カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、二次元薄膜の超格子構造を効率よく形成する新手法を開発したと発表した。二次元薄膜を重ねて超格子を形成する場合、従来は原子構造の似通った薄膜しか重ねられなかったが、今回の手法では原子構造、特性、機能のまったく異なる薄膜を重ねることができ、これまで得られなかった新規な超格子構造を形成することができるという。研究論文は科学誌「Nature」に掲載された

  • 新手法で形成した超格子構造のイメージ。

    新手法で形成した超格子構造のイメージ。左は二硫化モリブデン薄膜、右は黒リン薄膜で、それぞれ層間にアンモニウム分子が挿入されている (出所:UCLA)

性質が大きく異なる薄膜材料同士を重ねた超格子構造を形成できるため、たとえば一方の層だけを電子が高速で移動できる導体とし、他方の層は電気を通さない絶縁体とするなど、さまざまな機能をもたせることが可能になると考えられる。トランジスタなどの電子デバイス、LEDやレーザーなどのオプトエレクトロニクスなど、幅広い分野への応用が期待できるとする。

新手法の特徴は、二次元薄膜の層間にさまざまなサイズと形状の分子を挿入するところにあり、分子間に働くファンデルワールス力を利用して超格子構造を形成する。このため同手法で形成した超格子は「単層原子結晶分子超格子(monolayer atomic crystal molecular superlattices)」と名づけられている。

研究チームは、黒リンの二次元薄膜にマイナス電圧をかけて負電荷をもたせ、そこに正電荷をもたせたアンモニウム分子を導入した。アンモニウム分子は自発的に黒リン二次元薄膜の層間に入り込んで、結晶構造の揃った薄膜層を形成。ファンデルワールス力で結びついた超格子構造が形成された。

アンモニウム分子のサイズをさまざまに変化させた場合にも同様のプロセスで超格子が形成できる。ベースとなる二次元薄膜材料についても、黒リン以外に二硫化モリブデン(MoS2)、二セレン化タングステン(WSe2)などで実証されている。

論文によると、今回の手法による超格子を用いて形成したトランジスタにおいて、電流オン/オフ比107かつ良好な電子移動度と安定性が得られたと報告されている。

原子層堆積法(ALD)や化学的気相成長法(CVD)といった従来の手法で薄膜を多層積層した超格子構造をつくるのは時間と手間のかかる作業だったが、今回の手法を用いると二次元薄膜の多層積層を高速・高効率に行えるという利点もあるという。