米Appleは6月3日(現地時間)、同社の開発者向けカンファレンス「WWDC19」において、macOSの時期メジャーアップグレード「macOS Catalina」を発表した。同日からApple Developer Programを通じて開発者向けプレビューの配布を開始。7月にパブリックベータ・プログラムを開始し、正式版のリリースは今秋の予定。

  • macOS Catalina

Mojaveでは「ダークモード」を代表とする、明と暗、相反する2つの要素がmacOSとiOSの統合を象徴していたが、Catalinaでは高級リゾートのような快適さが提供されるのだろうか。現時点で発表されている新機能を紹介しよう。

舞台は砂漠からリゾートアイランドへ

macOSの13番目のメジャーアップグレードとなる「Catalina」は、米国カリフォルニア州の高級リゾート地「サンタカタリナ島」から名前を取られたものだ(ちなみにmacOSの愛称は、10.1~10.8がネコ科の動物、10.9からはApple本社があるカリフォルニア州の地名から取られている)。

  • サンタカタリナ島はかつてマリリン・モンローが新婚旅行で訪れ、別荘もあった高級リゾート。デスクトップピクチャーになっているのは北西の「ランズ・エンド」付近

Catalinaでは従来のmacOSで提供されてきた機能が一層、洗練されるだけでなく、現行バージョン「macOS Mojave」で導入された、iOSアプリとmacOSの統合がさらに進化したほか、iPadとの連携やセキュリティ機能の強化など、多数の新機能が追加されている。

さらばiTunes、機能は3つのアプリに分割

WWDC開催直前に、iTunesの廃止と3つのアプリへの分割という噂が流れていたが、Catalinaではこれが現実となった。具体的には、iTunesのメイン機能が「Music」アプリとなり、Podcast機能とムービー関連機能が「Apple Podcast」「Apple TV」の2つに分割される。ただし、従来のiTunesライブラリには3つのアプリすべてからアクセスできる。

「Music」アプリはiTunesの機能の大半を引き継いだアプリで、インタフェースもほぼ同等となる。またiOS/iPad OSデバイスとの同期機能も「Music」が担当する。iPhoneやiPadなどをMacに接続してもFinderにマウントされることはなくなるが、「Music」を起動すればこれらに接続して、従来通りデバイスのバックアップやリストア、同期が行えるようになる。

  • MusicアプリがこれまでのiTunesライブラリを引き継ぐほか、Apple Musicのストリーミング再生も担当する

iOS 12.3で導入された「Apple TV」アプリもCatalinaに搭載される。iTunes Storeで購入・レンタルした映画やテレビ番組(日本では未対応)などのほか、今秋開始されるサブスクリプションサービス「Apple TV+」もこのアプリから視聴できる。Apple TVアプリはMacで初めて4K HDR動画やDolby Vision、Dolby Atmosに対応し、同じコンテンツをmacOSからiOS、iPad OSの「Apple TV」アプリの「Watch Now」(今すぐ観る)タブで共有し、どのデバイスからでも続きを視聴できる。なお、4K、4K HDR、HDR10、Dolby Vision、Dolby Atmosに対応するには2018年以降に発売されたMacおよび4Kディスプレイが必要となる

Podcastは「Apple Podcast」アプリに分割される。見た目はiTunesと似ており、「Podcast」タブだけを独立したアプリに仕立てたものだと考えればいいだろう。

  • PodcastアプリはiTunesから「Podcast」タブだけを独立した格好になっていると言えそうだ

2001年に登場したiTunesは、その後何度かの大改修を受けたとはいえ、18年の間に拡張に拡張を重ね、巨大で複雑なアプリになってしまっていた。今回の分割によって機能がシンプルになり、使いやすくなるのであれば、長年親しまれてきた名前が消えるのは幾分寂しいものの、発展的解消として歓迎できる変更だと言えるだろう。

なおWindows版のiTunesについては、今後も提供され続けるのかなどを含めて現時点では不明だ。

付属アプリがさらに洗練

システム標準のアプリもさらに洗練されたものになる。「写真」アプリは「日」「月」「年」表示時のサムネイルが拡大されて見やすくなるほか、誕生日、記念日、旅行地といった重要な瞬間・場所で写真をまとめてくれる。

  • 写真を自動的にまとめる機能は「メモリー」としてiOSに実装済みだが、これがMacでも利用できるようになる

「メモ」アプリでは「ギャラリー」表示が追加されたほか、検索機能が強化され、目的のメモを素早く見つけやすくなる。さらに「共有フォルダー」機能により、ほかのユーザーやグループと複数のメモをフォルダー単位で共有できるようになった。また「チェックリスト」ではチェックした項目をリストの最下段に移動するオプションが追加され、順番の入れ替えもドラッグ&ドロップで行えるなど、実用面で大きく改善される。

