富士通が、PC事業の分離を検討していることが明らかになったのは、2015年12月のことだ。

■新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦
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当初は、東芝のPC事業、ソニーから分離したVAIOとともに、富士通のPC事業を統合。日の丸連合として、PC事業を再スタートするという構想が浮上していた。

東芝は、経営の屋台骨を揺るがすきっかけとなった、不正会計処理問題の舞台がPC事業だ。PC事業の収益性が悪化しているという理由とともに、退任を余儀なくされた歴代3社長のうち、2人の社長が関わったPC事業を分離することが得策と判断した。

一方でVAIOは、収益悪化のなかで再建を目指していたソニーがいち早くPC事業の分離を決定。日本産業パートナーズ(JIP)が出資し、独立体制で再生に向けたスタートを切っていたところであり、経営統合という選択肢にも自由度が生まれていたといえる。

富士通においても、2015年6月に社長に就任した田中達也社長が、「つながるサービス」にリソースを集中させることを示すとともに、PC事業は富士通にとってノンコア事業であることを宣言。市場環境の変化を受けやすいPC事業の分離を検討していた。

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【2】

    富士通クライアントコンピューティングの本社が入る富士通川崎工場

だが、この構想は残念ながら破綻することになる。

東芝は、PC事業を分離しながらも自主再建を目指し、VAIOも独立性を強めながら独自路線での製品展開を行っていった。しかし、富士通だけは、あくまでもPC事業を本体から切り離すことを前提とする姿勢は崩さなかった。

このとき、富士通の田中社長は、「PCや携帯電話のような、機動性が求められる事業は独立させ、単独でも競争に勝ち抜ける製品開発と、ビジネス展開を目指すことが大切。経営判断を迅速化し、子会社は独立した事業として確実な利益体質と成長を目指すことにした。これにより、これまで以上に競争力のある新商品を、タイムリーに市場に提供していくことになる」と語った。

営業利益率10%の目標達成には、PC事業の分離が不可避?

それとは別に、もうひとつの経営判断があったといえる。それは、田中社長が掲げた営業利益率10%の目標達成には、PC事業の分離が不可避であったことだ。田中社長は、社長在任期間中に、営業利益率10%以上を目指すとしていた。社長在任期間は明確には示されてはいないが、前任のPC事業出身の山本正已会長が5年間の社長在任期間だったことに当てはめると、2020年度がひとつの目安になると考えられた。

  • 新生・富士通クライアントコンピューティングの挑戦【2】

    富士通 代表取締役社長 田中達也氏

田中社長が就任する直前の2014年度の連結業績では、富士通の営業利益率は3.8%。田中社長が掲げた10%という数字は、はるか遠くに見えた。だが、ここからPCおよび携帯電話によって構成されるユビキタスソリューションを除くと、2014年度実績の営業利益率は6.7%へと一気に高まる。PC事業および携帯電話事業の切り離しが、営業利益率10%の達成に向けた重要な判断であったことがわかる。

そして、ユビキタスソリューションの売り上げ構成比は、全社売上高の約15%。PCおよび携帯電話事業を分離しても、85%の売上高を維持したまま、営業利益率10%に向けた道筋を描けるというわけだ。

このとき田中社長は、富士通のPC事業には、甘えの構造があることを指摘していた。「富士通の事業体制は垂直統合となっている。この仕組みのなかでは、甘えの構造が生まれやすい。たとえば、ひとつの事業の調子が悪くても、全体として儲かっていればいいということになりやすい。PC事業には甘えの構造があり、黒字と赤字を行ったり来たりしている」と語っていた。

2014年3月のWindows XPサポート終了に伴う特需によって、2013年度のPC事業は大幅な成長を見せたが、2014年度になるとその反動で、出荷台数は2割減少。それでも為替のプラス影響で黒字化を達成した。だが、これは裏を返せば為替の影響を受けやすい事業体質であるともいえ、マイナス影響を受ければ赤字転落に直結する可能性が高い。営業利益率の向上を目指す経営戦略のなかでは、安定性に欠けるPC事業は切り離したいというのが本音だっただろう。