スペシャリスト指向から管理職への転換

さまざまな業界ごと、職種ごとに男女比の偏りはあるものだが、IT業界のエンジニアは「男社会」の傾向が強い。そんな中、日本オラクルでは女性管理職が増えてきているという。

既婚であり、子供を育てる母親でもあるという条件は、ITエンジニアというハードな働き方にはハードルが高い属性とも言える。家庭と仕事の両立というミッションをこなしつつ、仕事の上でも新たな責任を背負うことになる管理職につくことをどうとらえているのだろうか。

「マネージャーになる際、上司から推薦を受けたのですが、現場から離れることに不安はあり、迷いました。現場が好きでしたし、男社会で管理職になること、年上の男性が部下になることも迷いの理由でした。ですが、周囲がサポートすると言ってくれたので受けることにしました」と語るのは、日本オラクル コンサルティングサービス事業統括 クラウド・アプリケーション・デリバリー事業本部 ERPクラウドコンサルティング第一部 部長である村井涼子氏だ。コンサルタントだった村井氏は現在、16名の部下を抱え、4つのチームを横断的に見る役割を担っている。

  • 日本オラクル コンサルティングサービス事業統括 クラウド・アプリケーション・デリバリー事業本部 ERPクラウドコンサルティング第一部 部長 村井涼子氏

そんな村井氏の部署に2016年まで所属し、2018年にマネージャーとなったのはコンサルティングサービス事業統括 グローバルエンゲージメント本部 部長の近藤美恵子氏だ。「村井と私のいる部署は社内でも女性マネージャーが少ないです。私は昨年までマネージャーだった方が退社することに伴い、引き継ぐ形でマネージャーになりました。やはり現場を離れる不安はありましたが、キャリアが長いので助けてくれる人も多くいます。仕事が変わることに期待と不安が半々といったところでした」と近藤氏は語る。

  • 日本オラクル コンサルティングサービス事業統括 グローバルエンゲージメント本部 部長 近藤美恵子氏

2人が語る現場を離れる不安は、日本オラクルに定着しているキャリアパスを選択できる環境に起因する。エンジニアのキャリアパスとしてよく語られる、一定の年齢になると「技術の第一線では活躍できなくなる」「マネジメントへ進まないと先がない」といった空気が社内には存在しないのだ。技術者として、スペシャリストという形で年齢とキャリアを重ねた中でポジションを確立することもできる。

そのため、年齢が上がっても役職についていないことは問題ではなく、同時にマネジメント思考のある若手にもチャンスが与えられている。

両氏ともに転職を経て日本オラクルに入り、長いキャリアを持っている。その中では自然とスペシャリストを目指す意識を持っており、マネージャー職に就くことを意識していなかったという。しかし、実際にマネージャーへ就任してみて、その感想は良いものであるようだ。

「現場ではわからなかったことが見えるようになりました。普段話す相手が上層部になりますから、自然と目線も上がって行きます」と村井氏。近藤氏も「現場にいる時の働き方は、自分のバリューと会社の目的を合わせるという感じでしたが、マネージャーは会社が何をしたいかを考えます。トップと話すので見えているものが変わりますし、勉強になりますね」と語る。

立場が変わることで仕事に対する考え方や、企業との向き合い方が変わってきているようだ。

女性が管理職になることの難しさは?

現場指向が強く、必ずしもマネジメントへと進むことが成功条件ではない場で、女性が管理職になることに難しさはないのだろうか。

「最初は甘く見られないようにしようと考えていたのですが、実際にはコミュニケーションを重ねていくことで信頼関係を築くことができました。大事なのは自信ですね。自信がないと指示は出せません。今までの経験を軸にしないとマネージャーとしても活躍できない会社です」と村井氏。初めは、女性管理職が少ない部署だけに難しく考えてしまった部分もあったが、現在は性差や年齢差に問題を感じることはないという。

近藤氏も、女性だからという気負いはあまりなかったようだ。同氏が苦労した点として語ったのは、性別に関係ない部下との付き合い方だった。

「複数チームからスペシャリストが集まる部署なので、どの部署から来たかによって文化やスタイルが違っています。そうした点を尊重し、部下の個性に合わせ臨機応変に対応することを心がけています。管理に加え、現場で動く必要があるプレイングマネージャーなのですが、個性豊かな部下たちを一緒に働くことを楽しもうと思っています」(近藤氏)

両氏の話からは、日本オラクルが「女性だから」「年下だから」ということにこだわりを持つ人が少ない企業であることが見えてくる。一方で、女性だからということではないだろうが、家庭の事情に配慮してくれる企業でもあるようだ。

「双子の母なのですが、昨年は大学受験の年で、この1年だけは海外出張は避けたいということを伝えました。私のチームは海外出張が多いので、海外出張ができないことに論議もあったようですが、結果として、配慮していただけました」と近藤氏は語る。

時代の変化で、母も働きやすい企業風土に変化

個々に対応する配慮だけでなく、家庭と仕事を両立させる助けとなる制度もある。育児休暇だけでなく、家族の傷病にも対応できる休暇制度、充実した介護休暇制度も用意されている。また、在宅勤務を可能とするテレワークも2001年からトライアルを開始した後、2004年には全社展開した。

社会的な要請に早めに対応してきた日本オラクルだが、両氏が所属するコンサルティングサービス事業統括において利用しやすくなってきたのは近年のことだという。

「私が育児休暇をとったり、小さな子供を育てる中で早退が多かったりした頃は、肩身が狭いこともありました。それが制度ができたことで、今では自宅でも仕事ができるようになりました。働き続けることができてよかったと思っています」と、近藤氏は過去の体験を語る。

「在宅勤務制度の導入は早かったが、積極的に活用されるようになってきたのは、この2~3年のことではないか」と両氏は実感を語った。

「今では、部下に『続きは家でやります』と言われたら、『あとでメールを見て明日までに返事をください』と言うことができます。私も在宅勤務制度のおかげで、一定時間になったら帰宅して、家事をしてから夜に仕事をする、といったことをしており、母が働きやすい企業だと思っています。最近は、男性でも『保育園のお迎えがあるから帰ります』という光景も珍しくありません。変わりましたね」と村井氏。

家庭と仕事の両立に最も役立っているのは「在宅勤務制度」と2人は語るが、やはり制度が存在するだけでは難しいようだ。企業側が活用を推進すること、企業全体として制度があるだけでなく環境や雰囲気が制度を使いやすいものであることが重要になるということが、よくわかる。