Appleは3月20日、第2世代となる新型AirPodsを発表した。内蔵チップが刷新されたことや、ケースがワイヤレス対応になったこと以外、大きな変更を見出すことはできない。だが、初代モデルがワイヤレスイヤホンの問題解決に取り組んだユーザー体験は引き継がれつつ、心地よさはさらに増していた。

今回から2回にわたって、新しくなったAirPodsについてレビューしていこう。

  • 3月末から販売を開始している新AirPods。今回も相当売れているようで、アップルストアでは配送予定日がすでに5月上旬以降となっている。価格は、ワイヤレス充電ケース付きモデルが税別2万2800円

AirPodsがもたらす心地よい体験が進化

AirPodsは、iPhoneに付属していた「EarPods」からケーブルを取り去っただけのデザインで登場した、Bluetoothによる完全ワイヤレスイヤホンだ。初代モデルは、アップル独自のW1チップを搭載することで、これまでのワイヤレスイヤホンが抱えてきた問題点をいくつも解決してきた。

新型AirPodsでは、これまでのW1に代えて「H1」チップが左右それぞれに内蔵され、W1で実現してきたAirPodsのメリットを踏襲しつつ、さらに高い性能や使い勝手を実現している。H1に触れる前に、AirPodsがもたらしてくれる体験を振り返ってみよう。

AirPodsのユーザー体験は極限までシンプルだ。製品を購入して開封し、iPhoneの近くでケースのフタを開けると製品が認識され、iPhoneに表示されるボタンを1度押すだけでペアリングが完了する。

  • iPhoneの近くで充電ケースのフタを開くだけで認識し、簡単にペアリングできる利便性はそのまま

それ以降は、耳に装着するだけで自動的に電源が入り、身近にあるデバイスとペアリングされ、AirPodsでの音楽再生に切り替わる。同じApple IDでログインしているiPadやMacなどとプロファイルが共有されるため、再度ペアリングする必要はない。接続するデバイス側で操作すれば、AirPodsを装着したまま接続先を切り替えることができる。

このペアリングの問題は、ワイヤレスイヤホン全体に通じる問題点だった。W1チップ搭載の初代AirPodsはその問題を解決して評価されたが、H1チップ搭載のAirPodsはデバイス切り替えの時間を大幅に短縮することに成功した。

Appleによると、H1チップ搭載の第2世代AirPodsは、デバイスの切り替え時間を半分に短縮したという。

iPhoneとAirPodsの組み合わせで音楽を聴いていて、ビデオ会議の時間になってMacとの接続に切り替える場合、Macから接続の操作をしてから10秒ほどかかっていた切り替えが5秒ほどで済むようになった。条件や状況によって時間は変わるようだが、違いを体感できるほどの高速化が図られている。

新サービスをにらみ音量と遅延を改善

AirPods自体のデザインは見分けがつかないが、聞き比べてみると明確に音が良くなったことが体験できる。どの音域も切れが良くなり、音に拡がりがもたらされ、低音も高音もより無理なく伸びていく印象となった。

細かいリズムが刻まれる電子音楽を聴いてみると、ドラムの音それぞれが際立って聞こえたのが印象的だった。クラシックでは、伸びやかで厚みのあるストリングスの音が体験できる。W1搭載のAirPodsを使い込んだ人ならば、明らかに音が良くなったと感じられるはずだ。

イヤホン自体が発する音量が15%大きくなったことで、聞き取りにくかった音が聞こえやすくなり、音質が向上したと感じられるようだ。

H1チップの搭載により、音の遅延が30%ほど改善されたのも見逃せない。映像やゲームなどを楽しむ際、音と映像のタイミングのズレが先代のAirPodsよりも小さくなったことが体験できるはずだ。

Appleは、AirPodsの新モデルを披露した翌週、App Storeを拡張したゲームのサブスクリプションサービス「Apple Arcade」と映像のサブスクリプションサービス「Apple TV+」を発表している。遅延の改善や音質の向上は、モバイルゲーム環境や映像視聴の体験を向上させたいという意図が見える。

バッテリー持続時間は通話で向上

筆者は、AirPodsを外出時の音楽再生に利用している以外に、仕事場や自宅でも多用している。その用途の多くは、ビデオ会議や音声通話だ。

AirPodsは本体にズームマイクを備えており、環境音を拾うマイクとともにノイズキャンセリング機能も搭載している。そのため、多少うるさい場所でも自分の声をクリアに伝えられる。耳元のAirPodsのマイクで声を拾うため、口元から離れていることが多少不安に感じるかもしれないが、使っている限り大きな問題は起きていない。

初代AirPodsの連続通話時間は2時間で、5時間の音楽再生時間に比べると半分以下に短くなる。そのため、筆者は片耳だけAirPodsを装着して会議に参加し、電池がなくなってきたらもう片方の(バッテリー100%の状態の)AirPodsに付け替えてその後の会議をこなす、という使い方をしてきた。

2代目となるAirPodsは、H1チップのおかげで連続通話時間が3時間に伸びた。左右片方ずつ使えば、実に6時間も通話できる。収納場所となるケースに入れておけば充電されるため、通話している間に再びバッテリーが100%に復活するので、実質的に連続して通話できる。もっとも、3時間も電話会議に参加していたらユーザー自身がバッテリー切れになってしまうが。

Hey Siri対応のメリットは意外に多い

H1チップの搭載によって、AirPodsのマイク周りの省電力性が高まったことから、新たに「Hey, Siri」機能を実装した。これまで、AirPods自体をダブルタップしてSiriを呼び出していたが、新型AirPodsでは声だけでSiriを呼び出せるようになったわけだ。

完全に手が離せないときに、時刻や次の予定、天気などの情報を知ったり、地図アプリで経路を調べたり、電話をかけたりメッセージの返信をしたり、といった操作を声だけでこなせるようになる。

AirPodsでのHey Siri対応以前から、iPhoneは長らく声だけでSiriを呼び出せる仕組みだった。Apple Watchでは「Hey Siri」すら言わず、手首を口元に持ってくるだけで命令を告げられた。

そのため、AirPodsでHey Siriに対応したことのインパクトはそれほど大きくないと思われがちだ。だが、例えば荷物を持って歩いているときなど、手首を口元まで上げてApple Watchの画面を見ることが難しい場面もある。音楽を聴きながら本を読んでいる場面でも、ハンズフリーでSiriに尋ね、声だけで情報をフィードバックしてくれるのはありがたい。

後編では、待望のワイヤレス充電ケースの使い勝手を中心に、さらにAirPodsを見ていくことにしたい。

著者プロフィール
松村太郎

松村太郎

1980年生まれのジャーナリスト。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。Twitterアカウントは「@taromatsumura」。