宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月11日、小惑星探査機「はやぶさ2」の第2回タッチダウンを実施した。探査機は計画通りに降下し、10:06ころ、小惑星リュウグウの表面にタッチダウン。同日14時より開催された記者会見にて、津田雄一プロジェクトマネージャは「我々は太陽系の歴史を手に入れることができた」と、ミッションの成功を宣言した。
タッチダウンの時刻は、事前に発表していた最速ケース(10:05)とほぼ同じ。これは、探査機が完全自律となる高度30mまでの誘導制御を、極めて精度良く行えたことを意味する。そのおかげで、ターゲットマーカーを探し始めから1分ほどで捕捉。今回は1回目より高度が低く、見える範囲が狭いことが懸念されていたが、見事にクリアした形だ。
上昇後、ハイゲインアンテナを地球側に向けて通信が確立したことから、10:39(地上時間)ころより探査機内のデータが届き始めた。探査機の状態は正常。シーケンスが最後まで完了したほか、火工品の温度上昇も確認できたため、弾丸の発射はほぼ確実。目標としていたリュウグウの地下物質の採取は、成功した可能性が非常に高くなった。
記者会見が始まってから、サンプラーホーンを撮影しているカメラ「CAM-H」の画像も会場に到着。タッチダウン直後に、大量の砂礫が飛び散っている様子が確認され、弾丸の発射とサンプル採取の成功を強く裏付けた。これだけの砂礫が舞い上がっていれば、サンプル採取の成功はほぼ間違いないと言って良いだろう。
タッチダウン後の上昇中に撮影された2枚の画像については、プロジェクトサイエンティストの渡邊誠一郎氏(名古屋大学大学院 環境学研究科 教授)が説明。これは、広角カメラ「ONC-W1」の画像で、1枚目は高度10m弱、2枚目は高度100m弱のあたりで撮影したものと見られる。
2枚目の画像には、1回目と同様、はやぶさ2が着陸した際の痕跡がくっきりと残っていた。この黒い痕跡のどこにサンプラーホーンが接地したのかということについては今後の分析が必要なものの、「目標地点から1m前後の誤差しかないところに降りただろうと推定している」という見方を示した。
1回目のタッチダウンでも、同様に砂礫が舞い上がっている様子は撮影されていたが、「細かい印象が違う」と渡邊氏はコメント。「前回はプレート状の薄いものが多かったが、今回はそれほどではない。リュウグウは均質でどこも似たようなものかと思っていたが、飛び散る量・形・色が違い、場所による個性があったのは意外だった」という。
「タッチダウンを2回やったということがすごく大きい」と渡邊氏は指摘する。「もし1回だけなら、最初のイメージで固まってしまう。しかし2回やったから、こんな小さな天体にもバラエティがあって、その裏にどんな科学的理由が隠れているんだろうと、次々に疑問が湧いてくる」と、複数箇所採取の意義を強調した。
また今回、地下物質の採取に世界で初めて成功したわけだが、「もし表面物質も地下物質もあまり違いが無かったら、小惑星表面はかなり掻き混ぜられているということで、それはそれで重要。逆に地下に新鮮がものがあったら、有機物や水は地下で保存されやすいことの証明になる。どちらでも大きな科学的成果になる」と、帰還後の分析に期待した。
今回採取したサンプルは格納容器の最後の部屋であるC室に格納。同日、容器の蓋が無事に閉じられたことも報告された。これで、サンプルが外に逃げてしまう可能性は無くなり、あとはカプセルの内部に押し込み、地球に届けるのみとなった。
1回目のタッチダウン、衝突装置(SCI)の運用、そして今回と、これでリスクの大きいミッションはすべて完璧に達成。順調すぎて傍目にはあっけないほどだったが、津田プロマネは「きちんとできている技術はドラマにはならない」と言い切る。
成功の影にあったのは、十分な時間と手間をかけた準備だ。事前のシミュレーションは、「みんな本当にタッチダウンがしたいのか?」と津田プロマネが思うほど意地悪な状況を想定して何度も行ったそうで、そうした「度を超えた自己批判精神」のおかげで、「本番は何事も無く、今までの心配がウソのように非常に上手くいった」という。
2回目のタッチダウンを実行すべきか、それともキャンセルすべきかという議論があったのは既報の通りだが、それも1回目が成功していたからこそ。「失敗は許されない」という背水の陣ではなく、「どちらも選択できる」有利な状況を作り上げられたことが、「上手くいったと思っているところ」との見方を示した。
今回のミッションについて点数を聞かれた津田プロマネは、「100点満点で1000点」と答え、報道陣を笑わせた。今後の計画については「これから考えたい」としたものの、「あと半年のリュウグウ滞在を1日たりとも無駄にしたくない。今後、高度を少し下げて観測するようなことも続けていきたい」とした。