宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月10日、神戸大学大学院理学研究科の樫村博基 助教らによる研究グループが、金星探査機「あかつき」を用いた観測により、金星を覆う雲のなかに巨大な筋状構造を発見したこと、ならびに大規模な数値シミュレーションにより、この筋状構造のメカニズムを解明したことを発表した。
今回、研究グループはあかつきに搭載された波長2μmの赤外線を捉えるカメラ「IR2」を用いた金星の高度50km付近の下層雲に対する詳細な観測データと、海洋研究開発機構(JAMSTEC)のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いて金星大気の数値シミュレーションを行うための計算プログラム「AFES-Venus」のシミュレーション結果の比較・解析を実施。IR2の観測から、北半球では北西から南東にかけて、南半球では南西から北東にかけて、幅数百kmの複数本数の白い筋が束になって1万km近くにわたって斜めに延びている構造「惑星規模筋状構造」を発見。AFES-Venusでも再現することに成功し、シミュレーション結果が正しいことが示されたという。
また、シミュレーション結果を詳細に解析した結果、惑星規模筋状構造は、日本の日々の天気にも影響を与えるジェット気流が関与していることなど、その成り立ちに関するメカニズムを解明するにいたったとしている。
これらの結果から、研究グループでは、いくつもの大気現象が組み合わさった結果である惑星規模筋状構造が、シミュレーションでよく再現されているということは、シミュレートされた個々の大気現象も実際の金星で発生している可能性が高いことを示していると説明。今後、あかつきとAFES-Venusを連携させることで、金星の気象のさらなる謎の解明が期待できるようになるとしている。
なお、同成果は、神戸大の樫村 助教のほか、同大 大学院理学研究科 惑星学専攻/惑星科学研究センターの大淵済 研究員、同 高橋芳幸 准教授、同 林祥介 教授、慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室/自然科学研究教育センターの杉本憲彦 准教授、京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科/惑星気象研究センターの高木征弘 教授、東京学芸大学 教育学部の松田佳久 教授、京都大学 防災研究所 気象・水象災害研究部門の榎本剛 准教授、九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門の中島健介 助教、北海道大学 大学院理学研究院 宇宙理学専攻の石渡正樹 准教授、北海道情報大学 経営情報学部 システム情報学科の佐藤隆雄 講師、岡山大学 大学院自然科学研究科 地球科学専攻のはしもとじょーじ 准教授、JAXA 宇宙科学研究所の佐藤毅彦 教授らによるもの。詳細は1月9日付けで、英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。