Appleは、10月30日に米国ニューヨークのブルックリンで開催したイベントで、iPad Proを刷新した。今回のアップデートは、iPadの「X化」(テン化)と表現できる。

iPad Proは2015年の登場以来、初めてとなる大幅なデザイン変更を受けた。今回から、iPhone Xシリーズと同様にホームボタンを廃止したオールスクリーンデザインを採用している。iPhone XRと同様、液晶ディスプレイながら縁まで敷き詰めるLiquid Retinaディスプレイを採用し、角は丸くボディデザインとの一体化が図られた。また、TrueDepthカメラを搭載し、縦でも横でもFace IDの顔認証によってロック解除できるようになる。

  • オールスクリーンデザインに刷新されたiPad Pro。Apple Pencilは、本体側面に密着させた形で持ち運べるようになった

こうしたフォームファクターは、2017年に発表したiPhone Xを踏襲するもので、iOSを共有するiPadにいち早く取り入れた格好だ。なお、ホームボタンがある廉価版の第6世代iPadに加え、2017年モデルの10.5インチiPad Proはラインアップに残されている。

オールスクリーンデザインの使い心地

iPadは、2010年からその形や画面サイズをほぼ維持してきた。そのなかで、パネルサイズが最大となる12.9インチモデルは2015年に登場し、大型モデルとして特にクリエイターなどに向けてアピールしてきた。

Liquid Retinaディスプレイの採用とホームボタンの廃止は、12.9インチモデルの外形をより小さくすることに成功している。そして、画面に触れれば点灯し、即座にFace ID認証が行われ、下の辺を上に短くフリックすればホーム画面に移動できる。既にiPhone X以降のスマートフォンに触れていれば、そのままのノウハウで、このホームボタンなしのタブレットを操作できるようになる。

縁が狭くなったことで、どうしても画面に指がかかってしまうため、これまでよりも持つ場所を気をつける必要がある。確かに、画面の縁は誤って反応しないような仕組みが備わっているが、これまでよりもより縁がなくなったため、普通に画面を押しているように反応する場面も見られた。

ディスプレイの解像度や性能はこれまでと同様だ。ProMotionテクノロジーは、画面のリフレッシュレートをコンテンツによって24~120Hzで可変させ、最適な画面描画を提供する。P3に対応する高色域ディスプレイや最大600ニトの明るさも、あらゆる場面で美しい画面表示が得られるだろう。

アクセサリの進化は、それだけでアップデートする材料になる

iPad Proには、登場時からSmart KeyboardとApple Pencilという2つのアクセサリが用意されていた。今回、そのどちらもがより使いやすく進化している。

まず、Smart Keyboardは「Smart Keyboard Folio」と名前を変えた。iPhone X向けに用意されているフォリオケースは、端末を包み込むようにして表と裏の双方を保護するケースだ。今回、iPad Pro向けにも、フォリオケースの特徴を受け継いで表裏を保護する新しいキーボードフォリオが用意された。

キーボード部分はこれまでと同じだ。筆者は10.5インチのiPad Proを使ってきたため、それに比べるとキートップ部分は大きく、よりタイピングしやすくなった。

  • Smart Keyboard Folioのキーボード。デザインやキータッチは従来のSmart Keyboardと同じだ

ケースが背面を包み込む構造となったため、3つの接点であるSmart Connectorは、背面のiPadロゴの下に移動された。この位置に配置した理由は、デザイン全体のバランスを考えてのことだという。iPad Proの背面には102個もの磁石が備わり、特に溝などをボディに入れなくても、ピタッと正しい位置に固定される。

Smart Keyboard Folioは、iPadを傾けて開くことができる仕組みを備えているが、ポジションはこれまでの1つから2つに増やされた。手前の溝は膝の上で利用するためのもので、より寝た角度で固定され、デバイスのバランスも良くなる。もう1つはデスク用で、より立った角度で固定される。デスク用のポジションでも垂直まではいかず、ビデオを撮影する際のスタンドとしてはあまり適さない印象だ。

  • 新しいiPad Pro(左)は、iPadの角度を2種類から選べるようになった

新しいApple Pencilは、これまで通り240Hzで動きをピックアップし、筆圧と傾きを検出する仕組みは変わらない。しかし、ペン先とは逆の後端にあった充電とペアリング用のLightningコネクタは廃止された。

その代わり、軸の一部は平らになり、その部分を本体の右側面(Smart Keyboard Folioに装着した場合は上)に磁石で固定できるようになった。これにより、Apple Pencilで悩みのタネだった「Apple Pencilをどのように持ち運ぶか」という問題は解消される。

  • 新しいApple Pencil。iPad Proの側面に磁力で装着でき、充電と固定がスマートになった

さらに、iPad ProとApple Pencilは2つの磁石により正しい位置に固定され、効率よくワイヤレス充電が行える。本体に固定するだけでペアリングと充電が行えるので、より手軽な管理を実現してくれる。

Appleは、新しいApple Pencilを「ボトルボート」のようだと表現する。瓶の中に精巧に作られた船の模型のように、どうやってこの中に収めたのか不思議になるほど、非常に多くの仕組みが鉛筆サイズの軸に収められているというのだ。

先述のワイヤレス充電やバッテリーに加え、ペンを握る部分にはぐるりとタッチセンサーが巻かれており、ダブルタップの操作でペンと消しゴムのツールを入れ替えるといった操作を実現している。これにより、手書きメモの場合でもスケッチの場合でも、このApple Pencilのジェスチャーによって、より作業に集中できるようになる。

ちなみに、Adobeが2019年にリリースする予定のiPad向けPhotoshop CCのプロトタイプでは、すでに新しいApple Pencilでの操作に対応していた。

キーボード付きカバーのSmart Keyboard Folioと、持ち運びと充電が簡単になったApple Pencilの存在は、現行のiPad Proを使いこなしている人にとって、新モデルへ買い換える動機になり得る進化だった。