RIZeSTの出倉美咲さんと初めて出会ったのは、ゲーム内カメラマンのインタビューを打診したときだった。知識が乏しい筆者に対して、eスポーツのイベントを運営するうえで欠かせないさまざまな業務があることを教えてくれた。

2回目に会ったのは、ロジクールの発表会。広報業務のサポートとして出席していたとのことで、会場で声をかけられた。その次は、高校生を対象としたeスポーツ大会「STAGE:0」の会場だ。さらに、茨城国体の文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」を取材したいと日本eスポーツ連合(JeSU)にメールを送れば出倉さんから返信が届くし、マウスコンピューター主催の「ドン勝ハロウィンナイト」に行けば出倉さんがいる。RIZeSTの広報と聞いていたが、どうやら、それ以外にも幅広くeスポーツの仕事を手がけていそうだ。

CyberZの北村瑠美さんは、国内最大級のeスポーツイベント「RAGE」や動画コミュニティプラットフォーム「OPENREC.tv」などの広報。「RAGE」だけみても、『Shadowverse』や『ストリートファイター』『ブロスタ』、複数のタイトルを扱う複合イベント、「東京eスポーツフェスタ」と、幅広いイベントを展開しており、その数は年に十数回にも及ぶ。それらの広報を担当しているのだから、きっと日々膨大な業務と向き合っているはずだ。

土日に行われるイベントの取材はライターさんに丸投げすることが多いので、北村さんと直接会う機会は少なかったが、「RAGEのスポンサーに取材させてくれ」「大会で使ったモバイル端末の機種を教えろ」「取材先の校正チェックはまだか」といった筆者のワガママに対して、仕事が忙しいにもかかわらず、毎度丁寧に対応してくれた。

RIZeSTとCyberZは、eスポーツ大会の開催・参加をサポートするコミュニティプラットフォーム「PLAYHERA」のリリースにあたり、合弁会社「PLAYHERA JAPAN」を設立。それぞれが有するeスポーツのノウハウを活かして、サービスを展開する。そこで今回、手を取り合った2つのeスポーツ企業で広報を務める出倉さんと北村さんに、eスポーツ広報の仕事内容や現職に就いた経緯、広報の目から見たeスポーツ業界など、いろいろと話を聞いてみた。

  • RIZeSTとCyberZは、eスポーツ大会の開催・参加をサポートするコミュニティプラットフォーム「PLAYHERA」を開発

2人のeスポーツ広報が仕事観を語る

――まずは、お2人の会社や業務のご紹介をお願いします。

RIZeST 出倉美咲さん(以下、出倉):私はeスポーツのイベント運営を請け負う事業を展開しているRIZeSTで、広報を担当しています。自社の広報に加えて、クライアントのeスポーツを軸とした広報活動やSNS運用などをサポートしています。

  • RIZeST 出倉美咲さん

――茨城国体の「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」にもいらっしゃいましたが、JeSUの広報サポートもしているのでしょうか。

出倉:はい、JeSUでは企画立案から広報スケジュールの作成、プレスリリースの作成など、広報活動のサポートを行っています。広報活動を強化に伴って、お話をいただきました。非営利団体としてeスポーツ市場の盛り上げに力を入れていることもあり、一般企業ではなかなかできないことを経験させてもらってますね。

――北村さんはいかがでしょう。

CyberZ 北村瑠美さん(以下、北村):CyberZはサイバーエージェントのグループ会社です。設立当初はスマートフォンの広告事業を中心に展開していましたが、2014年にeスポーツ関連の事業を立ち上げる話が出てきて、2015年に「RAGE」をスタートさせました。いまでは「RAGE」以外にも、動画プラットフォームの「OPENREC.tv」などを展開しています。

また、eスポーツを活用した代理店事業を行う子会社「CyberE」、バーチャルキャラクターやVRイベント制作に携わる「CyberV」、グッズやフィギュア事業を展開する「eStream」など、事業を拡大させており、2018年は年間で150本くらいリリースを出しましたね。

  • CyberZ 北村瑠美さん

――平日だけで考えたら2日に1本以上のペースですね。リリースの作成は、どのようなフローで進めるのでしょうか。

北村:一般的な広報さんとは少し違うかもしれないんですが、担当者が番組制作のスタジオにいたり、イベントの現場にいたりするので、私も現場で一緒に動きながら、情報を吸い上げてリリースを作成します。

あと、「RAGE」はイベントごとに扱うゲームタイトルが変わりますし、音楽イベントをやったり、バーチャルキャラクターに出演してもらったりと、バラエティに富んだコンテンツを展開するので、その都度メディアさんの開拓も行います。

2人がeスポーツ広報に就いた理由は?

