米Qualcommが2月25日 (米国時間)に米サンディエゴで「What’s Next in 5G」というプレスイベントを開催した。世界最大のモバイル関連の展示会「MWC Barcelona 2020」(2月24日~27日)が新型肺炎の影響で開催中止になり、2020年を「5Gがメインストリームになる年」とする同社はMWCでの予定を独自に実施した。

イベントには、共に5Gのエコシステムを築くパートナーとして、Samsung、Microsoft、Facebookなどが登場。また、ネットワークの進化に取り組むパートナーとして紹介された楽天の三木谷浩史氏 (会長兼社長)も登壇し、完全仮想化ネットワークについて語った。

  • Qualcomm CEOのSteven Mollenkopf氏。4Gよりも早いペースで立ち上がる5Gは、携帯電話だけではなく、あらゆるものをつなぎ、これまでにないサービスや新たなビジネス機会を実現する

5G回線、2023年に10億契約を超える

5G元年と呼ばれた2019年を経て、商用5Gをデプロイした通信オペレーターは50社を超え、119カ国で345社以上が5Gに投資している。5Gへのシフトは短期間にグローバル規模で進行しており、米QualcommプレジデントのCristiano Amon氏によると2023年までに5Gに関連する契約回線は10億を超える見通しだ。これは4Gの立ち上げより2年も早いペースであり、2025年には28億回線に拡大する。IHS Markitによると、5Gは2035年までに13兆2000億USドルもの経済インパクトをもたらす。

この日、Amon氏が何度も繰り返したのはエコシステム作りの重要性。「5Gの成功は1つの企業だけではなし得ません。コラボレーションを通じたエコシステムによって私達は本当の勝利を収められます」(Amon氏)

通信事業者がスムーズに5Gのカバーエリアを広げられるようにQualcommが採用する技術の1つが「DSS (Dynamic Spectrum Sharing)」だ。4G用に使われている800MHz帯など低い周波数を5Gと共有する。5Gであってもローバンドのパフォーマンスに限られるが、DSSによって通信事業者は既存の4Gのインフラを有効活用しながら5Gネットワークを広げられる。その上で「キャリアアグリゲーション」でミッドバンドやミリ波帯をまとめて、ローバンドの5Gネットワークを高速化する道すじを用意している。

  • DSSでローバンドから5Gネットワークを面拡大、キャリアアグリゲーションでミッドバンドやミリ波をまとめる

  • 18日に発表した第3世代5Gモデム「Snapdragon X60」、5nmプロセス、DSSとキャリアアグリゲーションをサポートする

4Kライブビデオを200Mbpsで高速配信

そうして広がった5Gの土壌で、人々に5Gの価値を実感させるアプリやサービスが芽生えてこそ5Gは開花する。例えば、全てのモデルが5Gに対応する「Galaxy S20」を発表したばかりのSamsungは、5G時代には「カメラでスマートフォンが選ばれるようになる」と述べた。以前は本格的なカメラを必要としていたような写真やビデオをスマートフォンで撮影できるようになっただけではなく、今やAI機能を活用してモバイルでサクサクと編集できる。5Gネットワークなら高解像度のビデオでもその場で共有可能だ。テレビ局がやってきたようなライブ中継を個人ができる未来が近づいている。

5Gに対応するスマートフォンが普及すれば、いつでもどこでも高品質なライブコンテンツを楽しめるようになる。イベントでは、X55モデムを搭載したGalaxy S20でマルチカメラ・アプリを使った大容量映像のリアルタイム伝送のデモを披露した。4つのカメラからの4K映像を同時にストリーミングし、ユーザーが画面上で切り替えられる。1ビデオあたり50Mbps、1ユーザーに200Mbpsで配信されていた。

  • 4つのカメラからの4Kライブビデオをストリーミング、画面をタップしてカメラを切り替えられる。ライブ会場にいるような臨場感

  • 「arrows 5G」や「OPPO Find X2」「Xiaomi Mi 10」など、Snapdragon 865 5Gモバイルプラットフォームを搭載する予定のデバイスは70機種以上

