iPhoneは過去に、iPod時代から使われてきた「Dock」コネクタから前出の「Lightning」コネクタに変更した経験がある。このときもiPhone用の周辺機器が使えなくなるという問題に直面したが、変換アダプタで一部の機器やケーブルは利用できたこと、iPhone周辺機器というマーケットの規模が大きく、すぐに代わりの対応製品が登場したことなどもあって、そこまで大きな混乱にはならなかった(まったく不満が出なかったわけではない)。

もしType-Cに変更される場合、ユーザーとしては割高なMFi対応ケーブルを買わずに済む。また、周辺機器メーカーもType-Cコネクタ1種類でiPhoneとAndroidに対応させられるわけで、開発や製造にかかるコストを削減できる。結果として市場全体が活性化することも期待できるだろう。変更のメリットは大きい。

このため、もしType-Cが採用されたとしても、互換性の問題などは出るだろうが、市場は案外早く受け入れるだろうと筆者は考えている。それよりも危惧しているのは、「Type-C」という規格自体が抱える汎用性の高さが仇となって、むしろ大きな混乱を招いてしまうことだ。

というのは、Type-Cコネクタを使っているケーブルには、ものすごくたくさんの種類があるのだ。前述したようにType-CコネクタだからといってUSB 3.1以上であるとは限らず、USB 2.0にしか対応していない製品やケーブルもあるのだ。またUSB 3.1対応でも、Gen1とGen2ではサポートする転送速度が2倍違うのだが、これをケーブルのみで見分ける方法はほとんどない(メーカーによってはコネクタにモールドで対応規格を印字している)。

また、USB PDについても、ケーブルによって供給できる電力に差があったり、そもそもeMarkerを搭載していないケーブルも多い。にも関わらず、「3AまでのサポートならeMarkerがなくてもUSB PD対応を名乗っていい」という特例もあり、これが話の複雑さに輪をかけてしまっている。スマートフォンの接続だけなら低めの電力プロファイルをサポートしていれば十分だが、さまざまな機器との接続がすべてType-Cになったときは、つなぐケーブルによって動いたり動かなかったり、といったことが発生してしまうわけだ。さらに充電される機器、または充電器の設計によっても、「低電力でも頑張って充電する」「電力が足りなければ容赦なく切り捨てる」などと対応が異なるケースがあり、もはや収集がつかない状態だ。

これまで、こうした互換性の問題はMFi認証によって防がれていたわけだが、Type-Cに変更されれば、汎用品の中からユーザーが試行錯誤で選んで購入するしかなくなる。ならばApple純正のケーブルを使っておけば…というわけにもいかない。実は、Apple自身が販売している「USB-C充電ケーブル(2m)」は、USB PDで87Wの充電も可能なケーブルだが、Thunderbolt 3ケーブルとしては動作しない。またMacBookに付属のケーブルはUSB PDでも低いプロファイルにしか対応していないため、MacBook Proで充電しようとしても電力が落ちてしまう。ケーブルの種類を識別できるような上級ユーザーはともかく、一般ユーザーには悪夢のような混乱を招くだけなのがUSB Type-Cの現状なのだ。

筆者はこれまでLightningケーブルの耐久性の低さには随分泣かされてきたので、Lightningが万能でベストだなどと擁護する気はさらさらないが、今回のニュースを聞いて真っ先に思ったのが、「よりによって変更する先があのType-Cかよ…」だというのが正直な気持ちだ。

ただし、例えばこれでAppleがUSB Type-Cケーブルに対してMFIのような「Apple製品対応」のお墨付きを与えてくれるようになるならば、品質も価格も対応規格もバラバラType-Cの混乱に秩序をもたらしてくれるかもしれない。ケーブルとしてはオーバースペックになるが、USB PD 100Wに対応し、Thunderbolt 3やHDMI、DisplayPortのオルタネートモードにも、USB 3.1 Gen2の高速転送モードにも対応した「全部盛り」のケーブルだけを認証してくれれば、ケーブルが原因のトラブルは急速に減るはずだ。現実的な線として、電源プロファイルに合わせてiPhone用とMac用の2種類を認証してくれてもいいだろう。

USBの世界は、救世主のはずだったType-Cがカオスの元凶になっているという皮肉な現状だが、iPhoneというマーケット全体に大きな影響を与えうるキラーアプリケーションのサポートによって改善しうるのか。大いに期待しながら来年の新型iPhoneの登場を待ちたい。