食が果たす役割

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    閉鎖環境における特別な日の食体験ソリューションイメージ図

食料生産の技術だけではなく、食が果たすQOL向上という観点の議論で興味深い話題を最後に紹介しておこう。パネルディスカッションでは国立健康・栄養研究所、国際災害栄養研究室長の笠岡(坪山)宜代氏が登壇。笠岡氏は災害時の食事の問題を研究しており、いつも後回しになりなかなか改善されない災害時の食を改善するために、世界で初めて災害と栄養の専門部署を立ち上げ研究している。「災害栄養研究者からすると災害食と宇宙食は共通点が多く、宇宙日本食の基準をもとに日本災害食の認証制度がつくられるなど宇宙のノウハウが災害にいかされている」という。

笠岡氏が強調したのは災害時など生き残るための食事であっても「我慢しないことが大事」という点。避難所では栄養の補給のために我慢して食事をとりがちだ。最初はパンやおにぎりなどの炭水化物、次に揚げ物ばかりのからあげ弁当……それを繰り返すと食欲がなくなり悪循環におちいる。「食は生きるための基本です。美味しさも好きな物もあきらめない。例えば避難所で自分たちで炊き出し調理を始めた避難所は食事の内容がぐんとよくなっているという研究結果があります。食事の質が変わるんです」(笠岡氏)

また「食を後回しにしたり、当たり前と思ったりしてはいけない」とも主張する。「災害が起こると食事は手に入らない。当たり前じゃないことに気付くのです。食は皆さんの努力で手に入れることができるのに、日常では軽視されている。ふだんから食事に意識を向けることが大事です」。これは耳が痛い。

食を楽しむという点ではクックパッドの小竹貴子氏の発言も印象的だった。「楽しくなると優先順位があがります。食事は作業になるとつまらなくなる。食べること作ること自体が何より楽しくなるといい」

クックパッドは投稿数337万品、月7400万人もの利用者数がいるという。興味深いのは過去のユーザーの検索データから、たとえば熊本地震の際には料理などをめぐって何に困っているかを分析し、次の災害時に備えて「こういう情報が求められている」と発信したそう。レシピで好まれたのはホットケーキミックスだったという。「子供に美味しいおやつを作ってあげて心を満たすのは、お母さんにとって大事だったんですね。簡単にできるホットケーキミックスはコロナ禍でも人気でした」(小竹氏)

米田肇氏は料理人の立場から、月面での料理の可能性への期待を語った。「地上の料理は重力を上手に利用しているから宇宙の料理には工夫が必要になるだろう。一方で地上では重力で潰れてしまうものが潰れない状態でふわっと作ることができる」また味覚についても、地上では舌で味覚を味わっているが、宇宙では(口の中の)上のほうで味わうことになり、味や風味の感じ方が変わる可能性もあると語る。

地球と宇宙の課題解決に貢献し、新たな産業を作り出そうというSFS。こうした食文化の変化も楽しみである。