富士通クライアントコンピューティングが、13.3型ノートPCの世界最軽量をさらに更新した。2020年10月19日に発表した13.3型ノートPC「LIFEBOOK UH-X/E3」は、634gという軽量化を達成。従来モデル(UH-X/C3、698g)に比べて64gも軽くした。

この634gという数字は、当初の目標を超えるものであり、開発チームの努力とこだわりによって実現したものだ。開発を担当した富士通クライアントコンピューティングの河野晃伸マネージャーと、松下真也マネージャーに、世界最軽量への新たな挑戦について聞いた。

  • 3.3型ノートPCとして世界最軽量を実現した「LIFEBOOK UH-X/E3」(写真は試作機)

    13.3型ノートPCとして世界最軽量を実現した「LIFEBOOK UH-X/E3」(写真は試作機)。ハッとするほど軽い

  • 富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部マネージャーの河野晃伸氏(左)、富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第三技術部マネージャーの松下真也氏(右)

「634g」という数字に込められた想い

「634」という数字を聞いて、何を思い出すだろうか。

読者のなかには、東京スカイツリーの高さが634メートルであることを思い出す人がいるかもしれない。世界一の高さを持つ自立式電波塔として完成した東京スカイツリーの634メートルという高さは、多くの人が覚えやすいように、「ムサシ」という語呂にあわせ、当初の610メートルから変更された経緯がある。「ムサシ」の語呂が示すように、東京スカイツリーは、東京、埼玉、神奈川の一部を含む「武蔵」を一望できることができる高さだ。

実は、今回、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、世界最軽量を自ら更新した「LIFEBOOK UH-X/E3」も、従来モデルが50g減を達成して世界最軽量を維持したのと同じように、当初は、同じ50g減という社内目標が立てられていた。だが、実際に開発がスタートする時点では、それよりも意欲的な目標へと変更された。それが「ムサシ」だった。

もちろん、従来モデルも絞りに絞って実現した50g減であり、そこからさらに50g減を絞るのは、並大抵のことではない。だが、開発チームは、それを上回る64g減という目標を、内々に立てていたのだ。

開発チームが「ムサシ」にこだわったワケ

ではなぜ、開発チームは634gにこだわったのか。

それは、世界一の自立式電波塔として完成した東京スカイツリーと、同じ数字によって「世界一」を維持することがあったといえるだろう。そして、もうひとつの理由が、世界最軽量モデルの設計、開発を行うFCCLのR&Dセンターの最寄り駅が、JR南武線の武蔵中原駅であり、エンジニアたちにとって、「ムサシ」という言葉に思い入れがあったことがあげられる。

  • 富士通クライアントコンピューティングのデバイス開発、実験、評価機能拠点となるR&Dセンターは神奈川県・川崎市の武蔵中原にある

  • R&Dセンターが入居する沖電線ビル。1F~4Fにわたり、実験室や実験作業者用の執務フロア、会議フロアなどが配置されている

富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部マネージャーの河野晃伸氏は、「2020年の年初に社内で行われた開発審議会において、634gを目指すことが正式に決まった。開発審議会は、具体的に製品開発をスタートすることを決定するものであり、その点では、開発当初から視野には入れていたといえる。だが、これは多くの社員で共有していたものではなく、一部関係者だけの情報として取り扱われ、開発を進めていった」と明かす。

FCCLが、世界最軽量モデルの座を奪取したのは、2017年2月に発売した「LIFEBOOK UH75/B1」が最初だ。同製品の重量が777g。このときの開発チームは、「チームトリプルセブン」と呼ばれたように、FCCLの開発チームは、語呂にこだわる風土がある。つまり、世界最軽量を目指す開発チームにとって、「ムサシ」は、達成できる可能性を持った、今回、目指すべき最大限の目標と捉えたのだ。

  • 富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第一技術部マネージャーの河野晃伸氏

とはいえ、射程距離としてはギリギリの範囲だ。富士通クライアントコンピューティング プロダクトマネジメント本部第一開発センター第三技術部マネージャーの松下真也氏は、「最後の最後に、4gを詰めることができない状態で足踏みしてしまった」と振り返る。

エンジニアが執念で削った「あと4g」

実際、開発チームは一度、目標よりも4g多い、60g減の638gで完成を目指したという。ここまで詰めたことは「妥協」とは言えないだろう。だが、開発現場のエンジニアたちは、最後の最後まで「ムサシ」を諦めなかった。記者会見用に撮影されたトップメッセージが、638gという数字で収録されたあとも、挑戦を続けたのだ。

SSDの冷却用部材を別の対策部材に変えるなど、軽量化できる部材は置きかえるといった手をさまざまな観点から打ち、0.1g単位の軽量化を積み重ねていった。

「最後の最後に、なんとか4gを刈り取ることができた」と松下氏が語るように、エンジニアの執念によって、まさにギリギリのところで、「ムサシ」を達成してみせたのだ。

  • LIFEBOOK UH-X/E3の試作機。天板も従来のマグネシウムリチウム合金より軽く頑丈なカーボン素材となった

100以上の「軽量化ネタ」をリストアップ

この時に生かされたのが、「軽量化ネタ」と呼ばれる一覧表であった。

従来モデルにおいて、最後の追い込みのために、軽量化できる要素を書き出したのが、この「軽量化ネタ」の一覧であったが、今回は開発当初からこれを活用。部品のひとつひとつを洗い出し軽量化を検討していった。試作機を作る前の段階で80以上の項目があがり、評価中にはさらに40以上の項目が追加された。最後の4gの刈り取りでも、この軽量化ネタの一覧は威力を発揮した。

このように、武蔵中原のR&Dセンターで生まれた634gの世界最軽量ノートPCは、開発チームの「ムサシ」への徹底的なこだわりによって生まれた。武蔵中原で生まれた「ムサシ」なのである。