――eスポーツ広報をやっていてよかったことを教えてください。

出倉:人と文化の成長を間近で見られることですね。私が入社した2015年と比較すると、プレイヤーだけでなくファンの意識がすごい変わったなと実感します。

たとえば、弊社が運営をお手伝いしているDMM GAMES主催の『PUBG』国内プロリーグ「PJS」では、ファンの皆さんが応援しているチームカラーのユニフォームを着ていたり、選手に差し入れを持ってきたりする光景が増えましたし、選手も自分たちがeスポーツ選手であることに誇りを持ってくれているように感じます。

クライアントと一緒に何かを築きあげていくなかで、そういうeスポーツの文化の醸成に少しでも寄与できたのであれば、これ以上うれしいことはありません。ここは北村さんとは違うところかもしれないですね。

  • 盛り上がりを見せるPJS WINTER INVITATIONAL 2019の会場 (C)Hisashi “Yossy” Yoshimura

北村:たしかに違うかも。私の場合は、自分の書いたリリースや携わったイベントのニュースを見た第三者から、現場メンバーに伝わって、その報告を受けるときが一番うれしいですね。たとえば、「お父さんからRAGEすごいねって言われました」とか「お母さんからニュース見たよと連絡きました」とか。それを聞けると、やってよかったなって思います。

広報のミッションは、宣伝と違って「世の中に会社のファンを作ること」だと思っています。なかでも、まず一番のファンになってもらいたいのが社員。なので、社員が喜んでくれるのが、何よりのやりがいですね。

あと、広報になった2017年にTwitterのアカウントを作ったんです。情報収集をしながら、会社のことをちょっとでも伝えられればいいなと思って始めたんですが、学生さんから「RAGE行きます」とか「OPENREC.tvをこうしてほしい」とか、DMをいただけることもあって、直接言葉をいただけるのも広報ならではのやりがいかもしれません。

出倉:北村さんは前に出ていけるタイプの広報さんかもしれないですね。私は黒子に徹したいタイプ。北村さんはSNSでも精力的に活動してますし、インフルエンサーに近いんじゃないでしょうか。

北村:そんなことないと思いますよ。でも、もし前に出るのが自分のストロングポイントだとしても、意識としては「広報は黒子」だと思っています。私はどんなにがんばってもeスポーツの現場は作れません。だから現場メンバーへのリスペクトはとても強いんです。その現場のメンバーから最後のバトンを託されていることもあり、責任感が現れているのかもしれませんね。

――黒子に徹する以外で心がけていることはありますか?

北村:先ほどもお伝えいたしましたが、ファンを作ることが自分のミッションだと思っております。ただ、OPENREC.tvひとつ取っても、視聴者や配信者、投資家、メディアなど、ファンのカテゴリーはさまざま。それぞれ何が刺さるかも異なりますので、伸ばしたいファンのタイプによって、どんなことが刺さるのか自分ごと化するように気をつけています。

出倉:私が心がけているのは「三方よし」ですね。世間と買い手の部分はわかりやすいと思いますが、最近では売り手の部分にもフォーカスするようにしています。

「売り手=RIZeST」ですね。これまでeスポーツの文化を定着させようと活動してきて、最近では認知度も高まってきました。次は「eスポーツでご飯を食べたい」と考える人が増えてくると思うんです。でも、「eスポーツの仕事とは」と聞かれても、まだクエスチョンマークがつくはず。そこで、RIZeSTの社員を表に出すことで「どんな仕事があるのか」を伝えるように心がけています。

もちろん、お客様の広報サポートも精いっぱい取り組ませていただきますが、弊社の社員を出していくことは、RIZeSTを売り出すだけでなく、多くの人にeスポーツを伝えることにつながると思っています。結果的にeスポーツで仕事する人が少しずつ増えていけばいいなと。

北村:RIZeSTの古澤さんのプレゼン資料で一番好きなのが、「ゲーム内カメラマンって知っていますか?」から始まる会社紹介。なかの人のインタビューも増えていくといいですね。

――そういう意味では、「eスポーツ広報」も増えていくのではないでしょうか。どんな人が向いていると思いますか。

出倉:eスポーツ自体は比較的新しい言葉ですが、それぞれのゲームやその文化には長い歴史があります。そこに参加している人を理解できるかどうかが肝心なのではないでしょうか。共感できる人、知ろうと努力できる人が向いていると思います。単純に「eスポーツ好きです」だけだと、ゲームやシーンを本当に好きかわかりませんよね。「スポーツ好きです」って言っているのと同じですから。

北村:おっしゃるとおりですね。たとえば、記者会見を開催するにしても、単純にメディアを呼びますという仕事ではありません。「どうやったら会見が成功するか」「そもそも記者会見てなんだっけ」を突き詰めて考えて、最後は登壇者に最高のモチベーションでステージに上がってもらいます。正直、自分のことなんて考えている時間なんてありませんよ。どこまで足を踏み入れられるか、みんなと同じ方向に進んでいけるか、その覚悟を持てるかが大事だと思います。

