10月も業績好調のTSMC

TSMCは11月10日、2020年10月度の業績を発表した。それによると売上高は前年同月比12.5%増、前月比6.5%減の1193億NTドルとなり、1月から10月までの合計売上高は前年同期比27.7%増の1兆970億NTドルで、通年でも前年比で2桁%の成長が期待できる状況になったという。

同社の年間売り上げの15%程度を占めていたHuawei向けの出荷が、米国政府の制裁により9月中旬からストップしたが、代わり米国のファブレスIC企業から7/5nmプロセスを用いた生産委託が急増しており、全体の業績としては大きな影響は出ない見込みである。

151億ドル規模の投資を実施へ

好調な業績を背景に同社の取締役会は、2021年第1四半期の研究開発と設備投資を中心として、総額151億ドルの出資を承認したという。先端製造能力の拡張、パッケージング分野の生産能力向上、新規ファブ建設などが予定されているとのことだが、その投資額の内訳は非公表となっている。

また、同取締役会は、台湾中部の台中サイエンスパーク内にZero Waste Manufacturing Centerを建設することを目的に1億2470万ドルを出資することも承認している。

さらに、米国アリゾナ州に35億ドルの資本金を有する100%子会社を設立することも承認した。同社は、米国内での半導体製造を強化したい米国政府の要請を受ける形で2020年5月、アリゾナ州に先端半導体工場を建設することを明らかにし、2021年に起工、2024年から生産を開始、2029年までに120億ドルを投資する計画であるとしていたが、その後の進捗は不明となっていた。

しかし、2024年段階の同社の台湾ファブでの最先端プロセスは少なくとも3nmへと移行しているはずで、アリゾナファブは最先端ファブではなくなってしまうことになる。現在、同社は中国 南京にある300mmファブ(TSMC Fab16)では16/14nmまでの生産に留めており、米国ワシントン州にある子会社WaferTech(TSMC Feb11)も8インチウェハによるレガシーデバイスを製造するなど、最先端プロセス品は、すべて台湾にある最先端ファブで製造しており、アリゾナファブの位置づけは現時点での先端ファブと言いつつも、実際どうなるかはっきりしていない。中国南京のFab16も建設計画時点では微細化プロセスに関して先端ファブだったが、台湾政府の意向もあり、先端プロセス技術の流出を避けるため、その後、さらに進んだ微細化プロセス(10/7/5nm)への移行が行われていない。

なお、TSMCは、米国の安全保障上必要なチップ製造だけでは採算の合わないアリゾナファブ建設に際して米政府から多額の補助金が得られることを前提に、米国政府と交渉中と言われており、その補助金をねん出する法案2件が米国議会で審議中となっているが、実際、どれだけの補助金を獲得できるか不明である。すでに同社は、アリゾナファブの運営に携わる技術者を日本を含む世界中から募集し始めている。米国赴任の前に、台湾で長期にわたりさまざまな研修を受けて技術習得する必要があるため、ファブ建設が始まる前から募集を始めたようである。