本当に待たれていたプロのための道具「Mac Pro」
今回唯一のハードウェア製品となった新型Mac Proは、CPUに最高で28コアのXeonプロセッサーを採用し、メモリは1.5TBまで搭載可能という、文句なしの怪物マシンとして生まれ変わった。パフォーマンスも価格も、半端なアマチュアユーザーにとっては高嶺の花。まさに「プロ」のためのMacだ。
2013年に登場した円筒型のMac Proは、拡張性は外部接続に任せるという思い切った設計を採用し、アーティスティックなケースに身を包んだハードだった。処理性能も決して低いものではなかったが、その高尚な設計思想が災いして、結果として本来のターゲットであるクリエイティブ系のプロが求めるパワーと拡張性に欠ける、大変厳しい言い方をすれば欠陥プロダクトだった(Mac ProではなくMac miniとして出ていれば何の問題もなかったのだが)。これは筆者の持論だが、特にプロをターゲットとしたコンピュータは、多少環境に優しくなくとも、格好が悪かろうと、仕事に必要な計算パワーと拡張性こそ最優先されるべきなのだ。
しかし販売の低迷や、それに伴いクリエイティブ市場のシェアをライバルであるWindowsやUNIXワークステーションに奪われたことが響いたのか、Appleも路線変更を決意。2017年にiMac Proの発表と同時に予告されていたのが、拡張性を重視したモジュラー構造のMac Proだった。その約束がついに結実した、というわけだ。
こうして待望のパワフルなプロ向けMacが登場したわけだが、パワフル&拡張性が高すぎて、メモリやSSDをフルに拡張した場合、数百万円(おそらく500万円以上)になるのはほぼ確実だと思われる。筆者が知る限り、カスタマイズ時の過去最高額を更新するのはほぼ確実だろう(これまではXserve RAIDが最高額)。誰もがフルカスタムする必要はなく、必要に応じた拡張をすればいいだけなのだが、それでもモジュラー型のデスクトップ機は、ハイエンドに振ったMac Proと、コンシューマ向けに振ったMac miniの、両極端なラインナップになってしまった。
日本市場を見ると、どうもプロはハイスペックマシンを買わなきゃ、と必要以上のスペックを求める人が多い気がするが、そのせいもあってか「Macは高い」という風評につながっていると思う(昔は本当に高かったのだけど)。個人的には、プロユースといっても2Dグラフィック(イラストなど)やDTPであればMac miniの上位モデルでお釣りがくるくらい十分だし、GPUに不満があれば外付けGPUでゲームも楽しめるくらいのパフォーマンスが出るので、リーズナブルなMac miniをお勧めしたい。iMac ProやMac Proは本当に予算に余裕があるか、ビデオ編集や3Dグラフィックなどヘビーな作業をするユーザーだけが導入すればいいと思うし、それくらい特別な存在でいいと思う。
iPadとの統合が進むmacOS
次期macOS「Catalina」については、iPad向けアプリをMacでも動作させる「Project Catalyst」に最も注目している。前述したようにAppleはiPad OSをリリースし、機能面でも操作性でも、iPadとMacの境界をなくそうとしているように見える。
ただ、オーバースペックとも思えるようなMac Proを出してきたように、AppleはまだまだMacでなければならない分野を重視しているし、アプリ開発環境としてのMacも重要だ。それゆえにiPadのアプリをMacにもたらすことで、Mac向けアプリを充実させたいということだろう。逆にMac用のプロダクティビティアプリがiPadに移植されることも考えられるため、Win-Winなわけだ。
iTunesの分割も話題だが、もともと20年前のアプリ(SoundJam MP)を元に拡張を重ねてきただけに、どこかでリフレッシュする必要はあったのだ。むしろ遅かったというくらいだろう。Windowsでは当面配布が続くようだが、個人的にはSoundJam MP時代からずっと付き合ってきたアプリだけに、お疲れ様と労いの言葉を送りたい。
高度な開発環境がプラットフォームを支える
最後に紹介された開発者向けのフレームワークについては別記事で紹介しているが、どんなに優れたプラットフォームであっても、アプリがなければただの箱ということは、PC市場では長くWindowsの後背を拝し続けアプリ不足に悩まされ、スマートフォン市場では逆に先陣を切って市場を支配しているアップルにとって、痛いほど理解しているだろう。
基調講演ではARとSwiftUIに絞って紹介があったが、Appleは機械学習などについても注力しており、開発者向けのアプローチも怠っていない。もちろんライバル陣営も黙っているわけではないが、開発者たちの反応を見る限り、今後もAppleプラットフォームへの支持は続いていくことが予想される。業界全体の盛り上がりのためにも、Appleには引き続き市場をリードしてほしい。