また、私が意識していることですが、私たちは現場のがんばりを一番理解する“会社のお母さん”的な存在じゃないといけないと思っています。みんな大変なので、「ツラい」と弱音を吐くこともあるんですが、すかさず「ツラくない!」って言い返して、ポジティブにみんなを応援するんですよ。社内の松岡修造さんみたいな(笑)。

出倉:新しいことをおもしろがれるかも重要。好奇心旺盛じゃないと続かないかもしれないですね。

北村:そうですね。ゼロからいろいろな人を巻き込んでいく仕事なので、名前こそ広報ですが、実際は営業に近いかも。

出倉:ただ、「このリーグを盛り上げたい!」という強い気持ちがあるのなら、門をたたいてほしい。たとえば、広告代理店でもいいと思います。ゲーム業界と取引があるところや、eスポーツのコンサルを事業にしているところもあります。最近では、eスポーツ事業部を立ち上げるゲーム会社も出てきました。道はたくさんあると思います。

もし、すでに企業に所属しているなら、自社内で手を挙げるのもいいでしょう。「儲かるのか」と聞かれるかもしれませんが、ブランディングとして捉えればいいんです。

私はRIZeSTの立ち上げからいるので、PR部を作ることによる売り上げの増加や認知度の向上は理解していますが、需要は絶対にあります。

eスポーツ企業はブラック? ホワイト?

――eスポーツ広報としては、土日のイベントに顔を出すことも多いと思いますが、休みはちゃんと取れていますか?

北村:土日のイベントで仕事をしたら、振り替え休日を取るようにしています。また、毎回必ず行く必要があるのか、イベントにメディアを呼ぶ必要があるのか、そのあたりも事業部としっかり議論します。

ただ、休みでもSNSなどでの情報はチェックしないと落ち着きませんし、それを休むほうがつらいケースもありますね。個人的に、「ワークライフバランス」よりも、仕事とプライベートをあまり明確に切り分けない「ワークライフブレンド」のタイプなので。

出倉:北村さんと同様に、代休を取りながら調整していますね。無理して会社に行く必要がないときはリモートで仕事することもあります。ですが、スタートして3年くらいの小さな会社なので、いまはがんばりどき。また、現場が好きで夢中で働いてしまう人もいるので、「この日は休もうか」と相談しながら仕事するようにしています。

北村:「eスポーツはブラックだ」みたいな感じはしませんよね。

出倉:仕事に対するパッションが上回ることが多い感じですね。もちろん、ボトムアップはしていきたいので、社員は絶賛募集中です。

北村:弊社も、市場を盛り上げたいという強いパッションを持っている人に門をたたいてほしいですね。

――いまの仕事を始めたころと比べて、eスポーツに関するイメージは変わりましたか?

北村:昔はすでに「出来上がっているもの」に対して、出演者がアサインされて番組が作られていると思っていました。OPENREC.tvはスタジオで番組を作っているんですが、打ち合わせの段階から実況や解説の方も驚くほど意見を出してくださいますし、出演者や技術、運営、メーカーそれぞれの垣根を超えて意見を出し合います。そこに「競合」の概念はあまりなく、答えのないものを毎週全力で話し合っています。eスポーツのイメージがガラッと変わりましたね。

出倉:そのイメージは一緒ですね。どうやったら視聴者が喜んでくれるか、クライアントがよろこんでくれるか、どんなキャスターをアサインすべきかといった細かいところまで、徹底的に話し合います。

  • OPENREC.tvのスタジオ。クレーンカメラなど地上波番組に劣らない本格的な機材をそろえているという

――では、同じ仕事をしている「eスポーツ広報」どうし、お互いに聞いてみたいことはありますか?

出倉:北村さんは社内愛が強いので、社内レクリエーションについて聞いてみたいですね。RIZeSTでも、仲のいい人でボイスチャットしながらゲームをしているのは知っているんですが、もうちょっと会社全体でなにかできればと考えていまして。

北村:ゲームでは、Cygamesさんをはじめとしたゲーム関連のグループ会社が集まり、OPENREC.tvのエンジニアチームが『スプラトゥーン2』で対戦するといった交流が定期的に開催されます。

ゲーム以外では、CyberZで創業当初からある社内の取り組みのひとつとして、営業が受注を決めた際や、エンジニアが機能リリースした際などに鳴らす「銅鑼」があります。