――お2人はもともとeスポーツの仕事がしたくて今の会社に入ったのですか?

出倉:いえ、もともとは教員志望で、中学の国語の先生を目指していました。高校も大学もその基準で選びましたし、大学の4年間は塾講師のアルバイトをしていました。ですが、教育実習を経験したときに、自分の知っている世界の狭さに気づいたんです。これでは子どもになにも教えられないなと。

それで、自分の世界を広げるために、社会に出ることにしました。選んだのはSANKO。いまのRIZeSTの親会社に位置する企業です。子どもの成長を見るのが楽しいのと同じように、何かが成長するような場所を探そうと、広告代理店の門をたたきました。入社後は営業をしていたので、eスポーツの存在自体知りませんでしたね。

――自分の世界を広げる目的で社会に出たのであれば、その後は再び先生を目指すのでしょうか?

出倉:正直、最初は3年やったら教育の分野に戻ろうと決めていました。ですが、eスポーツの魅力を知ったいま、再び先生を目指すつもりはありません。

たとえば、弊社では「RIZeSTアカデミー」というeスポーツの現場に求められる人材育成を行う事業を展開しており、「eスポーツ×教育」の文脈でできることがあります。また、eスポーツを活用して小学生のネットリテラシーの勉強会を実施するなど、広い視野での活動ができるのではないかと。もちろん、学校教育に対する関心は高いですし、子どもは大好きです。

  • RIZeSTアカデミーの様子。RIZeSTが培ってきた制作のノウハウを提供する

――北村さんはなぜいまの会社に?

北村:私の入社のきっかけは、就職活動中にサイバーエージェントで働いている大学時代の先輩がSNSにアップした会社の様子を見かけたことですね。社員が楽しそうにイキイキ働いている様子が印象的だったんです。

実際に入社してみると、いつのまにか私も会社のことが好きになってました。有志社員が作る半期に1回の全社イベント「グループ総会」では、運営メンバーとして参加することもありましたし、ヨガ部の部長もやらせてもらってます。そのように、サイバーエージェントには業務と別のところで、社員をつなげる仕組みがたくさんあるんですが、そこに積極的に身を投じていきました。それがハマるタイプだったんでしょうね。

――では、どのような経緯で「eスポーツ広報」という仕事に就いたのでしょうか。

北村:私も出倉さんと同じで、サイバーエージェントに新卒で入社してからは、広告営業に携わっていました。そこから広報に異動した理由は、自分の好きな会社をもっと多くの人に知ってほしいと思ったからです。

広報のなかでもeスポーツをやりたいと思ったのは、新規事業を多く生み出すCyberZが、次のチャレンジとしてeスポーツ事業をスタートさせると聞いたのがきっかけ。当時、eスポーツが何かは、正直そこまでわかっていませんでしたが、わからないからこそやってみたいと思ったんです。

何だかよくわからない事業を開始するということは、もしかするとこれから会社がイバラの道を進むかもしれないわけですよ。そこで、大変な道のりを大好きな会社と一緒に切り拓いていきたい、力になりたいと思って飛び込むことに決めました。熱意には自信があったので。

――会社愛がすごいですね。どんなところに惹かれたんですか?

北村:会社そのものより、働いている「人」が好きなんでしょうね。会社は「挑戦」を大事にしていて、「何かを実現したい」という意欲の強い人が多いんです。社内イベントにもみんな全力投球で。体育会系の部活を経験したことがないので、目標に向けてひたむきにがんばる“青春っぽさ”に憧れていたのかもしれません。

――出倉さんはなぜeスポーツの広報に?

