過去20年間で世界の半導体製造能力における米国のシェアが50%低下したことを受けて、米国の超党派の議員たちが米国半導体製造強化法案(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act、略称:CHIPS for America法)を上下両院に6月中旬に提出したことに関して米国に本部を置く国際半導体製造装置材料の業界団体であるSEMI(国際半導体製造装置材料協会)がこれを強く支持する声明を出した。
同法案には、SEMIがかねてより要請してきた連邦投資税額控除(ITC)に関する条文が含まれているからだという。半導体製造装置や設備への投資に対して40%返金可能なITCは、米国の半導体工場に投資するすべての企業に直接的かつ透明なインセンティブになるとしている。この法案は、米国における半導体の研究、設計、製造の競争力を向上させ、その結果、何千もの新しい仕事を生み出し、国家安全保障を強化することになることを狙っている。
SEMIが長年提唱してきた設備投税額控除は実現されるのか?
SEMIのプレジデント兼CEOであるAjit Manocha氏(元GlobalFoundries CEO)は「半導体はすべての電子機器および情報技術の基盤であり、この重要なサプライチェーンは全米で約24万の高スキルおよび高賃金の仕事を生み出している。SEMIメンバーは全米で半導体サプライチェーン施設を運営しており、25の州には少なくとも1つの半導体関連施設がある。SEMIは長い間、投資税額控除を提唱してきており、この立場から投資税額控除を含むCHIPS for America法を強く支持する」と述べている。
SEMIによると、米国に本社を置く半導体企業の世界市場でのシェアは約5割で、米国の半導体製造装置、設計ソフトウェア、および主要材料業界も世界をリードするシェアを獲得しているにも関わらず、半導体生産能力そのもののシェアは12%にすぎない。「外国政府は半導体ファブ建設に対して手厚い優遇策を用意してきたのに対して、米国の連邦政府による米国内での半導体ファブ建設への優遇策が欠如していたことが、多くの半導体ファブが海外に立地する要因となっている。CHIPS for America法は、連邦政府が国内に半導体ファブ建設するためのインセンティブと公共投資を創出し、半導体業界が経済を活性化させるためのイノベーションを推進するのを支援するための重要な一歩になる」とSEMIは見ている。
日本も半導体の製造能力強化を目指すのか?
経済産業省 商務情報政策局は、2020年4月に「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業研究開発計画」を公表したが、そのなかに「先端半導体製造技術の開発」(助成金事業)という項目があり、「情報通信システムにおいては、装置内で信号の処理を行う半導体が極めて重要な役割を担う。現在、日本国内には、ポスト5Gを含む情報通信システムにおいて必要となる先端的なロジック半導体等の製造能力が無く、供給安定性等の観点で脆弱な状況にある一方で、ポスト5G以降の情報通信システムにおいては、先端半導体の重要性が更に増していくと考えられる」と説明。日本の半導体企業は2000年代に45/40nmプロセスを最後に自社工場での先端ロジック半導体製造から撤退してしまったため、現在、国内で先端ロジックICは製造できないことを指摘している。
また、「このため、将来的に、情報通信システムで用いられる先端半導体を国内で製造できる技術を確保するため、先端半導体の製造技術の開発に取り組む。具体的には、パイロットライン(一部の製造工程から成るリサーチラインを含む)の構築等を通じて、国内にない先端半導体及びその周辺部材(ロジック半導体と組み合わせて動作するメモリや光デバイス等に関する技術、ロジック半導体を含む複数の半導体の実装技術等を含む。)の製造技術を開発する」と先端ロジック半導体試作ラインの国内構築を構想している。
すでに「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業研究開発計画」には1100億円の予算が承認され、実行段階にある。しかし、日本には、かつて経済産業省主導の先端ロジック半導体技術研究開発組織「超先端電子技術開発機構」(ASET、2013年解散)や先端ロジックの製造技術のプラットフォームと試作ライン実現を目指した「先端SoC基盤技術開発」(ASPLA、2005年解散)はじめ様々な半導体製造力強化のための国家プロジェクトが存在していた。しかし、残念ながら、目標として掲げた「日本の半導体産業の復権」に寄与することはできなかった過去がある。
今回の経済産業省の構想は、ASPLAの再来を思わせる。経済産業省の1課長の発案により同省が315億円を投じたASPLAは、メンバーが同床異夢で、始まる前からうまく行かないことを多くの業界人は見抜いていた。今回の取り組みについては、過去の数々の国家プロジェクト、とりわけASPLAの失敗から学び、同じ過ちを繰り返さないで欲しいものである。