8K放送と聞けば、画素数が大幅に増えたきめ細やかな映像を思い浮かべる人は多いはず。しかし、8K放送は映像の精細化のみにあらず、音声もチャンネル数が最大22.2chと大幅に増えるため、表現の幅が劇的に変化します。8Kテレビで先行するシャープが発売したサウンドバー「8A-C22CX1」(8月29日発売、実売約79,200円)を実際に試し、8K時代のサラウンド/シアターバーについて考えました。
バーチャルサラウンドを本物らしく聞かせる「OPSODIS」
今、自宅で映画を楽しむ人が増えているそうです。このご時世、理由は言わずもがなですが、問題は「音」。薄型テレビはいまや50V型、60V型が売れ筋ですが、画面サイズには満足できても映画館の臨場感ある音にはほど遠い、と感じる人は少なくないはず。しかし住宅の事情により、複数のスピーカーを用いたサラウンド環境を用意できないときは、シアターバー(サウンドバー)の出番です。
シアターバーでサラウンドというと、リアルのスピーカー位置と両耳との頭部伝達関数(※)をサラウンド信号に畳み込んで実現する「バーチャルサラウンド」が主流ですが、頭の大きさや耳介の形状は人それぞれなため、頭部伝達関数は個人性が高く、期待するような効果が得られないこともあります。
(※注:リスナーの頭部や肩などの三次元形状によって生じる音の変化を表現した関数で、鳴っている音が左右の耳にどのように届くかを表します。測定用音波をさまざまな方向から出力し、耳元で集音して測定することが一般的です)
もうひとつ、バーチャルサラウンドの効果を損なってしまう問題があります。頭部伝達関数の畳み込み処理(バイノーラル化)によって得られたLR各チャンネルのオーディオ信号は、L信号は左耳だけに、R信号は右耳だけに届ける必要があるものの、スピーカーで聴くとどうしても空間で混じり合い、L信号は右耳にも、R信号は左耳にも届いてしまいます。これが左右両耳間の「クロストーク」で、取り除くことがバイノーラル化の次に行われるべき重要な処理となります。
つまり、バーチャルサラウンドをより本物(リアルサラウンド)らしく聴かせるには、バイノーラル化とクロストークキャンセルの性能が重要ということです。シャープは新シアターバー「8A-C22CX1」で、後者のクロストークキャンセルに新しいアプローチを持ち込みました。それが「OPSODIS(オプソーディス)」です。
OPSODISは、鹿島建設の研究部門・鹿島技術研究所と英国サウサンプトン大学の共同開発による立体音響技術。左右どちらかの耳だけに音を届けたいとき、逆相の信号を生成して打ち消す従来の手法ではなく、周波数ごとに異なる両耳間の位相差を制御する信号(90度位相が異なる)でクロストークキャンセルを行います。8A-C22CX1ではその生成をツイーターとミッドレンジ、ウーファーに分散して担わせ、ユニットの角度を調整するなどして各周波数間の干渉を最小化することにより、クロストークキャンセルの効果アップを狙います。
この8A-C22CX1、本体は2018年発売の「8A-C31AX1」と同じものを利用しているため、外観はほぼ同じですが、OPSODISの採用など設計が根本から見直されたことで中身は一新されています。
最大22.2chのMPEG-4 AAC音声入力に対応し、22.2chの音はそのまま再生(前モデルは最大PCM 8ch/3.1.2ch相当)。フロントスピーカーは3ウェイ/計10スピーカーで構成し、計6基の独立したデジタルアンプで駆動しています(従来は2ウェイ/計11スピーカー)。