NTTドコモは次世代モバイル通信の「5G」のサービスを提供するに当たり、スマートフォンを購入しやすくするプログラム「スマホおかえしプログラム」を改訂、NTTドコモ以外のユーザーがこのプログラムを利用できるようになりました。改めてその内容と狙い、実際に誰がお得になるのか? といった点について確認したいと思います。

5G開始で他社ユーザーも利用できるように

2019年10月の電気通信事業法改正によって、従来のようなスマートフォンの大幅値引きができなくなりました。ですが最近では、スマートフォンのハイエンドモデルであれば100,000円はするのが当たり前で、値引き規制によってそうしたスマートフォンを購入するのは非常に困難な状況となってしまっています。

そこで携帯電話各社は、そうした高額なスマートフォンを購入しやすくする、端末購入プログラムの提供に力を入れています。その中でNTTドコモが提供しているプログラムが「スマホおかえしプログラム」です。

  • ドコモの「スマホおかえしプログラム」は、5Gのスタートと同時に他社回線ユーザーも利用できるようになった

    法改正により端末値引きが難しくなったことを受け、NTTドコモが提供している「スマホおかえしプログラム」。2019年より提供されているものだ

これは、同社が指定したスマートフォンを36回払いで購入し、途中で端末を返却すると最大12ヵ月分の支払いが免除されるというもの。端末を返却するタイミングはいつでも構わない上、新しい端末に機種変更する必要もないことから、端末の返却期間が限定されている上に機種変更が求められる、他社の端末購入プログラムと比べると比較的利用しやすいプログラムといえるでしょう。

ちなみに2020年4月13日時点で同社のWebサイトを確認すると、スマホおかえしプログラムの対象となっているのはiPhoneシリーズや最新の5Gスマートフォンなど高額なモデルが主体。そうした高額な端末を少しでも買いやすくするプログラムであることが分かります。

  • スマホおかえしプログラムの基本的な仕組み。36回払いの割賦でスマートフォンを購入し、好きなタイミングでスマートフォンを返却すると最大で12か月分の支払いが不要になる仕組みだ

このプログラムは2019年6月より開始されているものですが、2020年3月18日にNTTドコモが5Gの商用サービス提供を発表した際、1つ大きな変更が加えられました。それは、NTTドコモの通信契約者以外でもこのプログラムが利用できるようになったことです。

実はこれまで、スマホおかえしプログラムを契約する際にはNTTドコモの回線契約が必要でした。一度契約した後は、回線契約を解約してもプログラムの利用を継続できる仕組みではあったのですが、契約時に回線契約が必須なのでNTTドコモの回線契約者以外は利用できませんでした。

ですが今回の変更によって契約時の回線契約が必須ではなくなり、誰でもスマホおかえしプログラムを利用して端末を購入できるようになったのです。それゆえauやソフトバンク、楽天モバイル、そしてMVNOのユーザーなどが、ドコモショップでスマホおかえしプログラムを使い、同社が販売するスマートフォンを購入することも可能になったワケです。

実は意外とハードルが高い他社回線での利用

今回の変更によって、NTTドコモ以外のユーザーにとって大きなメリットが生まれたことは確かでしょう。ですがその内容を見ると、NTTドコモ以外のユーザーがスマホおかえしプログラムを利用する上では、注意すべき点がいくつかあるようです。

1つは契約と支払いの方法です。スマホおかえしプログラムはドコモショップなどで契約可能ですが、契約時に必要な本人確認書類は運転免許書のみに限定。支払い方法も口座振替、もしくはdカードのみに限定されており、dカード以外のクレジットカードへは順次対応するとされているものの、少なくとも2020年4月時点ではまだ対応していません。

  • 他社回線ユーザーがスマホおかえしプログラムを契約する場合、現在のところ支払い方法が口座振替とdカードのみに限定されているし、SIMロック解除ができるのはdカード払いのみとなってしまう

2つ目はSIMロック解除です。購入した端末をNTTドコモ、あるいはそのMVNOの回線で利用するにはSIMロック解除の必要はありませんが、auやソフトバンク、楽天モバイル(MNO)のSIMを挿入して利用するにはSIMロック解除が必要ですし、そのためには料金の支払い方法をdカードにする必要があるのです。

