モバイルネットワークの通信環境などを分析する英Opensignalが、日本市場における調査結果を発表。モバイルゲームで優れた体験が可能かどうかを示す指標で世界100カ国中3位にランクインするなどしており、同社の分析担当バイスプレジデントのIan Fogg氏は、「日本のモバイルネットワークは全体的に見て世界トップとは言えないが、トップティア(最上位グループ)に入っている」と称賛しました。

  • Opensignalが調査・分析したモバイルネットワーク体験の各部門と受賞キャリア

Opensignalは、同社アプリなどでスマートフォン内にインストールされた機能を用いて、ネットワークの情報を収集。1億台以上のデバイスから、毎日数十億のデータを収集しているそうです。今回発表された日本の調査では、2019年12月1日から2020年2月28日の3カ月間、33万3.336台から得られた22億607万9,950のデータを用いて分析され、国内3キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)が評価されました。Fogg氏は、単にデータを収集するだけでは十分ではなく、「データサイエンスによる分析を行って意味を見いだしていく」ことが重要であるとします。

そうして発表された調査結果では、複数の指標についてモバイルネットワークの分析が行われています。Opensignalが重視しているのは「体験」で、単に数値を計測しただけでなく、ユーザーが実際にどのような体験を得ているかが重要視されています。

たとえば「ビデオ・ユーザー体験」では、ビデオのストリーミングがストレスなく、途中で途切れることなく再生できるかなどの点から分析。単に通信が速いだけでは分かりません。結果、100点満点で80.3ポイントのソフトバンクが最も高く、次いで77.5ポイントのKDDI、77ポイントのドコモと続きます。ただ、3社とも「エクセレント」に位置づけられる数字で、「3社とも非常に優れたスコア」(Fogg氏)とのことです。

  • ビデオ・ユーザー体験の結果。いずれも世界的に見ても優秀な結果だったそう

これに対して、ダウンロード速度とアップロード速度については、いずれもドコモが1位でした。スピードとともに、映像が安定して再生されるかどうかといった点で、ビデオ・ユーザー体験はソフトバンクが優れていた――ということになるでしょう。

  • ダウンロード速度とアップロード速度の結果

遅延時間に対するユーザー体験では、ソフトバンクが36.2ミリ秒で最速となりました。遅延が短いとストリーミング開始が速くなるといったように、体験価値が向上します。

  • 遅延時間の結果

LINEなどのアプリを使った音声通話のユーザー体験に対しては、ソフトバンクが83.8ポイント、ドコモが83.6ポイントの僅差だったため、同率の1位として認定されました。

  • 音声アプリを利用したユーザー体験の結果

4G利用率という指標は、現在の主力ネットワークである4Gにどれだけ接続していたか、つまり3Gなどに落ちたりせずに4Gで継続できたかどうかの指標。1位となったのはKDDI(au)の99%でした。KDDIは、スマートフォンでは4Gのみの通信となっているため、基本的に3Gに落ちることはありません。そのため、利用時間が長くなり、1位となったのでしょう。対して、4Gのカバレッジのユーザー体験は9.7ポイントのドコモが1位でした。

  • 4Gの利用時間とカバレッジ

各都市におけるデータも分析しており、たとえば全国のダウンロード速度が奮わなかったKDDIは、東京ではドコモを上回って1位になるなど、都市ごとに得られる体験が異なることも示されています。

結果として、8つの項目からなる調査のうち、ドコモが4冠、ソフトバンクが3冠を受賞し、KDDIは1冠となりました。現状、日本のモバイルネットワークは4Gがメインで、今後は5Gエリアも拡大する見込みですが、当面の5Gは4Gを併用するNSA方式となるため、しばらくは4Gも重要になります。そのため、Opensignalでは4Gの調査を継続しつつ、日本でも5Gの調査を導入する考えです。

モバイルゲームのユーザー体験は優秀

新たな指標としてモバイルゲームのユーザー体験も導入しましたが、これは世界100カ国中で第3位という好成績。Fogg氏は、全体的に見て日本のネットワーク品質は世界でも有数という判断を示しています。たとえば5Gの導入が早かった韓国は、全体的に見れば世界でトップのネットワーク体験を提供しているとしつつ、領域によってはトップではないそうで、Fogg氏はこうした様々な領域から調査するOpensignalのメリットをアピールしています。

5Gを開始したばかりの日本キャリアは4Gの重要性をアピールしており、今回の結果は世界的に見ても優れた成績でした。日本のネットワーク品質の高さが改めて浮き彫りになったと言えるでしょう。国内3キャリアでも差があるため、さらなる競争によってネットワーク品質の向上を期待したいところです。

今後の主戦場は5Gに広がり、ネットワーク品質だけではなくサービス競争も激化していきます。ネットワークに加えて新たな競争軸でも評価が必要になるでしょう。5Gでキラーアプリのひとつとされるモバイルゲームが評価に入っており、今後も5G時代に即した評価・分析を期待です。なお、調査期間で本サービスを開始していなかった楽天モバイルは含まれていませんが、Opensignalでは今後、楽天モバイルも調査に加えていく計画です。

新型コロナウイルスの影響は

同時にFogg氏は、新型コロナウイルスによって人々がどのように活動したかを推測するデータも公表しています。一般的に、外出するとモバイルネットワークに接続、自宅に帰ると自宅のWi-Fi(無線LAN)に接続するという観点から、新型コロナウイルスの影響で人々が自宅にとどまっていることが推測できる、としています。

3月半ばごろからWi-Fi接続の時間が長くなる国が増えていたそうですが、「日本では変化がなかった」(Fogg氏)とのこと。イタリアは早期から行動が変わり、政府による移動制限などが発令される前から変化が見られたそうです。

  • 新型コロナウイルスの影響でWi-Fiへの接続時間が増加した(自宅にいる)と推測しての分析

また、自宅のWi-Fi接続が増えるとモバイルネットワークの利用が減って、通信速度が向上するのでは、と予測していたそうですが、逆に平均の通信速度は低下する国が増えました。これは多くの国がモバイルデータの通信容量を無償提供するなどして、利用量が増えたことが理由のひとつとFogg氏は推測しています。ちなみに、日本、香港、台湾、韓国では、通信速度に変化はなかったとのことです。

いずれにしても、現状は日々変化しているため、状況は流動的とFogg氏は強調しました。日本でも緊急事態宣言によってデータ通信に変化が起きている可能性もあり、Opensignalは継続して調査するとしています。