膨大なIoT機器をつなぐプラットフォーム「Pelion」

英Armは12月5日に都内で開催されたMbed Connect 2018にあわせ、Pelion Platformの現状に関する記者説明会を開催した(Photo01)。

  • 説明を行った太田一樹氏

    Photo01:説明を行った太田一樹氏(VP of Technology, IoT Service Group)。元々はTreasure Dataの創業者兼CTOで、同社の買収に伴い技術部門のVPとなった

Armの現状だが、現時点で1250億個のArmベースのチップが出荷されていることに触れたうえで、2035年にはおおよそ1兆個のIoT機器が世界に存在する、という推定を紹介(Photo03)。

  • スマホ1台に複数のCortexシリーズが搭載される

    Photo02:ちょっとした数字のマジックであるが、例えばスマートフォン1台には下手をすると数十個のCortex-Mとかが入っているのが昨今の状況である。そのため必ずしもArmベースチップの出荷数と最終的な出荷台数は一致しない

  • IoT機器が増加していくことは間違いない

    Photo03:1兆個という数字の妥当性はともかくとして、今は8.4億個といわれるIoT機器が、この先急激に増える、という事は間違いない。ただ、実際には1つのIoT機器の中に複数のマイコンが入る、という構図は引き続き維持されていく気がしており、この数字は、個別のマイコンの数を数えているような気がしなくもない

そうした膨大な数のIoT機器をつなぐためのプラットフォームがPelionとなることが紹介された(Photo04~10)。

  • 8月の説明会の際にも出てきた図

    Photo04:これは8月の説明会の際にも出てきた図。Constrainedを「制約」にしてしまったので、"Ultra Constrained"が「過度の制約デバイス」という訳の判らないものになっているが、要するに超低価格が必須となるシンプルなノードの事

  • Pelionの構成要素

    Photo05:こちらも同じく。PelionはStreamのConnectivity、MbedのDevice Management、それとTreasure DataのData Managementという3つの要素から構成される

  • IoTの活用先

    Photo06:これはArmの、というよりはTreasure Dataが以前から抱えていた顧客のニーズをまとめたもの。顧客情報を収集するマーケティング、資産管理などのロジスティクス、スマートメーターなどに代表されるユーティリティ、車両管理を行うオートモーティブ、スマートファクトリなどに向けたIndustry X.0、それとビルや公共施設などに向けたスマートスペースが、現在のTreasure DataというかArmの顧客がIoTを利用しようとする対象とされる

  • Pelion Platformの3つの要素の説明

    Photo07:Pelion Platformの3つの要素の説明。前にも触れたが、Treasure Dataの扱っていた部分がDataを、残りの2つがControlをそれぞれ担う事になる

  • Mbed Device Managementの機能

    Photo08:Mbed Device Managementの機能。出荷から運用終了までのライフサイクル・マネジメント(PLM)を担う形

  • Stream Technologiesの提供するConnectivity

    Photo09:Stream Technologiesの提供していたConnectivityの説明。Streamは各国のキャリアからバルクの形で通信枠を購入し、これを再販する事で低価格かつ統一された全世界でのConnectivityとManagement機能を提供する

  • Data Managementの機能

    Photo10:Data Managementの機能。こちらは<以前の記事の方で細かく説明しているので、そちらを参照していただきたい

またこれに付け加える要素としてPSA(Photo11)を紹介。これを利用することで、従来のIoT機器が、よりセキュアなものになる事を説明した(Photo12)。

  • PSA

    Photo11:PSAの詳細はこちらを参照していただきたい

  • PSAのメリット

    Photo12:従来だとデータの改竄が行われたり(左)、デバイス内にパスワードが保存されるためにこれが流出しやすかったり(中央)、また問題があってもその修正には機器交換が必要だったり(右)という問題があったが、PSAに準拠したシステムにすることで、こうした問題への対処ができる、とした。ちなみにこの例、実はArm TechCon 2018の基調講演で出てきたものである

国内におけるパートナーシップを公開

今回の説明会でのアップデートとしては、国内でのパートナーシップが明らかにされたことだろうか(Photo13)。

  • Pelionの利用状況

    Photo13:すでに全世界では140以上のパートナー企業と、800以上のカスタマがPelionを利用しているという

シリコンとしてはルネサスと東芝、センサやコネクティビティでは村田やロームなど4社、クラウドパートナーとしてはNSW/Softbank/NECが名前を連ね、クラウドカスタマも5社が並んでいる。

さて、説明の内容としてはこの程度で、8月に開催された説明会の時からほとんどアップデートは無いのだが、面白いのはこのPelionに対するArmの取り組み方である。

良くあるパターンは、「これとMbed Cloudを組み合わせる事で、Armからワンストップでソリューションを提供できます」という形だが、「そうした事を望む顧客はまずおられない。すべてを1社に集約するというのはものすごいリスクが高い事であって、普通は複数のサービスを組み合わせる事を望む」(太田氏)ということで、Armとしてはすべてのラインアップを用意はしつつも、「もしAWSのデバイスマネジメントとPelionのデータマネジメントを組み合わせたければ、それは可能」というように、あくまで顧客のニーズにあった形で提供できるようにするという基本姿勢に変化はなく、長期的にMbed Cloudに囲い込むといった事は一切考えていない、という話であった。

このあたりは、先行するAWSやAzureと競合するのではなく、協調することでビジネスを展開していきたいというArmの意向が透けて見えてくる。

Armの場合、もちろんMbed Cloudでのビジネスも今後は柱にしていきたいと考えてはいるが、まずは既存のIPコアのビジネスを、1兆個のIoT機器の時代に向けて、より使いやすくするのが優先ミッションであり、端的に言えばPelionもそのための手段の1つ、と言っても良いのかもしれない。

もう1つ感じたのは、Treasure Dataのビジネスのやり方を、Armが尊重してそのまま生かそうとしているということだ。顧客のニーズに合わせて、というのは元々Treasure Dataがやっていた事であり、現在太田氏や芳川氏は、Dipesh Patel氏の下でこのTreasure Data流のビジネスのやり方をArmの顧客に対して実施すべく奔走している、という風情が太田氏の説明から感じられる。ArmはM&Aが上手い、というか買収した企業のビジネスや資産を生かすのが非常に上手いという印象があるが、その秘訣はこういうところにあるのかもしれない。