iOS 12の発表では、まず最初にスピードとレスポンスの向上を強くアピールした。アップグレード対応機種はiOS 11から変わらず、iPhone 5sやiPad Airのような古い機種もアップグレードできる。しかも、アップグレードによって古い機種の動作が重くなることはなく、全ての対応機種でパフォーマンスが向上する。
昨年12月に、古いiPhoneのバッテリー劣化対策でAppleがピーク性能を動的に抑えていたことが明らかになった時に、Appleが新しい機種への買い替えを促しているという批判の声が上がった。その際に同社は、ユーザーがデバイスをより長く快適に使用し続けられるよう努めていると応えた。その言葉が言い訳ではなかったことが、iOS 12の機種サポートと最適化に現れている。2013年に発売開始になったデバイスが今でも最新のOSにアップデートされ、しかもチューニングされるのだ。それだけで、これから数年使い続けるつもりでスマートフォンを探している人がiPhoneやiPadを選ぶ理由になる。
AR (拡張現実)については、ARプラットフォームが「ARKit 2」にアップグレードされるのがニュースだったが、ポイントはデモが「とても楽しそうだった」こと。冗談ではなく、そこが重要なのだ。
「(ARは) 人々を孤立させず、人々の活動を豊かにしてくれる」。
Appleの2017年7〜9月期決算発表のカファンレンスコールにおけるTime Cook氏のARに関するコメントだ。ゴーグルをかぶってVR (仮想現実)の世界に1人で浸るのは健康的とは言いがたく、現実逃避のような悪習慣につながる可能性も否めない。AppleはARの可能性を認めているからこそ、正しくテクノロジを導くことにこだわる。
それは分かるが、Appleが思い描くAR体験は本当に人々を熱中させられるのだろうか?そこが見えてこなかった。というのも、ARKit 1.0で認識できたのは平面のみ、今年初めに登場したARKit 1.5でようやく垂直面が加わった。ARKitでできることは、とても限られていた。
それがARKit 2で、立体の認識が可能になり、同じAR体験を複数で共有できる。Appleが思い描くみんなで楽しめるARが実現しやすくなる。
キーノートでは、テーブルの上にARで仮想的な積み木の建物を作り、ボールを撃って相手の積み木を倒すゲームがビデオで紹介された。また、LEGOがブロックで作った建物の周りに、ARで街を作ったり、キャラクターを追加して遊べる「LEGO AR City」のデモを披露した。ARKit 2対応で、マルチプレイで友だちと一緒に街を変えていける。すごく面白そうだ。
ARKit 2のタイミングで、iOSがAR/3Dオブジェクト向けの新しいオープンフォーマット「usdz」をサポートする。usdzは、メッセージやSafari、メール、Files、Newsなど、iOSのあらゆるところで利用できるようになる。アニ文字を使えるデバイスでは、ミー文字という自分のアバターになるアニ文字を作成できるようになる。そしてFaceTimeが最大32人のグループコミュニケーションに対応、FaceTimeにアニ文字やミー文字で参加することも可能だ。
キーノートを見ているだけでも、試してみたいと思うAR体験がたくさんあった。どれもが楽しそうで、それらはアプリ開発者を多いに刺激すると思う。ミー文字や、3Dオブジェクトの共有だけでも、iOSデバイスユーザーがARに興味を持つきっかけになるだろう。秋以降は、iPhoneやiPadを通じたAR体験の楽しさに多くの人が気づき始めるはずだ。