なぜなら誰でもSIMロック解除できるようにしてしまうと、毎月の端末代の支払いを踏み倒し、海外などに転売してしまう人が多数出てきてしまうため。毎月料金を確実に支払ってくれる保証を得るにはクレジットカード契約が必要なのですが、現在のところdカードにしか対応していないため、こうした厳しい制限が出てきてしまっているワケです(もちろん36回分の支払いが完了していれば、口座振替で購入した端末であってもSIMロック解除は可能です)。

そして3つ目は「ケータイ補償サービス」が利用できないこと。これは330円~1,000円の月額料金を支払うことで、端末故障などのトラブルが起きた時に、代わりの端末に交換してくれるなどさまざまな補償が受けられるというものです。

ですがこのサービスはあくまでNTTドコモの回線契約者向けなので、他社回線ユーザーが利用することはできません。どうしても追加の補償が欲しいというのであれば、自分で何らかの保険サービスを探して入る必要があります。

  • NTTドコモは「ケータイ補償サービス」など充実したサポートサービスを提供しているが、他社回線ユーザーは利用することができない

実は自社ユーザー向けの値引き強化策、5Gスマホも半額以下に

こうして見ると、NTTドコモのユーザーがスマホおかえしプログラムを利用するには、かなり高いハードルがあるように感じるのですが、それにもかかわらずなぜNTTドコモは、他社ユーザーも利用できるプログラムへと変更を加えたのでしょうか。その理由は他社ユーザーへの端末販売強化ではなく、NTTドコモの回線契約者に対する端末値引きを手厚くするためと考えられます。

改正電気通信事業法では回線契約に紐づくスマートフォンの値引き額が20,000円(税抜)までと制限されており、契約時に回線契約を求めていた従来のスマホおかえしプログラムは、この制限に抵触してしまっていました。ですがプログラムの契約時に回線契約を不要すれば、誰でも利用できる純粋な物販サービスとなるためこの規制を回避でき、端末の割引額を増やせるワケです。

実際NTTドコモは5Gスマートフォンの提供に合わせて「5G WELCOME割」を提供しており、NTTドコモに新規契約、または番号ポータビリティ(MNP)で転入して対象の5Gスマートフォンを購入すると20,000円、機種変更で購入すると5,500円の値引を受けることができます(いずれも税込)。

  • NTTドコモは5Gスマートフォンの提供に合わせて、スマホおかえしプログラムの変更だけでなく「5G WELCOME割」の提供も開始。新規・MNPの場合、改正法の上限となる最大22,000円の割引が受けられる

これに従来のスマホおかえしプログラムを適用すると、上限20,000円の値引き規制を受けてしまいます。ですがプログラムの変更によって改正法の影響を受けないようにすることで、5G WELCOME割を適用しながらスマホおかえしプログラムによる端末返却時の値引きも受けられるようになったのです。

例えば「AQUOS R5G SH-51A」の場合、ドコモオンラインショップでの価格は111,672円ですが、スマホおかえしプログラムを24カ月目に適用した場合の実質負担金は74,448円。加えてNTTドコモに新規契約すれば、5G WELCOME割が適用され20,000円引きとなるため、実質的な支払額は54,448円となり、端末返却の必要があるとはいえ支払いは半額以下で済んでしまいます(ただしドコモオンラインショップの場合、新規契約の5G WELCOME割は端末の値引きではなく値引き額分をdポイント還元する形となる)。

  • NTTドコモから販売されている「AQUOS R5G」の価格は110,000円台だが、5G WELCOME割とスマホおかえしプログラムの利用により、実際の支払額は50,000円台で済む計算となる

実はNTTドコモだけでなく、ソフトバンクの「トクするサポート」やKDDI(au)の「かえトクプログラム」も、他社ユーザーも利用できるようにすることで法規制を回避しながら、実質的な値引き額を増やして自社回線利用者に向けてスマートフォンを購入しやすくすることに力を入れています。それゆえ高額なハイエンドスマートフォンが欲しいNTTドコモユーザーにとって、スマホおかえしプログラムの内容変更は大きな恩恵をもたらすことになるのではないでしょうか。

  • KDDIが2020年2月に提供開始した、自動車の残価設定ローンの仕組みを取り入れた端末購入プログラム「かえトクプログラム」も、他社ユーザーの契約を可能にすることで改正法の規制を受けない仕組みとなっている