社外向けにはプレスリリースを出すのですが、社内向けに発表する機会が少ないので、たとえば、エンジニアが数カ月かけて新しい機能をリリースさせたとしたら、そのトレーナーが銅鑼をバーンと鳴らして、「○○さんが○○の機能をリリースしました」ってみんなに伝えるんです。それでみんなで拍手して、情報を共有します。なので社内レクリエーションというか、会社ごとでやっているのこととしては、「銅鑼」ですね。界隈ではちょっとした話題にもなったんですよ。

あと、CyberZでは、目標達成を目指すために「社内活性化」の取り組みを重要視しています。四半期ごとにテーマや世界観を設け、目標達成のための「キャンペーン」を行うのですが、最近ですと、RAGE総合プロデューサーの大友が朝からコスプレしてみんなの前に立ってプレゼンするんです。普通じゃないことをするので、いつのまにかみんなの楽しみになってますね。

出倉:そういえば、RIZeSTでも代表の古澤がPUBGの生配信を行ったときに、サバゲ―の装備一式を身につけていましたね。みんな喜んでました。提案してみようかな。

  • CyberZのeスポーツ朝会で銅鑼を叩く様子

――北村さんは出倉さんに聞いてみたいことはありますか?

北村:出倉さんは本当の黎明期からeスポーツの広報をされていると思うんですが、仕事をしていて心が折れるシーンはないのか、また、そのあとの立ち直る方法があれば教えてほしいです。

出倉:心が折れたことはあります。たとえば、あるeスポーツイベントで広報を担当したときに、メディアにもちゃんと集まってもらえて、成功するかに思えたんですが、主催者のあいさつで選手やファンをリスペクトしていない発言があったんです。

そのイベントは、選手やそのご両親、ファンがいなければ成り立たないものだったんですが、なんでちゃんとケアしておけなかったんだろう、伝えられなかったんだろうって、悔しくて落ち込むことがありました。

でもイベントで選手やファンがよろこんでくれるところをみると、「このためにやっているんだから、立ち止まっちゃダメだ。しっかりしろ」と自分に言い聞かせて、歯を食いしばります。軸を持って、自問自答を繰り返す感じですかね。

eスポーツ広報がいま伝えたいこと

――では、広報としてこれから伝えていきたいことはありますか?

北村:2020年は「相乗効果」をキーワードに仕事したいと思っています。そのために伝えたいことは「協力し合うことを恐れない」こと。eスポーツイベントの場づくりはとにかく協力が必要。それを伝えていきたいですね。会社と会社もそうですけど、個人と個人もそうです。私も「PLAYHERA」記者会見で初めて出倉さんとお仕事をして「協力による可能性」を知りました。

きっとみんな同じパッションを持っている仲間なので、ちょっと角度を変えて意見を出してもらえれば、新しいことが生まれるんじゃないかと。さらに、それを広報として発信していきたいですね。

出倉:私は、そろそろ「eスポーツはスポーツか」の議論はいらないかなと。「eスポーツはeスポーツ」でいいんです。そこを議論するよりも、ゲーム好きな人とどんなイベントをしようかとか考えて、一緒にeスポーツ業界を盛り上げていければいいなと思います。

北村:あとは、eスポーツに対して抵抗感を持っている人に刺さる言葉を模索してますね。

出倉:お子さんがプロゲーマーを目指している保護者を説得するにはどうすればいいと思います?

北村:うーん、もしお子さんがボクシングをやりたいって言ったらどうするか聞きます。それでたとえば「ボクシングは亀田興毅みたいな選手もいるしいいかな」と言うのであれば、「お子さんがeスポーツ界の亀田興毅になる可能性がある」と伝えます。

ボクシングも最初は人を殴ることに対して抵抗感があったはず。お子さんがその逆風に煽られるのかもしれないのであれば、一番の味方であってほしいと思います。反対するだけでなく、自分の子どものことを誰よりも理解して、信頼してあげてほしいですね。

出倉:『ぷよぷよ』はすでに小学生部門の大会がありますし、これからはご両親も巻き込んでいかないといけませんね。2018年はeスポーツが流行語大賞にランクインしていろいろな意見が飛び交いましたが、最近はネガティブな意見は減ってきた気がします。

とはいえ、まだまだ解決されてない問題もあるので、セカンドキャリアなどゲーマーの未来についても考えていかないといけないでしょう。いま盛り上がっていても、その先がなければ続かないと思います。

――最後にメディアへのメッセージがあれば。

出倉:もっと選手のストーリーに注目していただけたらなと。その人がどうしてeスポーツを好きになったのか、なぜ強いのかなど、その背景を掘り下げていけば記事を見た人は感情移入するし、もっと好きになるはずだから。

北村:eスポーツのワードがなくても伝わるようにしていきたいですね。eスポーツという言葉に頼らない記事が増えるといいな。弊社も、eスポーツに興味ない人が見たくなるようなさまざまな取り組みや事業を仕掛けていきたいと思います。

――ありがとうございました!