実際に触るまで購入は見送ろうと思っていた

こうして、EOS-1D系をずっと仕事で使ってきた自分だが、今回の1DX IIIはさすがに購入を見送ろうと思っていた。近年は、ソニーのフルサイズミラーレスの人気が高く、さすがのキヤノンもこのジャンルに注力し、一眼レフであるこの機種は既存の1DX IIをベースに、いくつかのデバイスを置き換えたマイナーチェンジにとどまるだろうと予想していたからだ。ところが、昨年末レビュー用に届いた1DX IIIを手にすると、主要メカニズムを一新して完成度を高めた、“外観がそっくりな別物”に感じられたからだ。

一番の進化は、シャッターのフィーリング。これまでも動きに暴れが少なく、残響音をあまり残さないシャッター音だったが、1DX IIIはさらにくぐもったような音になり、振動は小さくはないものの収束が驚くほど速くなった。また、ミラーの動きが高速化してバウンドも少なくなったためか、シャッターを切った時のファインダー像の流れや乱れが格段に少なくなっているのだ。人物撮影が主で、連写機能は年に数度も使わない自分だが、このフィーリングならば気持ちよく、確実な仕事ができる予感がした。

もうひとつ、1DX IIIを購入しようと思ったきっかけが、動画撮影機能の充実だ。これまで使っていたパナソニックのマイクロフォーサーズ機を紛失して困っていたところ、シネマカメラ並みに充実した1DX IIIの動画撮影機能が補完してくれるのではないか…と思い始めた。もちろん、一眼レフの写真用レンズではドキュメンタリー的な撮影をオートフォーカスで行うのは難しいのだが、映像プロダクション的な撮影をするときには豊富なレンズでRAW動画記録まで1台で完結させられるのは本当に魅力。手持ちのDJIのジンバル「RONIN-S」と組み合わせて使えることが確認できたことも大きい。

  • 動画撮影機としても活躍するEOS-1D X Mark III。手ぶれ補正機構を搭載していないので、多くの場合は三脚に据えて使っている。手持ちの場合は、光学式手ぶれ補正付きのEFレンズ「EF24-105mm F4L IS USM」を標準レンズとしている

EVFこそないが、背面液晶をオンにすれば現在のミラーレスカメラと同等水準の撮影ができる。キヤノン独自のデュアルピクセルCMOS AFに対応したセンサーのおかげでAFもかなり快適だし、ドラマ撮影などシャッター音を出すことができない場所での電子シャッターの無音撮影も可能になった。

もちろん、不満がないわけではない。ひとつは、ファインダースクリーンの交換が推奨されなくなってしまったこと。標準のスクリーンはかなり明るく見える代わりに、ピントの山がいまひとつつかみづらい。これまでの1D系ならば、ちょっと暗くなる代わりにピントが見やすい別売のレーザーマットスクリーンに交換できたのだが、それができなくなった。歴代の1D系をそうして使ってきた自分としては、特にマニュアルフォーカス時などに、これまでよりちょっぴり不安が付きまとうようになった。

また、1Ds IIIや1D X時代に使っていたバッテリーが基本的に使えなくなったのも、もったいない感じがした。旧バッテリーのLP-E4は起動すらしないし、LP-E4Nは撮影できるものの、残量が数十%ある表示のまま電源が落ちてしまう。仕方がないので、旧バッテリーを処分して新バッテリーを追加購入した。