイカなど)を食べていたものがいたということ。また化石の腹部からはしばしば密集した石が見つかることがあり、これらは消化を助けるためか、もしくは浮力調節のために飲み込まれた「胃石」だと考えられている。

ただし、実際にどのように食物をとらえ、どのように消化吸収していたのかは明らかとなってはいない。その理由は、恐竜たちと同様に、白亜紀末の巨大隕石の落下による地球環境の激変などにより、近縁類とともに絶滅してしまったからだ。現代の生き物でクビの長い生き物といえばキリンがいるが、水棲動物では首長竜類のような形態は存在しておらず、比較できる生物が少ないことなども理由となっている。

  • エラスモサウルス類

    中生代の空・海・陸の主な動物の生息期間、および鹿児島県獅子島の幣串層の時代についての概略図。(出所:都市大Webサイト/画像協力:路上博物館)

このような特徴を持つエラスモサウルス類の化石のひとつに、現在、鹿児島県立博物館が所蔵するサツマウツノミヤリュウがある。サツマウツノミヤリュウは、共同研究チームのひとりである宇都宮氏が、2004年に鹿児島県出水郡東町(現・長島町)の離島「獅子島」の幣串海岸において発見し、同町に寄贈したものだ。

調査のために同地を訪れた宇都宮氏が、地層表面に脊椎動物の骨と見られる化石の断面が露出していることを発見。大規模な発掘作業が実施され、その化石は首長竜類の頸部であり、国内で発掘された首長竜類の化石としては、発見例の少ない頭部(の一部)を含んでいる貴重な化石だったのである。化石の埋まっていた地層は幣串層と呼ばれ、約1億年前の地層であることが確認された(サツマウツノミヤリュウはフタバスズキリュウとほぼ同時代に生息していたともいわれているが、約1億年前に生息していたということになると、従来よりも2000万年ほど早く出現したことになる)。

そのクリーニング作業(化石周囲の岩石を削るなどして、化石だけを露出させる精密さを溶融休される重要な作業)を宇都宮氏本人が実施中に、下顎の骨が含まれている岩石ブロックの破断面から奇妙なものを発見。太さ1mmほどの無数の黒色の棒状構造の破片で、それらがエラスモサウルス類の歯の1本とともに密集していたのだ。2019年になって宮本氏は都市大の中島准教授に依頼をし、CTスキャンによる内部構造観察が実施されたのである。

観察の結果、棒状構造は複雑かつ左右対称の断面を持ち、明らかに生物の骨格の一部の化石と確認された。ただしサツマウツノミヤリュウの骨格の一部ではなく、原型を留めないほどに裁断されたあとに凝集したものであることが明らかとなったのである。

  • エラスモサウルス類

    (左)サツマウツノミヤリュウのペリット化石写真。(右)同CTスキャン画像 (出所:都市大Webサイト/撮影協力:国立科学博物館)

さらに、共同研究チームのひとりである多久島学芸主事の協力を得て、写真立体構築(フォトグラメトリ)法を応用して、堆積構造の解析も行われた。すると、棒状化石片は科学ことの堆積した面から約7cm下、ちょうど口腔から咽頭部に当たる位置の約3.5cm×約6cmの範囲に凝集していることも確認されたのである。

以上の結果から、共同研究チームは、密集した棒状化石について、サツマウツノミヤリュウが摂食した生物の骨格に由来し、消化管内で未消化物として押し固められたのちに食道を逆流して吐き出されようとしていた「ペリット」であると結論づけられた。ただし、サツマウツノミヤリュウは何かの非常事態が起きたのか、ペリットを完全に吐き出すことなく窒息によって命を終え、そして長い年月をかけて化石化したことも確認された。

  • エラスモサウルス類

    ペリットを吐くエラスモサウルス類の想像図 (出所:都市大Webサイト/絵:川崎悟司氏)

ペリットは、現代の生物の中でも、肉や魚を食べる鳥類(猛禽類)が吐くことで知られる。またワニやトカゲ、ヘビなどの爬虫類や海生哺乳類なども吐くことがある。これらの動物に共通しているのは、高度な咀嚼が可能なアゴや器用な手足を持たず、エサを飲み込む前に消化しやすくすることができないという点が挙げられる。その短所を補うため、消化管内で未消化部位を凝集させて吐き出すという習性を獲得したものと考えられている。

今回の発見により、首長竜類のエラスモサウルス類は、獲物を丸呑みにし、消化管内の胃石を用いて咀嚼したのち、現在の猛禽類などと同じように未消化部位を凝集させ、長い喉を逆流させて吐き出してたことが明らかとなったのである。

今回の成果は予察的ながら、謎に包まれている首長竜類の行動生態の一端を明らかにする画期的なものであり、これまでは欧米や中国が牽引してきた中生代の海生爬虫類の生態学的研究について、日本の化石と研究技術がともに最前線の研究を行うのに十分な水準にあることを証明するものであるとした。

また今回の成果は、大学や博物館などの研究機関が、宇都宮氏のような個人研究家、そして長島町や鹿児島県などの地方自治体と協力し、さらに最新の産業技術を取り入れることによって実現した、産・民・官・学連携型理学研究の新しい形といえるという。さらに、自然とその成り立ちを解明するプロセスの楽しみを通じて、科学的思考の重要性を社会全体に広く伝えるきっかけになると期待されるとしている。

今後は、サツマウツノミヤリュウの詳細な食性の解明を目指し、よりミクロな構造と化学組成に注目した分析を行っていく計画だ。また、今回の研究成果は3Dビジュアルと親和性の高いものであることから、Webコンテンツを通じて随時最新情報を公開していく予定としている。同コンテンツはすでに公開中で、サツマウツノミヤリュウの発掘された化石1点ずつを3Dで好きな角度から拡大縮小して見ること可能となっている。