今年、JR目黒駅前の目黒セントラルスクエアに新オフィスを開設したAmazon.co.jp。新オフィスでは、柔軟で幸せな働き方を実現することを目標として掲げているが、今回、アマゾンジャパンの社長を務めるジャスパー・チャン氏に、同社が目指している「働き方改革」について聞いた。

  • アマゾンジャパン 社長 ジャスパー・チャン氏

3つの柱から成るアマゾンの働き方改革

「アマゾンジャパンにとっての働き方改革とはどのようなものか?」と尋ねたところ、チャン氏は次のように語った。

「当社にとっての働き方改革の柱は3つある。1つは、社員の働きやすさをサポートする人事制度。フレックスタイム、出産後の女性社員の働き方、子どもが生まれた男性社員の働き方など、6000人の社員のさまざまな働きかをサポートする人事制度を整備する必要があると思っている。2つ目の柱は、社員のさまざまな働き方をサポートするオフィスの実現だ。フリーアドレスを含め、細かなニーズまで最大限に応えていく。3つ目の柱は、場所・時間・やり方にとらわれることなく、お客さまに貢献できる環境の実現だ。例えば、自宅でも自由に働けるよう、リモートワークが可能な環境を提供している」

同社は今年5月に新オフィスの開設を発表、9月19日にオープニングイベントを開催した。オフィスは、部署や役職を越えた会話やコラボレーションを生むための環境、社員の多様性を尊重するための環境が整備されている。

執務を行うスペースはフリーアドレス制となっており、1人で集中するためのスペース、少人数でミーティングを行うためのスペースなど、さまざまな用途が想定されたスペースが用意され、スペースに適した椅子や机が置かれていた。

また、多様性に対応する施設としては、ヨガルーム、ミュージックルーム、マッサージルーム、礼拝堂、搾乳室、休憩室などのファシリティが設けられている。オープニングイベントで「自宅やカフェで働いているような環境を実現した」という説明があったが、まんざら嘘でもない。

  • フリーアドレス制の執務スペース

  • キャッシュレスのカフェテリア

  • マッサージルームも本格的だ

社員のニーズを基に整備した新オフィス

こうしたさまざまな環境を用意するにあたり、チャン氏は「現在、当社では6000人の社員が働いているが、それぞれのニーズに沿った働き方をサポートするため、社員から収集したデータを分析した」と話す。つまり、「あったらよさそうな環境」を何となく整えたのではないというわけだ。ビッグデータでビジネスを変えてきたAmazonならではのやり方と言えよう。

では、6000人もの社員からどうやって彼らが抱えているニーズを吸い上げているのだろうか。チャン氏は、社員からデータを収集する仕掛けの1つとして、コネクションズを紹介した。

これは、全社員に対し、毎日質問1問を出し、オンラインで回答する仕組みだ。上司との関係など、日常生活にまつわるちょっとした質問が出されるため、気楽に回答できるという。1日1問といえど、それが毎日積み重なっているため、データの量は膨大だ。

なお、マネージャーはこのデータから得られたインサイトを知ることができ、チームの改善などに役立てることができるそうだ。

あわせて、チャン氏は「社員の働き方に対するニーズをつかむため、実際に社員の働き方をウォッチングすることも行っている」と話した。これにより、「このチームは小規模なミーティングができるスペースが必要」「あのチームは海外とのやり取りが頻繁に行われている」といった、チームごとの働き方の特徴がわかるそうだ。

チャン氏は「社員には、自分の好きな時間に好きなことをやりながら、仕事をやってもらいたい。だから、社員のニーズに少しでも応えることができる施設を提供していく」と話す。

お客さまのニーズに応えるように、社員のニーズに応えていく

「働き方改革」を進めていく上で、企業が抱えている課題の1つに「効果がわかりにくいこと」がある。働き方改革を推進すると、場合によっては、社員の評価の仕方を変更する必要がある。同社では、働き方改革の効果をどのように測定しているのだろうか。

チャン氏は、社員の評価について「成果、それよりも重要なのはリーダーシッププリンシプルに従っているどうかだ」と説明した。リーダーシッププリンシプルとは、Amazonの世界共通の求める人物像に関する信条だ。

Amazonでは、チームを持つマネージャーであるかどうかにかかわらず、全員がリーダーであるという考え方の下、社員一人ひとりが日々の活動において、常にリーダーシッププリンシプルに従って行動するよう心がけている。

リーダーシッププリンシプルは14の項目から成るが、チャン氏は「最も重要なものは『お客さまを大事にすること(Customer Obsession)』。リーダーシッププリンシプルに従う中で、正しく判断してもらいたい」と語る。

働き方改革の効果については、明確に測定することは考えていないようだ。「われわれのミッションはお客さまを大事にすること。それを実現するために、オフィスも含め、何が足りていないかを常に考えている」とチャン氏はいう。

なお、新オフィスに対する社員の評価は、先に紹介した「コネクションズ」によって、会社への満足度や働きやすさを調査することで把握することができる。

チャン氏は「われわれの取り組みはこれから。社員の働き方は時代とともに変わっていく。だから、常に社員の声に耳を傾けることを続け、そこから課題をつかみ、対応していく。お客さまのニーズに対応していくことと同じように、社員のニーズにも対応していく」と話す。

一昔前に、従業員満足度(Employee Satisfaction)という言葉が流行していたが、人材不足の深刻さを増す日本において、社員の働きやすさを追求していくことが、企業の持続と活性化に必要なのかもしれない。