  • 「ギャラリー」表示では添付ファイルなどのサムネイル表示でメモが見分けやすくなる

「リマインダー」アプリも完全に書き直され、インタフェースが一新したほか、リマインダーにファイルを添付できるようになった。さらにスマートリストで次の予定を自動的にまとめて表示したり、「メッセージ」中に新たな予定になりそうな項目が表示された場合、Siriが新たな項目を作るか提案してくれる。また、リマインダー上でタグを付けておくと、「メッセージ」内で関連する項目の話題が出た時に通知を表示してくれるなど、忘れ物が少なくなるようなインテリジェントな機能が追加されている。

Webブラウザ「Safari」ではスタートページが改良され、より手軽に目的のウェブサイトに到達しやすくなる。具体的には「リーディングリスト」内に登録されたページ上のリンクやiCloudタブ、「メッセージ」内で送信されたリンクなどがスタートページに表示され、コピー&ペーストしたり、アプリを切り替えてリンクをクリックしなくてもアクセスしやすくなるようだ。

  • 「Safari」も含め、全体的に使い勝手が洗練され、よりインテリジェントな方向に進化しているのが、Catalinaの付属アプリの特徴といえるだろう

iPadとの連携・統合がさらに進化

macOS Mojaveでは、iOS用アプリの「ボイスメモ」「ホーム」「株価」「News」(日本語環境には未対応)が、「UIKit」のMac版を使って開発され、Mac用アプリとして搭載された。Catalinaではこの試みが「Project Catalyst」(Catalyst:触媒)としてさらに強化され、iPadアプリのMacへの移植が容易になる。

  • 一度はMac版の開発を終了したTwitter社は、iPad版をベースとしたMac用Twitter公式クライアントを再度リリースする予定だ

Project Catalystの詳細については別記事を参照いただくとして、CatalinaではiPadとの連携機能も強化されており、iPadをMacのセカンドディスプレイとして利用できる「Sidecar」機能が追加された。これにより、作業中アプリのパレット類はiPadに表示して手元に置き、Macの画面は作業中の書類を最大限に表示することが可能(ミラーリング表示も可能)。さらにTouchBarをサポートするアプリの場合、TouchBarがないMacでも、iPadの画面下部にTouchBarを表示できるようになる。

  • iPadの液晶タブレット化が進めばクリエイターの利用率はさらに高まりそうだ

また、iPad上でApple Pencilを使う場合、Mac側のアプリが「Sidecar」機能に対応すれば、Apple Pencilの筆圧感知やサイドボタンも利用できる。いわば、iPadを液晶タブレットとして利用できるわけだ。日本ではイラストレーターなどを中心に液晶タブレットの人気が高いが、今後はメインの作業はSidecarでiPadを液タブ化してMacで行い、外出先などではiPadだけを持っていく、といったスタイルが可能になる。iPad向けのクリエイティビティアプリも急速に増えているだけに、シェアの変動に大きな影響を与えそうだ。

  • 名だたるクリエイティビティアプリがSidecarに対応を発表しており、今後ますます増える見込みだ

Screen Time

iOS 12で搭載された、ハードウェアを延々と使いすぎていないか監視してくれる「Screen Time」がCatalinaでmacOSにも導入される。Screen Timeはハードウェアの利用状況をモニターし、アプリ毎の利用時間などを週単位でまとめて表示してくれるシステム。Catalina対応したことで、iOS/iPad OS搭載ハードウェアとMacの利用状況をすべて管理できることになる。

  • iOS 12で搭載された「Screen Time」がmacOSにも

またiCloudの「ファミリー共有」を設定している場合、子供のアカウントに対して利用可能な時間やアプリ、コミュニケーションの制限を設定できるようになる。「ペアレンタルコントロール」と合わせて、子供の適切な利用環境を構築するのに役立つだろう。

セキュリティとプライバシー

アップルはユーザーのプライバシーを尊重し、ユーザーの個人情報を収集しないことを強調しているが、セキュリティとプライバシーはCatalinaでも重要な強化ポイントとなっている。

まず「T2」セキュリティチップを搭載したMac(iMac Pro、2018年以降に発売されたMac mini、MacBook Air、MacBook Pro)では、Touch IDによる認証やApple Payの支払い情報などが管理されることに加え、信頼できるアプリだけが実行でき、データも自動的に暗号化されて保存される。さらにCatalinaでは「アクティベーションロック」機能が搭載され、(おそらく後述する「Find My」アプリでリモートでアクティベーションロックした)Mac本体の消去や再アクティベーションを他人が実行できないようになる。

