2020年1月11日、12日に東京ビッグサイトにて、東京eスポーツフェスタ実行委員会が主催するeスポーツイベント「東京eスポーツフェスタ」が行われます。委員会のメンバーには「東京都」の名前が。なぜ東京都が中心となってeスポーツイベントを開催するのでしょうか。実際に都庁へ行き、東京都 産業労働局 商工部の川崎秀一氏に、イベント開催のきっかけや狙いなどについて話を聞きました。

目的はeスポーツに関連する都内の中小企業振興

やはり気になるのは、東京eスポーツフェスタ開催の理由です。エンターテインメントだけを目的にeスポーツイベントを実施するわけではないでしょう。川崎氏は開催のきっかけを次のように答えます。

「eスポーツ関連産業の定義は、現状ではまだ曖昧ですが、その分、裾野は広いと思っています。国でもeスポーツを活性化させるための検討会を開催して、議論をしているところ。eスポーツの市場規模は、今後飛躍的な伸びが見込まれており、関連産業も成長分野として期待されています。そこで、関連する都内の中小企業の振興を後押ししようと、開催を決めました」(川崎氏)

  • 東京都 産業労働局 商工部の川崎秀一氏

産業労働局が関わっていることから、東京都としては「都内中小企業の振興」や「雇用の拡大」に期待しているわけです。その産業はゲームメーカーだけでなく、周辺機器メーカーや選手が身につけるウェア、大会運営、配信業務、専門学校など、さまざまな分野が考えられるでしょう。

「eスポーツはスポーツか否か」「文化的な役割があるか否か」「ゲーム障害につながるか否か」など、さまざまな議論があるなかで、「産業としての価値」を追求しているところは、かなりわかりやすいといえます。

実際、東京eスポーツフェスタでは、eスポーツの競技大会だけでなく、都内の中小企業を対象とした「eスポーツ関連産業展示会」も実施する予定。ゲーム開発、デバイス、キャラクター、グッズ、学校運営など、さまざまなカテゴリーでeスポーツに関わる産業を後押ししていく用意があります。

ゲームタイトルの選定理由は“親しみ”重視

今回のイベントで扱われるタイトルは、『太⿎の達⼈ Nintendo Switchば〜じょん!(太鼓の達人)』『パズドラ』『モンスターストライク(モンスト)』の3つ。『パズドラ』と『モンスト』は、JeSUのプロライセンス認定タイトルであり、eスポーツイベントも定期的に開催されているので、妥当なところではありますが、正直『太鼓の達人』はあまりeスポーツのイメージがありません。また、『パズドラ』『モンスト』に関しても、eスポーツタイトル以上に、どちらかというと「万人がプレイしているカジュアルなゲーム」としてのイメージが強いのではないでしょうか。

「今回のタイトルは、老若男女幅広いユーザーにプレイされていて、年齢制限がないものを選びました。都が中心的な役割を担うイベントなので、過激な暴力表現や過度な性的内容のあるタイトルは外し、親しみやすさを重視しています」(川崎氏)

『太鼓の達人』の場合、超高難易度設定のプレイであれば、クリアするだけでも観客としては見応えがあるでしょう。しかし、今回に限っては、予選が『前前前世』の難易度「ふつう」、決勝トーナメントは複数の曲を難易度「むずかしい」の設定でプレイ。しかも、参加の対象は小学生以下です。

つまり、東京eスポーツフェスタにおける『太鼓の達人』は、「技術の研鑽」の要素よりも、ゲーム初心者でも気軽に参加できる大会という点を重視。eスポーツの認知度向上を図り、裾野を広げ、関連産業を後押ししていく意向が伺えます。『太鼓の達人』と『パズドラ』が、当日エントリーでの出場となっているのも、参加しやすくなる手段の1つであることが分かります。

イベントの企画運営は、CyberZが運営するeスポーツイベント「RAGE」が担当。東京都としては初のeスポーツイベントだったので運営への不安もありましたが、すでにeスポーツイベント運営のノウハウを持っているRAGEが担当するのであれば、eスポーツファンの期待に応えつつ、新規ユーザーが参加しやすいイベントになりそうです。

  • 東京eスポーツフェスタの企画運営はRAGEが担当します

イベント自体が産業になることへ期待

開催を2020年1月に控える東京eスポーツフェスタ。第1回も終わっていないなかで、今後の話をするのは気が早いことはわかっていますが、産業の振興を目的とするのであれば、継続してイベントを開催していく必要があります。そのあたりの計画はすでにあるのでしょうか。

「中小企業の振興は継続性が重要なので、一過性のものにするのは好ましくないと考えています。ただ、東京都として取り組んでいくには、予算について都議会の承認が必要であり、今後のことはまだ決まっていません。また、今回は産業振興を目的としており、産業労働局が所管していますが、eスポーツは、たとえば福祉施策などとの関連性もあるので、引き続き関係部署と連携しながら取り組んでいきたいと考えています」(川崎氏)

IPホルダーが開催するeスポーツイベントと比較すると、高額の賞金は発生せず、もしかすると派手な演出もないかもしれません。しかし、eスポーツの裾野拡大とライト層の取り込みを考えると、東京eスポーツフェスタの役割は大きいといえるでしょう。

また、産業を支援することで、eスポーツに関わりたい企業や人の参入ハードルを下げる効果にも期待できます。東京eスポーツフェスタが軌道にのり、安定して開催できるようになれば、イベント自体を民間へ移行し、それ自体を新たな産業として活用することも考えられます。

eスポーツの定義やeスポーツイベントのたたずまいが確定していない現状においては、東京eスポーツフェスタはeスポーツイベントとして十分に成立する気がします。何よりeスポーツイベントはまだ数が少ないので、大会を開いてくれるだけで価値はあるでしょう。eスポーツの持つさまざまな可能性を発信できるような展開を模索していくとの話だったので、長期的な視点で期待しつつ、まずは開催が迫る東京eスポーツフェスタを見守りたいと思います。