ディスプレイを折りたためるスマートフォン「HUAWEI Mate X」を発表して大きな注目を集める一方、2018年末より米中摩擦の影響が顕在化しビジネスにも大きな影響を与えているファーウェイ・テクノロジーズ。同社のコンシューマービジネスグループCEOであるリチャード・ユー氏に、Mate Xをはじめ5G時代を見据えた今後のスマートフォン戦略について話を聞いた。

“アップル超え”実現も高付加価値モデルに拡大の余地あり

中国のスマートフォン大手であるファーウェイ・テクノロジーズが、ディスプレイを折りたたむことができる新機軸のスマートフォン「HUAWEI Mate X」を発表して大きな注目を集めている。だが一方で、米中摩擦の影響を受け米国市場への進出が難しくなるなど、同社のビジネスを取り巻く環境は複雑になりつつある。

そうした中にあって、同社はどのようにしてスマートフォン事業の成長戦略を描こうとしているのだろうか。2019年2月25日よりスペイン・バルセロナで開催された「MWC 2019」にて、コンシューマービジネスグループCEOであるリチャード・ユー氏にグループインタビュー形式で話を聞くことができた。

ファーウェイでスマートフォンなどの事業を取り仕切るリチャード・ユー氏。手にしているのは発表されたばかりの「HUAWEI Mate X」だ

ファーウェイは2018年の第2・第3四半期に、スマートフォンの出荷台数シェアでアップルを抜き2位に躍り出るなど、足元の業績は非常に好調だ。リチャード氏は「グローバルの色々な所に伸びしろがある」と話し、スマートフォンに限定することなく、ウェアラブルデバイスやIoTなどさまざまなデバイスに注力し、総合的に販売を伸ばす戦略をとる考えを示した。

だがスマートフォンに関しても、「シェアでアップルを抜いたといっても、アップルは平均単価が高く、売り上げが非常に高い」とリチャード氏は回答。ハイエンドモデルの販売ではまだアップルに追いついておらず、拡大の余地があるとの認識を示している。

HUAWEI Mate X

「HUAWEI Mate X」は5Gのために開発された

ハイエンドモデルの拡大という意味でも注目されるのが、MWC 2019に合わせて発表された「HUAWEI Mate X」の存在だ。Mate Xはディスプレイを直接折りたためるというスタイルが大きな驚きをもたらしたが、こうした端末を開発するに至った理由として、リチャード氏は大きく2つの要因を挙げている。

1つは、消費者がスマートフォンを利用する時間が年々長くなっていること。利用頻度が増えている現在ではディスプレイの大きさが利便性に大きく影響することから、「より良い体験ができる新しい端末を開発しなければならないと思った」とリチャード氏は話す。

そしてもう1つは、次世代通信「5G」の存在だ。5Gでは通信速度が大幅に向上しコンテンツがよりリッチになることから、より大画面に対するニーズが高まると考えられている。だが単に画面を大きくしてしまえば持ち運びにくくなってしまうため、程よい大きさと優れた体験を提供するべく、3年をかけて開発を進めたのがMate Xなのだという。

Mate Xの機能や特徴について説明するリチャード氏。Mate Xの開発には3年の歳月をかけているという

それゆえMate Xは5Gで新しい体験が利用できることに強くこだわり、折りたためるディスプレイの採用に至ったとのこと。それゆえ「(Mate Xの発表後に)『4G版は出ないのか』という声もあったが、5Gの製品として構想していたので、4G版として提供することは考えていなかった」とリチャード氏は話している。

ファーウェイは5Gのスマートフォンを開発する上で、チップセットやモデムを自ら開発していること、長年スマートフォンなどを手掛けてきた経験、そしてライカと提携し高い表現力を実現するカメラなど、多くの部分で優位性を持っているとリチャード氏は話す。Mate Xの機能や性能を見ても、同社の高い技術力が存分に生かされているのは確かだろう。

Mate Xにはファーウェイ独自開発の5G対応モデムチップ「Balong 5000」を搭載し、やはり独自開発の「Kirin 980」と組み合わせて5Gへの対応を実現している

ちなみに折りたたみスマートフォンには、Mate Xのように外側にあるディスプレイを折り曲げるタイプと、サムスン電子の「Galaxy Fold」のように内側のディスプレイを折り曲げ、本体を開くと大画面のディスプレイが現れるタイプの2種類が存在する。

Mate Xが前者の仕組みを採用した理由について、リチャード氏は「どちらも試作してみたが、内側に折り込む仕組みの方が開発は簡単だ。ただ本体が重くなるし、熱くなりやすいので不便になる。外側に折り込む仕様の方が薄くできるし、ディスプレをより大きくできる」と、ユーザー体験を高められることがその理由だと話している。

米中摩擦の影響を受けても“サムスン超え”を目指す

一方で、日本でも2018年末より話題になった通り、中国企業であるファーウェイは米中摩擦の影響を受けている。米国でのスマートフォン販売拡大も難しくなり、それが同社のビジネスに大きな影を落とすことにもつながっている。

特に米国側は、同盟国ではない中国企業の製品が入り込むことで、中国政府の影響を受ける形でセキュリティ上の問題が発生することを強く懸念しているようだ。だがリチャード氏は「この業界で最も優れた安全性とプライバシー保護の実績を持っている。弊社のポリシーとして、政府からの盗聴やバックドアなどの要請は一切受け付けない」と回答。政治の関与を明確に否定し、セキュリティ上問題ないことを訴えている。

ただ一方でリチャード氏は、「いま米国市場に入り込めないが、他国のキャリアとの対話は進めている」とも話している。ファーウェイを取り巻く問題には解決の見通しが立っておらず、現実的に見れば当面米国での端末販売拡大は難しいだけに、米国以外での販売を伸ばして売上拡大を図る考えのようだ。

だがそれでも、スマートフォンの出荷台数シェアで最大手のサムスン電子を超え、首位の座を獲得することに対しては「自信がある」とリチャード氏は回答。技術力を武器として長期的に“サムスン超え”を目指していくようだ。

Mate X発表時のプレゼンテーションでも、サムスン電子の折り畳み端末「Galaxy Fold」との比較が多く登場するなど、強く意識している様子を見て取ることができた
(佐野正弘)