Appleは3月20日夜に、大人気の完全ワイヤレスイヤホン「AirPods」の改良版を発表した。iPad mini/Air、iMacに続き、実に3夜連続の新製品発表となった。AirPodsもまたウェブ上での発表となり、3月25日に控えるイベントの主題から外された。

  • ついに2世代目が登場した新しい「AirPods」。すでに販売を開始しており、実売価格は税別2万2800円

AirPodsは、2016年に登場したiPhone 7以降、iPhoneからイヤホン端子を取り去る代わりに、充電やペアリングの不便さを解消したワイヤレスオーディオとして登場した。販売開始以来、長らく品薄状態が続き、製造すればしただけ売れていく状況となった。街中でも、ケーブルのない白いイヤホンが珍しい存在ではなくなり、左右が独立している「完全ワイヤレスイヤホン」というカテゴリーを確立。技術的な部分では、他社に対してまだまだアドバンテージを確保している。

iPhoneとAirPodsの組み合わせの場合、左右それぞれのイヤーピースが直接iPhoneとオーディオデータを通信するが、Androidスマートフォンでこれが実現できるようになったのは2018年の最新BluetoothチップとSnapdragon 845搭載スマホが初めて。これが、AirPodsが技術的に2年進んでいたという理由だ。

小さいボディながら、ステレオ連続再生5時間、ケースのバッテリーと組み合わせて24時間の再生時間を確保し、複数のデバイス間でも1度のペアリングで利用できる利便性は、引き続きAirPodsが誇る性能面での優位性として残っている。

新しいH1チップが登場

この技術的な優位性を支えていたのが、Appleが設計したワイヤレスチップ「W1」だった。 Appleはこれまで、iPhoneやiPad向けにAシリーズのメインチップを設計し、そこから派生してMac向けにTシリーズや、Apple Watch向けにSシリーズのチップを作って組み込んできた。いずれも、バッテリー面、性能面で高い優位性を確保する原動力となっているが、AirPodsでも同様のアドバンテージが発揮されていた。

すでにワイヤレスチップはW2、W3と発展しており、これらはApple Watchに内蔵する形でコネクティビティを担い続けている。しかし、今回の新しいAirPodsに搭載されたのは、まったく新しいアルファベット「H」が用いられた「H1チップ」だ。

Appleのウェブサイトでは、H1のことを「イヤホンチップ」と紹介しているため、「H」は「Headphone」の頭文字を表していると考えてよいだろう。ちなみに、すでにAppleが使った自社設計のチップの頭文字は「A」「H」「M」「S」「T」「W」となった。

新AirPodsで強化されたポイントとは?

H1を搭載した新しいAirPodsの強化のポイントは、高速化と機能の追加だ。

まず高速化は、デバイスとAirPodsとの間での通信速度向上を示している。Appleによると、アクティブデバイス間の切り替えは2倍に、通話時の接続は1.5倍に高速化したという。

確かに、パスワードやペアリングがいらない自分のデバイス間でのAirPods利用の切り替えには時間がかかっており、手元のデバイスの操作からしばらく待たされることもあった。このタイムラグが減少することが期待できる。

加えて、H1チップを搭載する新AirPodsのSiriは、タップ操作なしで「Hey Siri」と呼びかけるだけでよくなった。これにより、完全にハンズフリーでスマートフォンの操作ができるようになった。

  • タップ操作をすることなく、音楽を聴いたまま「Hey Siri」と呼びかければSiriが機能するようになった

Siri使用時の遅延も30%減少させたほか、音質の向上もH1チップによる機能改善だという。このあたりは、実際にレビューしながら確認してみたい。

AirPodsの進化が驚異的だと感じる理由

ここまでは、H1チップによるAirPodsの進化について触れてきた。その中でも、Hey Siriについては以前から早晩対応すると予測されてきたが、それでも改めて驚かされる性能向上だといえる。

ユーザーがAirPodsの装着中にいつでも「Hey Siri」と呼びかけられる、と言葉にすると簡単に感じるが、耳たぶ程度のサイズを維持するAirPodsでこれを実現することは大きなチャレンジだったと見受けられる。

デバイスのサイズを変えないということは、バッテリーサイズが劇的に増加したわけではない。おそらく変化していないだろう。そうした条件の下で、AirPodsはユーザーの声をマイクを通じてモニタリングし、常時待ち受けすることになったのだ。

そうした大きな負荷をバッテリーにかけたうえで、5時間の連続再生時間を維持している点は、ひとえにH1チップ採用の効果だと見ることができる。小さな変化かもしれないが、小さい製品の中で機能をしっかり向上させた点に驚かされたのだ。

ケースも進化、ワイヤレス充電に対応

もう1つの進化は、AirPods専用ケースがQiのワイヤレス充電に対応した点だ。iPhoneをワイヤレス充電できる充電パッドで、AirPodsケースをAirPodsごと充電することができるようになった。

そもそも、AirPodsをQiでワイヤレス充電させるアイディアは、iPhone・Apple Watch・AirPodsケースを同時に充電できる「AirPower」を実現するうえで、必要だった。AirPowerの発売は絶望的になってしまったが、新しいAirPodsケースが発売されたことで、すでにiPhoneでワイヤレス充電を行っているユーザーにとっては利便性が向上する。

  • 販売中止がアナウンスされたAirPower

AirPodsワイヤレス充電ケースは単体でも発売され、既存のAirPodsユーザーもワイヤレス充電の利便性を手に入れられる。もちろん、AirPods自体は従来のものを使うため、Hey Siriの呼び出しや低遅延性などの新機能には対応できないが。

H1チップの登場で、今後の新製品にもさらなる期待

AirPodsは引き続き、iPhoneと組み合わせる標準的なワイヤレスイヤホンとしての地位を盤石なモノとしていくだろう。もちろん、他社からも優れた製品は登場しており、スタイルに合ったワイヤレスイヤホンを選択肢に入れるべきだ。万人にとって、AirPodsが必ずしも完璧な製品というわけではない点が、ウェアラブルデバイスの難しさだ。

例えば、AirPodsは1サイズしかなく、あらゆる人の耳にフィットするわけではない。自分の耳には大きすぎる、あるいは逆に小さすぎる、とフィット感の悪さを感じる人もいる。そういうこともあり、耳栓のようなゴムのパーツのサイズを選んでフィットさせるカナル型を好む人も多い。Apple傘下で人気のあるBeatsの「BeatsXイヤフォン」などはこのタイプを採用している。

  • カナル型を採用するBeatsの「BeatsXイヤフォン」。希望小売価格は税別1万1800円

また、オーバーイヤー型のイヤホンがよいという人、ノイズキャンセリング機能を求める人など、スタイルや機能性にも多様なニーズがある。先述のBeatsブランドも、そのような製品を含めた製品展開をしている。

Apple自身がさらなる高音質化やノイズキャンセルなどの機能に踏み込むとしても、やはり独自のイヤホンチップの進化が前提になる。ワイヤレスチップ「W」シリーズから、イヤホンチップ「H」シリーズに変更されたことは、AppleがH1チップ以降、AirPodsや派生製品をよりオーディオ的な進化へと進めていくことの意思表示とも取れるのだ。