今回、Oculusからお借りしたQuest 2の実機を数日試すことができた。筆者はかつてPlayStation VRを使っており、取材などでもVR機器に触れているので操作にはある程度慣れている。PS VRは発売当時は画期的なVR HMDであったが、やはり動き回るときにPS4とHMDをつなぐ太いケーブルの存在を意識しないわけにはいかなかった。

  • Oculus Quest 2

    Oculus Quest 2の正面

その点、HMDを着けたままで立ったりしゃがんだり、といった動作が快適に行えるケーブルレスのQuest 2は、当然ながらストレスフリーで快適だ。Quest 2を使ってのマルチプレイヤー対戦型VR FPS「Population : One」のデモ体験で、ケーブルを気にせずVR内で自由に動けることの快適さを改めて実感した。

  • Oculus Quest 2

    VR FPS「Population: One」

OculusがQuest 2をVRゲーム機として訴求している点は前世代と同じだが、ハイパフォーマンスなシステム構成や高画質なディスプレイを採用して基礎体力を高めたことにより、ゲーム以外の分野でもおおいに活用できそうだと感じる。

個人的には、Quest 2を手ごろなVRホームシアターとして利用することをオススメしたい。普通の家では設置できないような大画面もVR内なら難なく体験でき、スマホに安価なVRゴーグルを組み合わせるのとは別格のVR体験が楽しめる。ちなみに、従来のQuestに同梱されていた「Oculus TV」アプリは、Quest 2でも利用可能だ。

今回はYouTubeやNetflix、Amazon Prime Video、DMM VR動画プレイヤーといった動画配信サービスのアプリを中心にQuest 2にインストールし、いくつかの作品をストリーミングで視聴してみたが、画質に不足はなく、なによりも久しく足を運んでいない映画館並みの大画面で映画やアニメ、VR動画を見られて満足。

DMM.comのVR動画サービスで販売されている、小惑星探査機「はやぶさ」の軌跡を描いたフルドーム映像『HAYABUSA-BACK TO THE EARTH-』(税込3,300円)や、人気ライトノベル『狼と香辛料』を原作とした『狼と香辛料VR』アプリ(税込2,490円)などのコンテンツも、Quest 2によって高画質かつ臨場感たっぷりで楽しめた。

YouTubeなどで大量のサムネイルをスクロールしながら作品を選んで再生したり、シークバーを操作して見たいシーンまで飛ばすといった操作を次々に行うと若干待たされることもあったが、そこまで動作がもたつく印象ではなかった(自宅のネットワーク環境の問題もあるかもしれない)。

HMDにはポジショナルオーディオ機能を備えており、イヤホン/ヘッドホンで耳をふさがずに、VRゲーム/コンテンツの音を内蔵スピーカーで聞ける。オープンな構造なので音漏れはあるものの、開放感があって十分にVRを楽しめる。サウンドはVR内の音のする方向に連動するため、たとえばゲームなどではチームメイトの声や背後に忍び寄る音などがリアルに聞けるそうだ。

3.5mmステレオミニのヘッドホン出力も備えており、周囲に配慮したいときや夜間の利用時にはHMDの内蔵スピーカーを使わずにすむので重宝する。なお、本体にマイクを内蔵しているため、対応アプリであればHMD単体でのボイスチャットも可能だ。

  • Oculus Quest 2

    HMDにポジショナルオーディオ機能を装備。左右側面のバンド部の、耳に近い箇所(画像中央の黒い横長スリットの中)にスピーカーを備えている

  • Oculus Quest 2

    音量調節ボタンがHMD下部の右目側にある

VRホームシアター以外にも、Quest 2の活用方法は色々ある。

たとえばVRエクササイズ。Oculusのアプリストアでは、『Supernatural』や『FitXR』といった、自宅でVRを使ってエクササイズできるように設計されたアプリが提供されている。コロナ禍の影響で家からあまり出なくなってしまった、筆者のようなズボラな人間にはとてもありがたい。

