米Appleは6月4日 (現地時間)、同社の開発者カンファレンス「WWDC 18」で、iOSの次期メジャーアップグレード「iOS 12」を発表した。同日からApple Developerプログラムを通じて開発者向けプレビュー版の提供を開始、6月後半には一般ユーザーも参加できるパブリックベータ・プログラムをスタートさせる。正式版のリリースは今秋を予定している。

iOS 12を発表したWWDC 18のキーノートで、Appleは「ユーザー中心」を大きなテーマにしていた。iOS 12を一言で言い表すなら、ユーザー体験を向上させるアップデートになる。

iOS 12では動作とレスポンスを向上させるパフォーマンス強化が行われており、たとえばiPhone 6 Plusで、ロック画面から写真アプリへの移動が最大70%、重い作業中のアプリの起動が最大2倍高速になる。iOS 12のアップグレード対応機種は、iPhone 5s以降のiPhone、iPad Air、iPad Pro、iPad (第5世代/ 第6世代)、iPad mini 2以降のiPad mini、iPod touch (第6世代)など。 iOS 11からアップグレード対応機種が変わっていない。モバイルデバイスやPCのOSアップグレードでは、新しい機種で高速化しても、古い機種で動作が重くなることが珍しくない。だが、iOS 12は全ての機種への最適化が行われており、アップグレードによってiPhone 5sのような古い機種でもパフォーマンスの向上を得られるという。

  • iOS 12のアップグレード対応機種

    アップグレード対応機種はiOS 11と同じ、2018年に登場するであろう新製品を含む数多くのデバイスをサポート

  • スピードとレスポンスが向上

    しかも、サポートする全てのデバイスでパフォーマンスが向上する

他にも、モバイルデバイスの健全な利用をサポートする機能の強化、AR (拡張現実)フレームワークの新版「ARKit 2」のサポート、Safariのプラバシー保護の強化、Siriへのショートカット機能の追加などが行われ、いずれもユーザーの利用体験を向上させるものになっている。

スマートフォンの使いすぎを防ぐ

人々の暮らしにスマートフォンが欠かせない存在になる一方で、SNSアプリを頻繁にチェックしたり、スマートフォンが手元にないと不安になるというような、スマートフォン使用の悪習慣化も指摘されている。モバイルデバイスの使いすぎを防ぎ、健全に活用できるように、Appleは「Screen Time」というアクティビティ管理機能を用意した。アプリの使用時間やWebサイトの閲覧時間などを簡単に確認できるツールで、使いすぎないようにアプリごとの使用時間制限を設定することも可能。ペアレンタルコントロールと連動しており、保護者による子どものアクティビティ管理にも用いられる。

  • Screen Time

    1日または1週間にどのくらいの時間、どのようなアプリを使っていたか、簡単に把握できる「Screen Time」

  • アプリごとに1日の使用時間の制限を設定

    アプリごとに1日の使用時間の制限を設定

通知に邪魔されず、必要な通知のみを受け取れる環境を整えられるように、ロック画面から通知の管理を行えるようにした。不要な通知を受け取ったら、通知から設定を呼び出して「Deliver Quietly (静かに配信)」や「Turn Off.. (通知を無効)」などに変更できる。また、ロック画面が通知で埋め尽くされることなく、効率的に通知を処理できるように、同じ種類の通知をグループ化する新たな表示を導入した。

  • ロック画面から通知の表示設定を変更

    ロック画面から通知の表示設定を簡単に変更できる。邪魔な通知が表示されないように変更していくことで、必要な通知のみの環境を整えられる

  • 同じ種類の通知をスタック表示

    同じ種類の通知をスタックして、ロック画面が通知だらけになるのを防ぐ

さらにDo Not Disturb (おやすみ)機能を改善した。時間だけではなく、ロケーション機能を使って「会議室を離れたらDo Not Disturbを無効にする」など、柔軟な設定が可能。会議中、集中して作業したい時、就寝時間など、通知やメッセージ、通話などに邪魔されない時間をしっかりと作り出せる。

着々と向上するiOSのAR体験

iOS 12はPixarと共に開発した新しいAR/3Dオブジェクト向けのオープンフォーマット「usdz」をサポート、メッセージやSafari、メール、Files、Newsなど様々なアプリで利用できるようになる。