PCのサブスクリプション利用も進む

もう1つプレゼンテーションで何度も繰り返していたのが、5Gは「携帯電話だけではなく、インターネットや通信に関わるあらゆるものを変えるアップデート」ということ。

VRゴーグルのOculusシリーズにSnapdragonを採用しているFacebookは、3Gの時にキラーアプリと呼べるほど存在感を強めたビデオカファンレンスが5Gで再び進化すると期待している。Oculus Questのような独立型のVRヘッドセットが5Gに対応し、さらにクラウドと端末で処理を分ける仕組みが導入されたら、高品質なカンファレンスがいつでもどこでも可能になる。特にエンタープライズでの需要を期待できる。また5Gの可能性という点で、Rafael Camargo氏 (Facebook、ハードウェア担当VP)はVR (仮想現実)以上にAR (拡張現実)が「次のモバイルコンピューティングプラットフォームとして期待できる」と述べていた。

  • XR用ヘッドマウントディスプレイ開発用のリファレンスデザイン「Snapdragon XR2 5G」を発表。CPUとGPUの性能が2倍、解像度が6倍に向上、5Gモデムは第2世代の「Snapdragon X55」

Always Connected PCに力を入れるMicrosoft。5G対応PCによって、クラウドゲーミングのような今はWi-Fiに頼っているクラウドサービスの価値が高まると予想した。その影響はエンターテインメントからプロダクティビティやクリエイティビティまで広範に及ぶ。さらにビジネスモデルという点で、今日の携帯電話のように通信キャリアが5G対応PCを扱うようになれば、サブスクリプションのように月々の支払いでPCを使う「PC as a Service」が新たなビジネスチャンスになると指摘した。

  • 薄型・軽量ノート「Lenovo Yoga 5G」を使って、Windows Virtual Desktopでクラウド上の6KビデオをAdobe Premiere Proで編集するデモ

  • KDDI、楽天、ソフトバンクを含む世界の17の通信事業者が、Qualcommの5Gプラットフォームを採用した5G対応PCをサポートする

楽天・三木谷氏、海外展開へ意気込む

メガベンダーによる独占、Huaweiの通信機器をめぐる疑惑から、5Gの無線アクセスネットワークのオープン化を求める声が強まっている。そうした中、5Gを新たなインフラと見なすQualcommもネットワークをオープンに進化させる取り組みを行っている。

その1つが2018年5月に発表した「Qualcomm 5G RANプラットフォーム (FSM100xx)」である。会見では、Altiostar、Sercomm、Verizonなど、FSM100xxの採用に踏み出す企業が順調に増えていることが示された。その中で「世界初の完全仮想化ネットワークで5Gに取り組む企業」として楽天モバイルを紹介、三木谷氏を壇上に招いた。

  • 完全仮想化ネットワークで「不可能を可能にする」と三木谷浩史氏

Buy.comを買収した楽天は米国でもオンラインショップとして知名度を上げているが、どのような企業なのか知っている人はまだ少ない。三木谷氏は創業時からの歴史を紹介し、楽天の根にあるスタートアップ精神を伝えた上で今日のモバイル戦略について語った。後半は楽天モバイルCTO (最高技術責任者)のTareq Amin氏が完全仮想化によるクラウドネイティブネットワークについて説明。海外展開への意気込みもアピールした。

日本ではサービスの内容や質が話題だが、米国で楽天モバイルは5G時代のチャレンジャーとして注目されている。例えば、Fierce Wirelessの「2019年、ワイヤレス技術で最もパワフルな人物」にAmin氏が選ばれた。ただ、そうした知名度はまだワイヤレス産業に限られている。もしこれが一般向けのテック系ニュースでも取り上げられるMWCで予定通り行われていたら、欧米における楽天のイメージを変えるきっかけになっていたかもしれない。

「5Gで何が変わる?」を考える

「5Gで何が変わる?」……これまで多くの人によって何度も繰り返されてきた疑問である。

その答えが今年のMWCでは見えてくるはずだっただけに開催中止は残念である。しかし、今はそれを惜しむべき状況ではない。ライブストリーミングイベントは、現状で安全確保と5Gの早期普及の両方を進められる最善策だったと言える。

付け加えると、ライブストリーミングを見ながら、もしこれが5G普及後だったらと考えた。セルラーネットワークに接続するモバイルデバイスからでも、より多くの人達が高品質なストリーミングにアクセスできる。XRヘッドセットを使ったその場にいるような体験も当たり前になっているかもしれない。そう想像したのは私だけではなかったはずだ。