他にもPCをVR内で使ったり、画面を他のユーザーと共有したり、仮想会議を開催したりできるアプリもあり、「vSpatial」というVRワークプレースサービスはその一例といえるだろう。ソーシャルVRでは「VR Chat」や「Rec Room」といった既存のアプリに加えて、Facebookがまもなく提供予定の新サービス「ホライズン(Horizon)」なども利用可能になる見込みだ。

今回は上記のアプリとは別に、Quest 2の取材のために用意されたVRデモ空間の中でOculusの担当者と少し話をする機会を得たが、Zoomなどの平面映像を通じたコミュニケーションとはまた違った新鮮さがあり、リアル空間で相手と本当に話しているような生々しさも感じられた(それだけに、盛り上がったデモが終わって回線が切れたあとの一抹の寂しさも、妙に刺さるものがあった)。

ここまでQuest 2のさまざまな魅力を紹介してきたが、最後にQuest 2の使用にあたって“ある懸念と誤解”があることもお伝えしたい。

実は、Oculusは2020年10月から、同社のVRデバイスを初めて使用するときはFacebookアカウントでのログインを必須にする。さらに、既存のOculusアカウントのサポートを2023年1月1日をもって終了する予定だ。このアナウンス(英文)の中で重要なのは、以下の3つ。

  1. 2020年10月以降、Oculusデバイスを初めて使用するときは、Facebookアカウントでログインする必要がある
  2. すでにOculusアカウントを持っている場合は、Facebookアカウントに統合(マージ)するオプションを提供する
  3. 既存ユーザーが上記のアカウントを統合しなかった場合、Oculusアカウントを2022年末までの2年間継続利用できる

Facebookアカウントを使うことで、VRで友人を見つけて一緒にゲームを遊ぶことがより簡単になるほか、ホライズンのようなマルチプレイヤー・ソーシャル体験を実現することが狙い……ということだが、一方でこの発表があったとき、ネット上では「実名制のFacebookと、VR用のプロファイルを統合したくない」といった否定的な反応が非常に多く見られたのも事実だ。筆者もそういう声が上がることは当然理解できる。

ただし、今回筆者がQuest 2を試用した限りでは、Oculus側であらかじめ適切に設定しておくことで、Facebook側に特に影響することなく使えていることを確認できた。

現在はFacebookアカウントでログインした場合も、独立したVRプロファイルが作成・管理できる仕組みになっており、Oculus上の友だちにFacebookの名前で検索されたくない場合は、Oculusの設定で「自分のみ」を選ぶことで制御できる。アプリの使用状況を勝手に公開されないよう設定することも可能で、VRアクティビティがユーザーの許可なくFacebookに投稿されることもない。このようにユーザー側でできる対策(設定項目)がきちんと用意されているので、あとはFacebook/Oculusによる適切な情報の運用を願うばかりだ。

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    Oculusのスマホアプリから、Oculus Quest 2に入れたアプリのアクティビティ・ステータスの表示/非表示を選べる

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    Oculusのアクティビティ、友だちリスト、Facebookでの名前の各項目をすべて「自分のみ」にしてみた。ひとりでVRを楽しみたい向きには、これが安全かもしれない

こうしたアカウントの扱いを受け入れられるのであれば、Oculus Quest 2は非常に魅力的なVR HMDといえる。前世代から性能がアップしていながら64GBモデルが33,800円(税別)、256GBモデルが44,800円(同)と買いやすい価格になっていることも見逃せない。初代Questの64GBモデルが直販49,800円(税込)、128GBモデルが同62,800円だったことを考えると、非常にお買い得なVR HMDだ。

前世代のOculus Questを持っている人も、スマホVRで「VRってこんなものか……」と感じた人も、Quest 2に触れる機会があれば、ぜひ試用してみることをオススメしたい。文章だけでは伝えきれないVRの楽しさや魅力を、パワーアップした新モデルを通して実感できると思う。