  • PixarのUniversal Scene Descriptionをベースにしたusdz

    PixarのUniversal Scene Descriptionをベースにしたusdzは、iOSのあらゆる場所にAR体験を広げる

ARKit 2では、3Dオブジェクトの検出、顔トラッキングなどが強化され、実世界の空間ともの、デジタルオブジェクトをより機能的に扱え、より実用的なARソリューションを可能にする。そうしたAR機能を示すアプリとして、実世界のものの長さを計測するARアプリ「Measure」を用意した。箱のような立体的なものでも、iPhoneやiPadのカメラを通して幅と奥行き、高さを簡単に計測できる。

  • WWDCのキーノートでデモが披露されたLEGOの「LEGO AR City」

    WWDCのキーノートでデモが披露されたLEGOの「LEGO AR City」、ARKit 2の3Dオブジェクト検出や共有体験を用いたアプリで、作成したLEGOの建物の周りにARで街を作ったり、キャラクターを追加して遊べる。マルチプレイも可能。

usdzサポートとARKit 2は秋に利用できるようになる予定で、対応機種はiPhone 6s以降のiPhoneとiPad Pro、第5世代/第6世代のiPadなど。

自分のアニ文字を作る「Memoji」

Safariのプライバシー保護機能は、トラッキング防止が強化される。共有ボタンやコメント・ウイジェットもデフォルトでブロック。Cookieなしでもユーザーを特定するFingerprintに対して、デバイスが特定しにくくなる対策を施す。

デジタルアシスタントのSiriがショートカット機能をサポートする。たとえば、出社時にアプリを通じて同じ飲み物を注文していたら、それを学んだSiriが、同じ状況において、いつもの飲み物をアプリで注文するアクションを提案したりサポートする。オーダーまでのショートカットになる。「Shortcuts」アプリを使って、ユーザーが音声コマンドとアクションを組み合わせたショートカットを作成することも可能。たとえば、家族にメッセージを送り、自宅のHomeKit対応の照明や空調をオンにするといったことを「家に帰る」の一言で済ませられる。

  • Siri Shortcutsのライブラリ

    Appleが買収したWorkflowを思い出させるSiri Shortcutsのライブラリ、時短ソリューションとして様々なショートカットが作られ、コミュニティで共有されそうだ。

コミュニケーション機能も強化点の1つだ。これまで1対1のコミュニケーションに限られていた「FaceTime」が、最大32人のグループコミュニケーションをサポートする (Group FaceTime)。メッセージと連動し、「メッセージ」のグループスレッドからGroup FaceTimeを開始することも可能。

  • 最大32人で会話できるGroup FaceTime

    最大32人で会話できるGroup FaceTime

Animoji (アニ文字)に、ゴースト、コアラ、タイガー、Tレックスといった新キャラクターが追加される。また、「Memoji」という人の顔のアニ文字をユーザーが作成できる機能が用意された。自分の顔に似せたMemojiを作れば、自分の分身をメッセージやFaceTimeで動かせる。

  • 新しいアニ文字の1つ、Tレックス

    新しいアニ文字の1つ、Tレックス

  • 「Miimoji」の作成画面

    自分のアバターとなるアニ文字「Miimoji」の作成画面

「写真」アプリはメモリーや共有といったパーソナルな機能が「For You」タブにまとめられた。最近のイベント、ピープル、場所などから効率的に写真を検索でき、Siriの提案機能でより簡単に写真を共有できる。

標準アプリのアップデートには、いくかのユーザー待望の機能が含まれる。まず、iPad版の「株価」アプリと「ボイスメモ」。これらは新デザインに刷新され、ボイスメモはiCloud同期をサポートする。「CarPlay」がサードパーティのナビゲーション・アプリをサポートする。GoogleマップやWazeなどをCarPlayで利用できるようになるかもしれない。「iBooks」の名称が「Apple Books」に変更され、ストア専用のタブを持つ新デザインに変わった。App StoreやiTunesに比べて弱かったコンテンツとユーザーを結びつける仕組みが見直される。

  • 「iBooks」が「Apple Books」に

    「iBooks」が「Apple Books」に名称変更、より"発見"を重んじたデザインに