出倉:eスポーツに携わるきっかけになったのは、2014年の東京ゲームショウです。SANKOにはeスポーツ事業部があって、いまの「League of Legends Japan League(LJL)」の前身にあたるリーグの決勝戦を、ロジクールさんと一緒に運営していました。私がそこにスタッフとしてアサインされたんです。

会場で選手は涙を流し、ファンも目に涙を浮かべて。試合が接戦だったこともあり、かなり盛り上がっていたんです。最初はなんでゲームでここまで盛り上がっているのか、正直不思議に思いました。でも、人が輝いている瞬間があることはわかりましたし、学生時代に所属していたバスケ部の試合の熱狂と会場の雰囲気がリンクして、「これは絶対におもしろい」と感じましたね。

SANKOのeスポーツ事業部が徐々に軌道に乗ってきたころ、広報部の立ち上げとともに「LJL」の広報活動などをお手伝いをすることになりました。その後、2016年に子会社として設立したRIZeSTでも「eスポーツ広報」に就いた、というのが経緯です。

  • 東京ゲームショウ2014のLogicool Gブース。『リーグ・オブ・レジェンド』の試合に多くの観客が湧いた

――お2人とも関わり始めた時点では「eスポーツとはなんぞや」というイメージだったんですね。

北村:大学時代は『モンスターハンター』にどっぷりハマっていましたが、対戦ゲームはほとんど遊んだことがなかったです。とにかくいつものメンバーでクエストに挑んでいました。

なので、「eスポーツが何か」については、広告営業時代にRAGEの会場に足を運んで理解を深めました。いまは、「対戦ゲームの競技がeスポーツ」なのではなく、「この空間がeスポーツなんだ」って思います。誰かと誰かが対戦するだけではなく、それを本気で応援する人がいて、選手をカッコよく見せたいと考える運営チームがいて、演出があって、そのすべてがeスポーツなんじゃないかなと。本当にみんなが一生懸命なんです。

  • 「この空間がeスポーツなんだ」と話す北村さん。写真はeスポーツを感じるRAGEのワンシーン

――出倉さんは、教育から営業、eスポーツと、振れ幅が大きい気がしますが、抵抗感はありませんでしたか?

出倉:そうですね、不思議と抵抗感はありませんでした。よくよく思い返すと、小学校5年生のときにオンラインゲームにハマっている時期があったんです。そのあとは、『ファイナルファンタジーX』や『三國無双』をやりこみましたね。だからアレルギーなくeスポーツのことを好きになれたのかもしれません。

――お2人ともゲーム自体は昔から遊んでいたわけですね。最近でもゲームはプレイされていますか?

北村:『クラッシュ・ロワイヤル』『ドラゴンクエストウォーク』『シャドウバース』などのスマホゲームは、移動中にめちゃめちゃやってますよ。ちなみにCyberZの社長の山内もゲームが好きで、夜な夜な社員とボイスチャットしながらゲームするんです。ゲーム内アイテムを送り合ったり、みんなでワイワイしたりして、クエストに向かうのは本当に楽しい時間ですね。

出倉:RIZeSTの社長の古澤も、夜な夜な社員とボイスチャットしながら『リーグ・オブ・レジェンド』で遊びますし、お客さまと一緒にプレイすることもあります。社外の交流でゴルフってよく聞くと思うんですけど、協力するタイプのゲームであれば、コミュニケーションツールとしてもeスポーツは使えるのではないでしょうか。「ゲーミング接待」みたいな。

北村:ゲームってわりと「素の自分」が出ますしね。山内に対して「普段は無口」なイメージを持つ社員もいますが、ゲームだと会話がたくさん生まれるので、新しい一面も見られます。いまビデオチャットをしながらそれぞれの自宅で飲むみたいなの流行っているじゃないですか。なら、オンラインの「ゲーミング飲み会」があってもいいですよね。

出倉:たとえば、スタジアムに行って友だちとサッカー観戦したあと、サッカー熱が高まって飲みに行くのはイメージしやすいですよね。でも、観戦後に「サッカーやりたい」って思ったら、場所の確保や着替えの準備が必要です。

eスポーツの場合、試合観戦のあとでゲームやりたくなったらすぐできるんです。エンジョイ勢ならお酒飲みながらでも、ボイスチャットで試合の感想話しながら楽しむのもいいでしょう。選択肢が広がるのが、eスポーツのいいところだと思います。