またコンピュータウイルスなどのマルウェア対策として、CatalinaではOSは専用の読み取り専用ボリュームで実行されるようになる。システムとデータが分離されるため、何らかの原因でシステムファイルが上書きされる恐れがなくなる。マルウェア対策としては、現在のシステムにも搭載されている「Gatekeeper」機能が強化され、新たにインストールされたアプリは、実行前に既知のセキュリティ問題がないか確認される。こうして安全なアプリだけを利用しやすい環境となっている。

さらに、アプリがデスクトップや「書類」フォルダー、iCloud Drive、外付けボリュームにあるデータにアクセスする際には、事前にアクセス権の許可を求めるダイアログが表示されるようになる。このダイアログはキー操作を取得したり、画面の静止画および動画キャプチャーを行うアプリについても同様に表示されるため、いわゆるスパイウェアの類を発見・防止する一助になるだろう。

従来iOSで「iPhone(iPad)を探す」「友達を探す」アプリとして提供されていた位置情報アプリが「Find My」アプリに統合され、Macからも利用できるようになる(これまではWebブラウザでiCloudにアクセスする必要があった)。これまでMacはWi-Fiのアクセスポイントの位置情報を元にしていたため、スリープ状態では最後にアクセスポイントを使った場所しか確認できなかったが、CatalinaではBluetooth信号を近くにあるApple製デバイスがキャッチしてiCloudにリレーしてくれるため、位置を確認しやすくなった。

これはちょうど、Bluetoothを利用したIDタグと同様の動作で、機器同士がすれ違う際に位置情報をやり取りする一種のメッシュネットワークとなる。個々の機器のIDは匿名でやり取りされ、通信も暗号化されるため、Appleを含めて第三者がデバイスを特定することはできない。やり取りされる情報量も極めて小さいため、パケットの浪費も気にしないでいいレベルだ。大変便利な機能なので、願わくば市販のIDタグ製品とも連携できるようになれば、紛失物は大幅に減ることになるだろう。

また、Apple Watchを装着していればログイン時の認証が自動化できる「自動ロック解除」が強化され、アプリのインストールやノートのロック解除、Safariのパスワード表示などでパスワードを入力する代わりにApple Watchのサイドボタンをダブルクリックして認証できるようになる。MacユーザーにとってますますApple Watchが手放せなくなりそうだ。

ハンディキャッパー向け機能も充実

macOSには以前から身体にハンディキャップを持つユーザー向けの補助機能「アクセシビリティ」が搭載されているが、Catalinaでは新たに「Voice Control」を搭載。iOSやiPad OSにも搭載される同機能は、音声だけで画面上のボタンなどを選択できる機能。マウスやキーボードの操作ができないユーザーでも快適に操作できる。

  • ボイスコントロール利用時は画面上の操作可能な部分に数字が割り当てられ、それらの番号や、イエス/ノーなどの選択肢を音声入力することで操作できる

また、マルチディスプレイ環境では、メインディスプレイは標準の表示のまま、セカンドディスプレイに一部を拡大して表示できるようになる。さらに画面上のテキスト部分にマウスカーソルを当て、「Control」キーを押すとその部分のテキストがポップアップして拡大表示される「Hover Text」機能も搭載される。いずれも視力にハンディキャップのあるユーザー向け機能だが、前者はプレゼンテーションや細かなグラフィック作業、後者は電子書籍の利用時などにも役立ちそうだ。

Macの価値を高めるアップグレード

ここ数年、macOSはiOS系列と比べて機能面で後塵を拝するイメージがあったが、Catalinaではかなりの部分で統合が進み、追いついてきた。またMacのアドバンテージは複雑・大規模なコンテンツ制作において発揮されるが、iPadとの連携が強化されたことにより、この部分でもMacの存在価値が強化されたと言えるだろう。

macOS Catalinaの対応ハードウェアはMojaveとほぼ同等になるため、現在利用しているユーザーのほとんどは安心してアップグレードし、新機能の恩恵を享受できる。ただしセキュリティ機能などいくつかの機能は最新ハードウェアでしか動作しない。特に動作対象の加減となる2012年モデル~2014年モデルを使っている場合、修理対象からも外れているため(アップルのハードウェア修理サービスは製造終了から5年間)、ハードウェアの買い替えを考慮するいい機会になるだろう。 対応するMacは以下の通り。

機種名 対応モデル T2セキュリティチップ搭載の有無
Mac mini 2012年モデル以上 有(2018年モデル以上)
iMac 2012年モデル以上
iMac Pro 2017年モデル以上 有(全モデル)
MacBook 2015年モデル以上
MacBook Air 2012年モデル以上 有(2018年モデル以上)
MacBook Pro 2012年モデル以上 有(2018年モデル以上)
Mac Pro 2013年モデル以上 無(2019年モデルには搭載される模様)
アップグレード対応機種は、2012年以降に発表されたMac。Mojaveに対応していた2010年および2012年モデルのMac Pro(Metal対応グラフィックカード搭載)は対象にならない