微細藻類、培養肉、植物工場の現在

カンファレンスでは実際に月面で食料供給システムを実現するための技術をもった企業や大学などの参加者が、熱い議論を行った。

たとえばユーグレナはミドリムシなどの微細藻類を二酸化炭素と光と水などから光合成によって、栄養豊富な食料として大量生産することを可能としている。ユーグレナでは火力発電所から出る排ガスからミドリムシを育てたり、佐賀市の下水浄化施設の下水・排水を利用して育てるなどの実験も行っている。今後の課題としては省スペース、省エネルギー化を突き詰めること。

その微細藻類から栄養素を抽出して動物細胞を培養し、培養肉を作る「循環型細胞培養」の研究も行われている。東京女子医大の清水達也教授は現在の食の課題について「災害やコロナ禍のようなパンデミックが起こると、海外からの流通が止まる可能性もあり、自分たちで自分の食料を確保しなければならない食料安全保障上の問題もある」と語る。

また現在は穀物を栽培し、その穀物を飼料とする家畜を育て、それら個体の一部を我々は食べていて、無駄が多いと指摘する。そこで個体を構成する最小単位の細胞から組織を育てようという。それが培養肉だ。「穀物を藻類に置き換え、藻類から栄養素を抽出して動物細胞を培養する。廃液もリサイクルする」。細胞だけの循環システムが成り立てば宇宙に持って行けるし、地上における環境負荷や安全保障の問題をクリアできるのではないかという。

一方、植物工場のスタートアップであるプランテックスは、地上での植物工場の問題点を説明した。屋内でレタスなどを育てることができ、省資源での野菜生産ができると期待されるが植物工場の45%は赤字だという。

その原因は植物工場がオープン型であること。「環境制御について部屋のばらつきが大きく温度では5度ぐらいのばらつきがあるため」(プランテックス代表取締役の山田耕資氏)。そこで同社が開発したのは断熱素材で覆われ環境制御性を高めた、クローズド型の植物工場。20個の重要パラメータの個別制御が可能で収穫が安定し、一般的な植物工場の3~5倍の収穫量を達成し低コストで高付加価値の野菜を作ることに成功している。

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ただし、山田氏は「植物工場単体で成り立つ時代ではない」という。低コスト化を実現するには廃棄物を活用するなどコラボレーションが必要だが、地上ではなかなか難しい。宇宙というテーマでコラボすることが地上のコラボに繋がると言い、たとえば「コラボした装置をISSで稼働するなど具体的なアクションに落とし込んでほしい」と要望する。地上だと代替手段があり際立ちにくい課題が宇宙では可視化されるし、研究開発のスピードが加速されるという声がパネリストたちからあがった。

今後の課題 - 地上と宇宙での実証

SFSは個々の技術を磨くだけでなく統合することが必要であり、今後は地上と宇宙の実証フィールドで検証を行うとしている。実スケールでの実験の第一歩として、カンファレンス会場には数メートル四方の空間(約3畳)が用意されていた。この空間はなんだろう?

極地建築家でSFS理事である村上祐資氏によると、この空間は国際的に災害や紛争での人道支援に使われるスフィア基準の避難所で最低限必要とされる大きさにのっとっているという。同時にこれはSFSの単独食事ソリューションで描かれた、月面を移動する一人乗りローバーの大きさでもある。

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    カンファレンス会場に用意された約3畳の空間。国際的に災害や紛争での人道支援に使われるスフィア基準の避難所で最低限必要とされる大きさであり、SFSの単独食事ソリューションで描かれた、月面を移動する一人乗りローバーの大きさでもある

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    上の空間では下の「極小空間での単独の食事ソリューション」イメージ図の研究を行っていくことになるだろう

月面では基地間の移動などにこうした月面ローバーが数週間にわたり使われる可能性がある。そこで、この実寸大スケールモデルの中で実際に月面での生活を想定しながら、動いたり作業をしたり、睡眠を含めた衣食住をしながら、食に関する様々なソリューションを試していく。村上氏が主張するのは「どんな場面でも単に生き延びるための食料ではなく、どうすれば食事になるか。さらに他のクルーと遠隔でつないだ食卓が実現できるのか」。狭く閉塞感のある空間でも食事、食卓をあきらめないことを、実寸大スケールで試してみるという。

具体的には、SFSに参画する企業が開発している商品などを組み合わせて実際に検証していくことになるだろう。「宇宙実証や地上でも予算をかけた開発が必要となるものについては2022年度以降に実証実験を開始していくことになる。既存設備を活用するなどできるところから実験を始めていく」とSFS理事のJAXA菊池優太氏は語る。